Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
12Kingdom
OgreBattle
Mobile sutie Gundam
finalFantasy
Shortstory
 SPY
 笑顔のゆくえ
 LOLLI-POP CANDY

 
 剣とお嬢さん
 ワインとお嬢さん
 目覚めの君
 つぼみ
 先生
 いつの日か君のとなりに
 羽化
 嘘とお嬢さん
Illustrator
 
Attraction
 カトチャでGO!
 御覧あれ!


LOLLI-POP CANDY
<<Part:3>>


聖地は今日、めずらしく雨が降っている。
細かい絹糸をばらまいたような雨が、しっとりとあたりを濡らして、いつもの鮮やかな色彩の庭園を、光降る森を、落ち着いた色にぬりかえていた。
オスカーは馬の足を速める。
今日は先週出会ったばかりの女性と遠乗りに出かけていたのだが、予期せぬ雨で早々に切り上げるはめになってしまった。
この雨を理由にそのまま相手の部屋になだれ込むことも考えたが、雨の日は暇をもてあます輩が執務室を出入りする。やはり、さぼりが公になるのはオスカーとて避けたいところである。
まあ、雨を庇うと称してマントの中で抱けただけよしとするか。
一度館へ戻り、衣服を改めた上で宮殿に戻るとしよう。
オスカーは雨で下がってきた前髪をかきあげ、ふと、視界の端に異様な物体を捕らえた。
墨ではいたようにくすんだ風景の中に、遠く一点、鮮やかな緑色のつるつるとした質感の物体が、地面の上をもぞもぞと動いている。
オスカーはぎょっとして、思わず強く手綱を引いてしまった。
愛馬が鋭くいなないて、その物体がその声に反応するようこちらを向いた。
「…お嬢ちゃん!?」

アンジェリークが、おすかーさまぁと、手を振っている。
オスカーが慌てて彼女の側までいく間、アンジェリークは構わず水たまりの中で長靴をぱしゃぱしゃといわせて遊んでいた。
「お嬢ちゃん、何やってるんだこんな所で!」
アンジェリークは顔を少し赤らめて、にこにことオスカーを見上げる。
「かえるさん!」
「あ?」
遠くから見えた緑色のつるつるは、アンジェリークの着込んでいたレインコートだったのだ。ぶかぶかとしたフードの頭には、大きな目がくっついている。なるほど、カエルに見える。
緑のコートに、おそろいの緑の長靴を履いて、アンジェリークは御機嫌である。ぱしゃぱしゃと水をはねあげ、躊躇なく水の中にしゃがみ込んでは、ちいさな手で水をかきまぜる。再び水遊びに没頭していく彼女をしばし呆然と眺めて、はっと我にかえる。
「駄目だお嬢ちゃん!そんなことしたら風邪をひくだろう!?」
慌ててオスカーはアンジェリークを抱き上げる。その拍子にレインコートのフードがぬげて、栗色の髪があらわれた。
「…お風邪ないって、るばさまいってたもん」
簡単に腕一本に乗ってしまうアンジェリークがほっぺたをふくらませて言う。普段はおとなしい彼女がめずらしく自分の意見を強く主張する。それが、水遊びに対してだということが、オスカーにはおかしい。
オスカーは笑みを浮かべて、ふくらんだほっぺたにキスをする。これが同じ人間の肌なのか、と思う程やわらかい。
いつまでも触れていたいと思ってしまう。
「確かに聖地にはウイルス性の風邪はないが、いいか、お嬢ちゃん?」
そう言って、片手でアンジェリークの赤くなったもみじの手を包み、アンジェリークの瞳を見つめる。
「ほら、こんなに冷たくなっちまってる。こんなふうにしてたら、やっぱり風邪をひくんだぜ?」
掌の中で、アンジェリークの小さな手が動いた。
オスカーの腕の中で俯いて黙り込むその華奢なまつげが、森の湖の色をした瞳に影を落とす。その必要も無いのに、オスカーは不覚にもどきりとする。内心の焦りを繕うように、慣れた仕種で、雨に濡れて束になってしまった髪にオスカーはもう一度静かに唇を寄せた。
「さ…お嬢ちゃん、わかったらもうお部屋に帰ろう。送ってってやるから」
「やだ」
アンジェリークは俯いたまま、ぷるぷると頭をふる。
「お嬢ちゃん」
オスカーは少し怒ったような声をだしてみせた。アンジェリークは怯えたような顔をしたが、それでも顔をふる。
「…いやだもん。帰んないもん」
唇を噛んで、何かを堪えるようにして、アンジェリークは頑なに首を振る。
「お部屋にかえってもつまんないもん。あんじぇ、ひとりだもん」
そこまで聞いて、やっとオスカーはこの小さな少女が寂しがっていることに気付いた。
彼女はかつての彼女じゃない。それなりに覚悟をきめて、心の準備をして聖地に召喚されたアンジェリークではなく、この腕の中にいるアンジェリークは、目が覚めたら訳の解らない場所にひとりきりだったのだ。
彼女には世話係が配置され、不自由のないよう付きっきりの世話を受けているとはいえ、やはり親元を離れていることを忘れることはできないのだろう。
声を殺して泣くアンジェリークを、オスカーはやさしく抱き締めた。
そっと髪を撫でてやると、オスカーの首元に頭を埋め、ぎゅっとマントを握り締めてくる。さみしくて泣く愛おしい子を、オスカーは目を閉じてずっと髪を梳いていた。

「へっくち」
「…ほら、くしゃみだ」
オスカーがくつくつと笑うと、アンジェリークははずかしそうに顔を染めた。
赤い手で目を擦るアンジェリークの手をそっと取って、涙に濡れた睫にいくつもいくつもキスを送りながら、オスカーは愛馬に向かって歩く。
「部屋に帰るのが嫌なら、俺の屋敷に来るか?お嬢ちゃんが熱でも出したら、俺がまわりの奴等に半殺しにされちまうからな。とにかく早いとこ暖かくしないと」
オスカーの上着をきゅっと握って、アンジェリークはちいさく頷き、
「いっしょにお風呂はいる?」
と、オスカーが思わず足を滑らすようなことを言ったのだった。


オスカー様とお風呂も見てみたい?
<<おまけ>>


PageTop
前へ 次へ
   
Shangri-La | index Angelique | index