Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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 LOLLI-POP CANDY

 
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LOLLI -POP CANDY
<<Part:7>>


「はあい、オスカー!今日は早いわねえ」
艶やかな衣装のオリヴィエがオスカーの執務室を訪れたのはそのときだった。
来やがったなこの極楽トンボ!
オスカーは、上機嫌で机にもたれかかるオリヴィエを無言で睨み付けた。夢の守護聖はそれにすらにっこり笑いかえしている。
今日は、オスカーにとっては屈辱の日であるがオリヴィエには御機嫌な日なのである。
「さあ、早いトコジュリアスん所に行きましょうよ〜。善は急げってね」
「……」
はあ、とオスカーは力ない息をもらした。


普段より早めに執務室についたオスカーは、その椅子に腰かけ長い足を組む。今日まで何度もシミュレーションしてきた。
あの方の反応の示し方はよく知っているつもりだ。話の流れを押さえてしまえばシミュレーション通りに事は進むだろう。
だが、今までそれを実行することを押さえていた。あの光の守護聖が、オスカーの[この訴え]を許可するとは思えなかったからである。
時期を見て、その時がきたら、とじっくり構えていたのだが、状況は一変した。
昨日の茶会の一件である。(Part:6参照(笑)よりによって守護聖全員が参加した茶会で、アンジェリークが泣いたのを、皆が見ている。
今からオスカーが守護聖首座に訴えようとしていることを、他の守護聖が考えないという保証はない。
邪魔者はオリヴィエだけで十分だ。
オスカーは髪をかきあげ溜息を付いた。
あの性悪極楽鳥め。
今までオスカーがこのことをジュリアスに提案しなかったのにはもちろん時期尚早ということもあったが、オリヴィエというたかり屋の邪魔が入ったからなのである。
『あのこと』を知られてからというもの、オリヴィエは人の悪い笑みを浮かべてオスカーの行く先々に表れた。
いかにも何か企んでいるという顔で笑いかけては去っていくのである。顔は笑っていても目が怨念を宿していて、さすがのオスカーも警戒心を呼び起こさずにはいられなかった。
「言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ!」
いつまでもはっきりしない態度で周辺をウロつかれる異様な事態にケリをつけるため、オスカーが意を決して詰め寄ったとき、オリヴィエは満面の笑みに青筋を浮かべながらこう言ってきた。
「あ〜ら、そう?じゃあ、言っちゃおうかしら。言ってもいいっていうなら、聖地中にふれまわるわよお?誰のおかげで『あのこと』がジュリアスの耳に入らずに済んでるのか、アンタがわきまえた上でそんな事言うんならねぇ?」
あのこと。
オスカーの首を絞める、呪文である。
女性との浮き名なら流しまくっているオスカーである。些細な噂にはびくともしないし、いちいち取り合っていたらそれだけで人生を終わらせる可能性がある。脅しにはのらない。それに、これだけ年期と気合いが入っていれば、騒ぎを起こすような不手際をするはずもないオスカーである。
長いつきあいのオリヴィエがそれを知らないはずはない。それでも脅しめいた取り引きを持ちかけてくるのは、極上のネタを掴んでいるからだ。
あのこと。
ちいさなアンジェリークを自分の館に連れ込んだことを言っているのだ。(Part:3参照)よりによってアンジェリークの口からオリヴィエにそれが告げられてしまうとは、オスカーも不運だとしか言い様がない。(Part:5参照)
連れ込んだなんて人聞きの悪い。寂しくて泣いている女の子を慰めて何が問題なんだ?放っとけないだろう、とオスカーが呆れてそう言い返すと、オリヴィエは、はまったな、という顔で笑ったものだ。
アンタ、他の女もそういう理由で連れ込んでるくせに。よくそんなこと大声で言えるわねえ。
そこで言葉につまったのがいけなかった。
やはり日頃の行いは慎むべきだ、とオスカーはしみじみと思ったものである。
オリヴィエはこのことを効果的にジュリアスに報告するだろう。とんでもないハプニングがあったとはいえ、女王試験は未だに続行されている。中立を旨とすべき守護聖が、女王候補を私邸に連れ込んで一泊させるなど女王試験を妨害する行為と、
ジュリアスならば激怒するだろう。他の守護聖がこの話を聞けば、もっと俗っぽい視点でオスカーを非難することになるだろう。
別にそれは苦にはならない。
変な下心があってした訳ではないし、言いたい奴には言わせておけばいいのだ。しかし、オスカーが恐れているのはその後。
オスカーからアンジェリークを取り上げる。守護聖たちはきっと、似たような行動に出るだろう。
もしそうなったら。
それだけは、耐えられそうもない。
オスカーは、あのちいさなアンジェリークのはにかんだ笑顔が好きだし、抱き上げたときに自分のマントをぎゅっと握ってくる柔らかい手が好きだ。小さな声で内緒話をするような、耳にくすぐったい声も、細い細い髪も。
おすかーさまあ、とかけてきては、オスカーのブーツの膝に抱き着いてくるアンジェリークを取り上げられることが、オスカーは恐かったのだ。


「アンジェリークを預かる?」
ジュリアスは書類から顔を上げて言った。
オリヴィエがうんうんと頷いているのに蹴りを入れたいのをぐっとこらえて、オスカーも頷きを返す。
「昨日の茶会で、ジュリアス様もお分かりになったのではないかと思いますが、アンジェリークの精神は現在、大変不安定です。事が事ですから仕方ないのですが、ちいさな彼女は女王候補としての覚悟がないままです。お嬢ちゃんにしてみれば、現在の状況は聖地に拉致されたも同然と言えるでしょう。女王試験を続けるのも苦痛であると思います」
そうそう、とオリヴィエが真面目な顔で頷く。オスカーはそれを横目で見ながら、拳を握りしめた。こいつ、いつか絶対殴る。
「加えて、女王候補としての素質が生まれながらにして備わっているのか、成長過程において育まれるものなのか未だはっきりしていません。もし後者だとした場合、心理学的見地から言って、現在の精神状態を長びかせて幼い心に傷を残してしまうとその後の成長過程に変化が現れるのは必至、彼女の女王候補としての素質さえ奪いかねません。新宇宙にも多大な影響を及ぼす恐れがあります」
「そそ。だからね、寂しい〜ってアンジェリークが泣くことのないように、わたしとオスカーがアンジェの面倒を全面的に買って出ようってわけなのよ。どう?」
オスカーがオリヴィエと取り引きしたものは、これだったのだ。
オリヴィエは一切、オスカーのアンジェリーク連れ込み事件を他言しない。
その見返りとして、オスカーがかねてから計画していた「アンジェリーク引き取り役」が認証された場合、その権利をオリヴィエと分配すること。
オスカーとしては小さなアンジェリークを独占できるチャンスを失うことになる。しかし、信用を失ってアンジェとの接点をすべて失うよりは、と妥協した結果だった。
「アンジェリークは幸い、わたしらになついてくれてるし、彼女がいつもとのアンジェに戻るかわかんない訳じゃない?ひょっとしたらずっとこのままで、ここで大きくなるのかもしれない。何年もかけて、17歳になるまで一からやり直しかもしれないでしょ?予測がつかないんだから、あの子にはちゃんとした環境を与えてあげるべきだと思うの。腰かけじゃない、きちんと愛情をもって面倒みてあげられる人がね。どうかな?」
ジュリアスは書類を机において、指を組んだ。
「そなたたちの言うことはもっともだ。女王陛下に許可を頂けるよう申し上げておくとしよう」
やった!とオリヴィエが指をならした。オスカーも半ば信じられない思いで肩の力を抜いた。
以前のジュリアスならば、一蹴されるような話である。やはり、昨日の一件がこたえているのだろう。確かにあんな風に腕の中で泣かれたら堪らないものがある。
「しかし、アンジェリークは皆からよほど可愛がられているようだな。昨夜も同じことをランディたちが言ってきた」
「…は?」
「わざわざ私の屋敷まで来てな。リュミエールも早朝、館に来て同じ様に訴えていた。そなたらが来るまでは、ルヴァも来ていたのだ。皆、自分が面倒を見ると言ってな」
「…」
ジュリアスは穏やかに笑みを浮かべて、複雑な表情をして立ち尽くしている二人を見た。
「ここは恐らく、陛下から正式なご判断があるまでは我ら守護聖全員でアンジェリークの面倒を見ることになろう。それでよいな?」
「はあ…」
「うん…まあ」
では、そういうことだ、とジュリアスは笑んで、再び書類に目を落とす。
残されたオスカーとオリヴィエは魂が半分抜け出たような状態で、ふらふらと部屋を出ていった。
なんということ。
自分達は遅すぎたのだ。
扉を閉めてから、オスカーとオリヴィエは向き合い、互いの胸ぐらを掴みあって大騒ぎを起こした。


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