Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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 カトチャでGO!
 御覧あれ!


先生



こつこつと心地よい音を響かせて近付いてくる足音。
細いヒールの靴が出す音ではない。どこか子供っぽいその響きは、いつも懐かしい記憶を一緒に連れてくる。
もう何十年という昔の話になってしまった、廊下を走って叱られていた頃の記憶。
きっと、ローファーを履いた少女はこの扉の前に足を止めるだろう。
彼女が扉を開けた瞬間に、自分は彼女の『先生』になる。

教え子が、少しずつ少しずつ成長してゆく姿を見せてくれるのが嬉しかった。
今まで解らなかったことが理解できたと、うれしそうにほころぶ笑顔を見るたび、ヴィクトールは自分でも驚くほどの充実感を覚える。
彼女達の歩みに、自分が手を貸せるということ。
彼女達の為に、自分ができることがあるということ。召喚命令が下った時からずっと、自分のような人間が人に教えを説くということに違和感を覚えていた。
その思いは今でも、こうして一人きりでいるときなどにはヴィクトールに取り憑いてくる。
何万回考えたか解らない、大切な者たちを奪われた記憶。
何もできなかった、あまりにも無力な自分。
生き恥を曝すだけの、意味を持たない己の存在を。
自分の中の果てしない闇に繰り返し身を浸して生きていたヴィクトールに、少女は微笑みかけてきた。
暗闇の海に、ちいさな蝋燭の火が点り、そうして、自分が逃げていたことを知った。
己を責め続けることは、己を慰め続けることと同じだと。
己の存在を否定することは、己に逃げ場を与えることだと。
己を卑下することは、己に言い訳を与えるに過ぎないのだと。
そして、自分は一人ではないのだということを。

光を与えられた。
掌に隠れてしまうほどのささやかな、しかし確かなぬくもりのある光を。
華奢な少女だ。自分の思い違いでなければ、彼女は自分を必要としてくれている。自分の手を必要としてくれている。
そして、自分の手を追って、少しずつ成長している。掌の小さな光の粒は、ゆっくりと輝きはじめる。
よかった。
心からそう思える。
自分はできる限りのことを彼女にしてやりたいと思う。
自分を必要としてくれる限り。
彼女がこの部屋の扉を開けた瞬間に、自分は教師になる。


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