Shangri-La | angelique
  
 
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 LOLLI-POP CANDY

 
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 御覧あれ!


LOLLI-POP CANDY
<<Part:6>>


聖地の面々は、いつものように自然に集まって来てお茶会を設けていた。
本日の主催者は地の守護聖ルヴァ。参加者は、執務室に遊びに来ていた少年三人組と、中堅三人組、珍しく揃った守護聖首座とその相対する者。守護聖全員が一同に会するのは、大変珍しいと言える。
大きな丸テーブルを囲み、それぞれが好きな場所に腰掛ける。
しかし、一番人気は、ちいさな女王候補の両サイドだ。
アンジェリークの為に用意された足の高い椅子をテーブルに据えると、そこを中心に席が埋まっていく。
本日の幸運な者はジュリアスとオスカーであった。他の茶会ならば必ずジュリアスの次席につくオスカーであるが、今日ばかりは勝手が違う。例え尊敬する守護聖が相手でも、譲れないこともあるのだ。
「どうぞ、アンジェリーク。熱いから気をつけるのですよ」
「はい…」
リュミエールによって、アンジェリークの前にちいさな白いカップとちいさなポットが二つ置かれる。ひとつはダージリンティー、もうひとつはそれを薄めるためのお湯が入っている。
アンジェリークはお茶会が好きらしい。きらきら輝く銀のスプーンやケーキサーバーも彼女のお気に入りだし、テーブルセッティングの様子から、お茶の蒸らし方といった裏方の作業まで、お茶会の準備をするルヴァやリュミエールの後ろをぱたぱたとついて回っては、瞳を輝かせて見ていたりするのだ。
しかし、今日のアンジェリークはどこか元気がない。配られた桃のケーキにも一瞬明るい表情を見せただけで、今はじっと、自分の膝のあたりを眺めている。
「どうした、アンジェリーク?元気がないようだが」
エスプレッソを受け取りながら、ジュリアスが言った。アンジェリークは隣のジュリアスをぼんやり見上げる。
「お嬢ちゃんは桃は嫌いだったか?」
そう言って、オスカーがアンジェリークの額に触れる。子供は突然発熱すると聞いた事があるが、熱はないようだった。
「そのお洋服、気に入らないのかな?」
オリヴィエがにっこり笑って聞く。女の子は洋服が決まらなくて一日不機嫌になることもある。
「アンジェ、疲れちゃった?今朝、一緒に遊んだから…」
向いの席でマルセルが眉をよせる。甘えん坊で通っていたマルセルも、ちいさな妹のようなアンジェには頼れる兄でいたいと思っているらしく、よく面倒を見ていた。
アンジェリークは口を噤んでただ首を振った。そして、また俯く。
栗色の髪がやわらかな頬に影をつくる。いつもならばはにかみながら見せてくれる笑顔も、浮かんではこなかった。
テーブルを囲んでいる守護聖たちは、お互いの顔を見合ってから、愛しい子を心配そうに見つめた。
アンジェは力なく首をもたげて、再びジュリアスを見上げた。
「じゅりあすさま」
ジュリアスはアンジェリークを優しく見つめ、頷く。何か我慢している子供が、怖がることのないように、頷くことでその先をうながした。
アンジェリークはまた少し顔を上げ、小さな声で言った。
「あんじぇ、悪いこ…?」

意外な言葉に、ジュリアスは眉をひそめる。
同席している守護聖たちも、思わず顔を見合わせた。
アンジェリークは、その反応を悪い方に取ったらしい。
たちまち顔をくしゃくしゃにして泣きだしてしまった。
「違うのだ、アンジェリーク!」
慌てたのはジュリアスである。
指先を真っ赤にして泣き声をあげているアンジェリークを咄嗟に抱き上げた。
アンジェリークを抱き上げるのはこれで二度目。はじめてこの小さな女の子を抱き上げた時に感じた思いがゆっくりと蘇ってくる。
小さな体の熱、重さを、ジュリアスは確かに愛おしいと思った。
守ってやらなければ、と。
そのアンジェリークが腕の中でぐしゅぐしゅと泣いているのを、ジュリアスは切ないような思いで聞いていた。
そっと抱き締め、耳もとで囁く。涙が止まるように、やさしく言い聞かせる。
「アンジェリーク、そなたは悪い子などではない。育成も、学習も、毎日がんばっている。この間は、新しい星が生まれたであろう?」
肩にしがみついていたアンジェリークがちょっと顔をあげる。
「…みずいろのお星さま…」
ランディの星だ。風の守護聖はやさしい笑顔で、アンジェリークに手をふる。
長いまつげが涙に濡れて束になっている。ジュリアスは、そっと唇をあてて、アンジェリークの瞳を見つめた。
「皆も知っている。そなたがきちんと約束を守っていることも、食事も好き嫌いを言わないことも。育成も学習もしている。そなたが悪い子なはずがないだろう? …だから、泣くことはない」
「でも」
アンジェリークはジュリアスの青い瞳を真直ぐに見つめて、必死に訴えてきた。
「あんじぇ、おいのりの滝でおいのりしたもん、会いたいですって。ろざりあさまがね、良いこにしてたらね、おねがいがかなうって…でも」
祈りの滝!?
守護聖たちは、雷に打たれたように固まった。
こんな小さなアンジェリークには、すでに会いたいと恋願う相手がいるのか。
誰だ!?
丸いテーブルで冷たい戦争がひき起こされる。
惑星ができたランディか?それともこうして話をしているジュリアスか?
しかし、ちいさなアンジェリークを騙くらかしそうなのは、と鋭い視線が集中している先はオスカーだった。
俺じゃないぞ!!とオスカーが叫んでいる。
にわかに騒がしくなった一同に構わず、ジュリアスはアンジェリークがまだ吐き出していない大切な言葉を待った。
ジュリアスの視線に勇気付けられたように、アンジェはついに、口にした。
「…でも、きてくれないもん。あんじぇがわるいこだから、パパとママ、きてくれないの…!」
ジュリアスは悲痛な叫びを聞いた気がした。
己の幼い頃の記憶が、一瞬だけ脳裏を過る。
アンジェリークが寂しがっていると報告を受けてから、自分は行動を起こしたか?否…!
ジュリアスは己のふがいなさに唇をかんだ。
幼いアンジェリークは、ここが聖地という特別な場所で、両親が会いにくることのかなわぬ場所だということを理解していないだろう。自分が悪い子だから会いに来てくれないのだ、と自分を責めただろう。
親に会えない悲しみと、自分の力のなさを責めて、この幼い魂はどれだけ傷ついただろう。こうして彼女を泣かせているのは、自分ではないのか。
「すまぬ…アンジェリーク」
ジュリアスは、再び火を付けたように泣きだしたアンジェリークを強く抱き締め、髪に顔を埋めた。
「アンジェリーク、よく聞くのだ。そなたの両親が来ないのはそなたのせいではない…その、父上も母上も、少し忙しいのだそうだ」
激しくしゃくり上げていたアンジェリークは、そっと、伺うように頭を上げた。
いかにもの嘘をつくのは気がひけるが仕方ない。
ジュリアスは頷いて、赤い頬につたう涙を指でぬぐってやる。
「そのかわりアンジェリーク、そなたが滝に祈るときは必ず、父上と母上にかわって我々がそなたに会いに行く。必ず、そなたを迎えに来よう…それでは駄目か…?」
自分の涙で濡れてしまった小さな手のひらを、涙をぬぐってくれるジュリアスの手に添えて、アンジェリークは首を縮こませて言った。
「…ほんと…?」
「勿論だ。そうだな、皆?」
ジュリアスは穏やかな微笑を浮かべて、周りの同士達に目をやる。守護聖は皆、暖かい顔で頷いた。
アンジェリークの顔に、やっと、全員が待ち望んでいたはにかんだ笑顔が浮かんだ。思わず拍手する者、口笛を吹く者もいた。
アンジェリークは、皆の前で泣いたことが今さらの様に恥ずかしく思えたのか、顔を赤くしてジュリアスにしがみついた。
ジュリアスは小さな子の髪を撫でると、そっと、椅子に戻してやる。
「さてお嬢ちゃん、元気になったところでお茶はいかがかな」
「のむ!」
オスカーはくすと笑いながら、アンジェリークの白いカップにダージリンのお茶を少しと、お湯を多めに注いでやる。
「熱いから、ちゃんと冷まして飲むのだぞ」
「はい!」
ちいさな女のこはあぶなかしい手付きでティーカップを持ち上げると、頬を丸く膨らませて、ふう、ふうとふきだした。
ジュリアスは穏やかな顔で、そんな様子を見つめる。
この子がいつも笑顔でいられるなら、どんなことでもしてやりたい。
そう思って彼女を見つめると、アンジェリークも、にこりと笑い返してきた。
さざめくような笑いが、聖地の庭に溢れた。

このことがあってからというもの、用もないのに森の湖のあたりをうろつく守護聖が増え、執務に障りが生じたが、守護聖首座はそれを黙認しつづけたという…。


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