Shangri-La | angelique
  
 
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 LOLLI-POP CANDY

 
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LOLLI-POP CANDY
<<Part:5>>


「あっらー、アンジェリーク!ひょっとして、私にご用事かな?」
執務室の扉の前でドアノブをじーっと見上げている女の子に、オリヴィエが声をかける。振り向いたアンジェリークは、顔を赤らめて、にこっと笑った。
「おはようございます、おりびえさま」
舌ったらずな声で言ってスカートの端をちょっと摘まみ上げ、時代がかった礼をした。ちいさな子供のかわいらしい動きは、オリヴィエのお気に入りだ。アンジェリークを抱き上げ、色付いた彼女の頬に軽いキスをする。
「ん、今朝もかわいいねアンジェリーク。今日はオリヴィエおにーさんに、何のお願いかな?」
「あんじぇね、おはなしに来たの。おはなしするの」
オリヴィエの首に柔らかな腕で抱き着き、アンジェリークははにかみながら華やかな守護聖の瞳をじっと見つめた。
オスカーじゃないけど、目で殺すって、こういうことよねぇ。
生まれたままの汚れを知らない瞳に、長いまつげがほんのりと影をつくる。
いつも潤んだような目をしているのに、大人の女の媚びとは明らかに違う。
無条件で守ってあげたいと思わせる、子供にだけ与えられた特別な魅力。
たまんないわねぇ、と笑いながら扉を開けた。

オリヴィエは今やアンジェリーク専属のスタイリストだ。
小さなアンジェリークがはじめてお披露目された時から、それは始まった。
「うーん、いくらなんでもこれじゃあ可哀相よね」
あのとき、アンジェリークはパジャマにくるまれて登場した。17歳のアンジェリークがそれを着て寝て、朝になったらパジャマの上着がぶかぶかのドレスのようになってしまっていた。襟刳りが彼女には大きすぎて、片方の肩がすっぽり抜けていたほどだ。
ちょっと待ってて、とオリヴィエが部屋を抜け出し、戻ってきたときには、ピンクのもこもこしたものを小わきに抱えていた。
「あんまり可愛いから買っちゃったんだよねー。今思うと正解だったわ」
じゃーん、と自信満々で皆の前に広げたのは、ピンクのボアで出来た、子供サイズのうさぎのつなぎ。フードには長いうさぎの耳、御丁寧にまるいしっぽと、首元には真っ白の蝶ネクタイが付いている。
オリヴィエはいそいそとアンジェリークを連れて着替えさせたものだ。アンジェリークがその姿で女王陛下の前に連れ出され、陛下から絶賛されたのは皆の記憶にも新しい。
それからというもの、オリヴィエの創作意欲はとどまる事を知らない。
今アンジェリークが着ているのは、スモルニィ女学院高等部の制服を彼女サイズになおしたものだし、休日用の私服のほとんどは彼が作ったものばかりだ。
現在はというと、密かにニットのタイトなロングワンピースを編んでいるところである。

執務室に入り、アンジェリークを膝に抱いたまま椅子に座る。
アンジェリークはオリヴィエの長い髪をいじって、毛先だけ三つ編みをはじめた。ちょっと編んでは、すぐ違う髪に手をつける。
おかげでオリヴィエはなんとも奇妙な頭になりつつある。
「こら!何してんの」
そう言うオリヴィエの顔は笑っている。アンジェリークはぱっと手を体の後ろに隠して、へへぇ、と笑った。
ミルクの匂いのしそうな頬が、笑顔になるたびに赤く染まる。
くーっ、かわいい!
オリヴィエは、つややかではあるけれども、まだぽわぽわとしたアンジェリークの髪に口付けた。そして、ふと気付く。
「アンジェ、今日のこのおリボンはどうしたの?」
アンジェリークの髪を結い上げている華奢なリボンは、オリヴィエの見た事のないものだった。アンジェリークの栗毛によく似合う、淡い黄色をしたヴェルヴェットの細い細いリボン。
誰かから贈られたんだとしたら、相当、アンジェのこと見てる奴ね。
アンジェリーク専属スタイリストを自負するオリヴィエであるから、アンジェリークのリボンをそろえたのも、当然オリヴィエである。
自分の見立てとダブらず、その上、彼女の魅力を十分引き出すアイテムを選ぶとは。
侮れない未知のライバルに燃え出したオリヴィエに向かって、アンジェリークが言った。
「あのね、おすかーさまがくれたの。おすかーさまがね、むすんでくれたんだよ」

「なんですってぇ!?」
素頓狂な声で、美の守護聖は叫んでしまった。
「あの色ボケ男が!?いつの間に私のアンジェに」
手入れの行き届いた美しい肌に怒りの青筋を浮かべて、オリヴィエが震える。
「朝ねえ、お洋服きせてくれたときにね、くれたの」
アンジェリークはそんなオリヴィエに気付かず、彼の膝の上でかわいらしく微笑んでいる。
「お洋服って…」
声を押さえて、オリヴィエがアンジェリークを覗き込む。怖がらせないよう、いつものような華やかな笑みも忘れない。
「…ねえ、アンジェ。オスカーが、今朝、お洋服を、着せてくれたの?」
「うん」
「まさかとは思うけど…アンジェ、夕べ、オスカーと一緒だった?」
「うん。おすかーさまとね、いっしょにねたの」
オリヴィエはアンジェリークをそっと膝から下ろすと、にっこりと笑いかけ、
「ごめんねアンジェ。ちょっと待っててくれる?おにーさん、用事思いだしちゃった」
「…うん。まってる」
じゃあね〜ん、と軽やかに扉をすり抜けてゆくオリヴィエに、アンジェリークは小さな手をふって見送った。

「オスカー!この万年発情期野郎!」
そう言って扉を足で蹴り放つと、ぎょっとした顔をしている炎の守護聖に詰め寄る。机に向かっていたオスカーの胸元をつかみあげて、すさまじい力でゆさぶった。
「あ・ん・た、アンジェリークを館に連れ込んで何したのよ!」
「オ、オリヴィエ?」
「私のアンジェに何かいかがわしいことしたんじゃあないでしょうね!」
「お、落ち着け…」
「やかましいっ!」
いつもスマートで優雅な夢の守護聖が、実はとんでもない武闘派だということは守護聖ならば知っていることだ。
今、それが証明されるであろうことは確実であった。息ができない状況下で、オスカーは、一緒に風呂に入ったことがばれた日を思って、早めに対策を講じなくてはと思ったのだった。


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