Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
12Kingdom
OgreBattle
Mobile sutie Gundam
finalFantasy
Shortstory
 SPY
 笑顔のゆくえ
 LOLLI-POP CANDY

 
 剣とお嬢さん
 ワインとお嬢さん
 目覚めの君
 つぼみ
 先生
 いつの日か君のとなりに
 羽化
 嘘とお嬢さん
Illustrator
 
Attraction
 カトチャでGO!
 御覧あれ!


LOLLI-POP CANDY
<<Part:8>>


聖地の面々は、いつものように自然に集まって来てお茶会を設けていた。
本日の主催者は地の守護聖ルヴァ。参加者は、執務室に遊びに来ていた少年三人組と、中堅三人組である。
それに、このところ頻繁にルヴァのもとに相談に訪れている王立研究院主任も無理矢理引き込んでの大茶会となっていた。
美しく整えられた宮殿の庭を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごし、午後の執務への英気を養うのがいつもの茶会であるが、今日は何か様子がおかしかった。
まず、主催者がおかしい。いつものんびり落ち着いている識者ルヴァが、浮き足立っていると言ってもいいぐらい浮かれているのだ。
その反面、エルンストは肩を落とし、時折、循環器の機能に異常があるのではないかというようなすさまじい溜息を吐く。
いつも自信満々のはずのオスカーはどこか塞ぎがちで言葉少なく、かぎりなく華やかで明るい笑顔を見せるはずのオリヴィエの額には青筋が浮かんでいる。
この異様な茶会に出席してしまったことに後悔と戸惑いを隠しきれない他の面々は、じっと息をひそめて事の成りゆきを探るしかなかった。
「皆さん〜お茶がはいりましたよー」
うきうきと湯飲みを配って歩くルヴァに、マルセルが、少々緊張ぎみに問うた。その顔にはひきつった笑顔が浮かんでいる。
「…あの、ルヴァ様。何か好い事でもあったんですか?」
「あれー、分っちゃいましたー?」
と、ルヴァが、待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせた。
わかっちゃったも何もねぇよ、ついに脳にカビでもはえたんじゃねーの、とゼフェルがいつも通りのつっこみを入れ、隣のランディが失礼だぞゼフェル!といつも通りたしなめる。
しかし、二人とも表情は真剣である。普段通りの反応を示してルヴァの返答を導こうとする、少年達の作戦は健気かつ有効であるといえる。
ナイスガッツです三人とも、と心の中で賞賛していたのは水の守護聖であった。それだけ今の雰囲気は常軌を逸しているのだ。
「あー、実はですねぇ、私、この度アンジェリークの教育係を拝命したのですよー」
オスカー、オリヴィエ、エルンストが、茶を吹き出した。わー!!と椅子ごと後ずさる面々。
「る、る、ルヴァ様!先日とお話が違うではありませんか!」
エルンストが情けない声をあげる。あー、とルヴァは頭をかいている。
オスカーはごほごほとむせており、オリヴィエはオスカーを睨みつけながら、さらなる青筋を額に浮かべた。
どうやらというか、やはりというか、彼らの異常は皆、アンジェリークが絡んでいたのだ。そうと分れば自分達も黙っている訳にはいかない。
「アンジェリークの教育係、とは…?」
リュミエールが問う。怯えていた少年達も目つきが変わっている。
突然周りが敵だらけになったルヴァは、浮かれた足を地につけはじめた。
「あ、えーとですね。実はエルンストから相談を受けたあと、ロザリアから依頼されまして、是非ということでしたので…あー…」
真実はといえば、ルヴァがロザリアに詰め寄って無理矢理勝ち取った権利なのだが、智将ルヴァは勿論そんなことは黙っている。
「文字の読み書きと算数はエルンストに、私は、えー、歴史と文学とちょっとした科学をー」
ロザリアの依頼は歴史と文学のみだったが、科学を勝手に付け足して、ルヴァは公式発表を一方的に終えた。
「待てよルヴァ!それじゃあ、オレの教育係はどーなっちまうんだよ!」
ゼフェルが喰ってかかる。教育係を口実に、ルヴァがアンジェを独占するのを牽制しているのだ。
「え!あー、それはー…仕方ありませんねー、アンジェの指導のときに、ゼフェルもいらっしゃい」
よし!これでゼフェルは己の権利を獲得し、満悦で戦線を退いた。
エルンストと言えば、ルヴァの策略のおかげで責務が減って喜ぶべきなのだが、何か複雑な表情をしている。
「それで、オスカー。あなたは何を隠しているんですか?」
ぎくり、と肩を動かして、オスカーが身構える。
オリヴィエが鋭い目つきで言い放った。
「この野郎は、寂しがってるアンジェに付け込んで、あのコを館に連れ込んだ性犯罪者なのよ〜!」
「何ーーーー!!!!!」
テーブルが突如殺気を帯びる。オスカーは慌てて立ち上がった。
「誰が性犯罪者だ人聞きの悪い!そんなデマカセでこの俺を脅そうだなんて、浅はかすぎるってもんだぜ、オリヴィエ」
「あらあ、それじゃあ今度の謁見のときにでも、アンジェに聞いてみよっか?」
「…オリヴィエ!そのことは他言無用だと約束しただろう!?」
オスカーがオリヴィエの胸ぐらを掴む。その行動が、オリヴィエの発言の真実であることを確定づけてしまっていた。
「それはあの計画が成功したらの話よ!アンタがとろとろしてるから、折角のおいしい話が他のトンビに攫われまくっちゃったんじゃないの!この無能!」
「言うに事欠いて無能だと!?この炎のオスカーのどこが無能だというんだ!」
オリヴィエは胸ぐらを掴むオスカーの腕を引き剥がして、判決を言い渡す判事のごとく澱みない声で言い放った。
「下半身以外は無能じゃないの!この雄カー!!」
あまりの台詞に、オスカーは後ろに傾ぐ。
「…オスカー…。あなたという人は…」
リュミエールは哀れみに充ちた視線をオスカーに向けた。その目の端には、涙まで光っている。
「勝手に人を哀れむな!いいか、誤解するな。…確かに俺は、お嬢ちゃんを私邸に泊めた。それはただ、寂しがっているお嬢ちゃんを放っておけなくて」
「他の女だって、似たような理由でたらしこんでんだろうが。よく言うぜおっさん」
オスカーの台詞をはね除けるようにゼフェルが発言した。
「俺、こんなこと黙って聞いていられません!何か間違いが起こる前に、ジュリアス様に報告するべきだと思います!」
「ランディ、僕もそう思うー」
「間違い!?何を考えてんだ!?お、おい」
畳み掛けるような援護射撃がオスカーに発言を許さない。
利害が一致するなら、全員で組んででも攻撃する。彼らだって、ライバルは一人でも少ないほうがいいに決まっているのだ。
「ま、待てお前ら!落ち着け!いいから人の話を最後まで聞け!」
「話の流れからいって、先日、女王陛下に上奏されたアンジェを我々で預るというシステムは、当然オスカーを除いて行われるということ、ですよね?」
リュミエールはハンカチの淵で涙を押さえつつ、今まで聞いた事のない程の鮮明な発音で言った。
オスカーの言葉は空しくその場から聞き流された。
「その方が賢明だと思われます」
「エルンスト!お前まで」
「自業自得、っていうか、残念ねーオスカー」
「落ち着け!頼むから人の話を聞いてくれ!」
一番恐れていた事態が、まさに目の前まで迫っているではないか。
オスカーは急な展開と動揺でまともに頭が動かない。
オスカー大ピンチである。
そのとき、椅子のすぐ後からちいさな声がした。
「おすかーさま」


アンジェリークは、オスカーの椅子の背もたれにを握って、にっこり笑って立っていた。
「みなさん、こんにちは」
アンジェリークは少し首をかしげるようにして守護聖たちにお辞儀をする。
今の今までせめぎあっていた守護聖達は、少女の突然の登場と、彼女の仕種に魅入られて一瞬、口を聞けずにいた。
「…お嬢ちゃん」
最初に呟いたのはオスカーだった。
暖かな日である。アンジェリークはほてった頬を綺麗な桃色に染めて、はにかむように微笑しながらオスカーに両腕をかかげた。
オスカーはそのちいさな腕に引き寄せられるように膝を折り、少女を抱き上げる。
それがあまりに自然な風景だっかたら、観衆はまた口をはさむことができなかった。
「あのね、あんじぇね、今日ね」
アンジェリークはオスカーの肩のあたりのマントをきゅっと握って、内緒の話をするように、ちいさな声で言った。
「さっきね、てぃむかさまのところにお勉強にいったのよ」
「…そうか。ちゃんとできたか?」
オスカーも、声のトーンを落としてアンジェリークの顔を覗き込む。アンジェリークは嬉しそうにはにかむと、こくりと頷いた。
そうしてオスカーの首に抱き着く。


…なんだ、この異様に親密な雰囲気は。
円卓を囲んだ観衆は、何か納得のいかないような、苦虫を噛み潰したような、複雑な表情でふたりを見ている。
オスカーはそれを察知して、ちらりと視線を観衆に泳がせてみせる。周りの視線を十分に意識しながら、席に座り直した。
アンジェリークはオスカーの膝の上にちょこんと座った。
「さて、お嬢ちゃん。何か飲むか?」
「…おすかーさまの、ちょっともらってもいい?」
背中をあずけているオスカーを振仰いで、アンジェリークが言った。彼女が首を動かすたびに、細い髪がさらさらとそよいだ。
すっかり発言のタイミングを失ってしまっている周りの守護聖たちは、声に出さずにはいるものの驚きを隠しきれない。
オスカーは、そんな同僚たちの顔を密かに確認している。
「もちろん、構わないぜ」
そういって、膝の上の少女の髪にキスをする。アンジェリークはいただきます、と挨拶をしてからオスカーのカップに手を伸ばした。
守護聖たちは顔を見合わせて、互いに物言いたそうな顔をしている。
折角、ライバル一人を排斥に成功しかけていたというのに。かわいいアンジェリークがオスカーとこれだけ仲が良いとは計算外である。
下手に動いたら逆にこちらがオスカーにはめられかねないではないか。
それに、アンジェリークに、醜い争いなど見せられない。


こくこくとカップの中のお茶をのみほして、アンジェリークはふう、と息を付いた。
ごちそうさまでした、と頭を下げる。髪がさらり、と頬にかかる。
オスカーはその髪を指先で梳き、そっと耳にかけてやった。
そのオスカーの表情を見て、同僚に厳しい守護聖達も考えを変えざるを得なかった。
彼はやたら、穏やかな顔をしていたのだ。
些細な言葉尻を取りあげ、こじつけの理由で相手を排斥するのは、あらゆる政治的活動にも有効な手段であるといえる。実際、オスカーをアンジェリークの傍から排除するために守護聖達は先刻まで一丸となって彼を攻撃していたのだが。
オスカーの顔を見ていると、自分達がどれだけ浅はかでさもしい行動を取っていたのか。
いくら無類の女たらしといえども、こんなちいさな幼女にいかがわしい行為をしたと考える方が非現実的だろう。
仮にそんなことをオスカーがしていたら、このちいさな天使が、こんなにこの男に懐くわけがない。
守護聖たちはそんな思いでちょっとだけ反省した。各自がオスカー排斥を断念したとき、遠くから若い娘の声がした。
「アンジェ〜!もう行くよー!」
レイチェルである。オスカーの膝の上のアンジェリークは、ぱっと顔をあげて、声を探すように周りを見回している。
「お嬢ちゃん、レイチェルが呼んでいるようだが」
「あんじぇ、れーちぇると一緒にせいらんさまのとこに行くお約束したの」
そういってアンジェリークはオスカーに向き直る。
「おすかーさま。あんじぇ、せいらんさまのところでお勉強したら、おすかーさまのお部屋にきていい?」
何人かが再び茶を吹き出した。もちろん、アンジェリークはオスカーの執務室に行ってもいいかという内容を話しているのだ。
オスカーはそのへんをよく心得ていて、勿論、と頷く。
「おすかーさま、ちゃんと待っててくれる?」
「ああ。お嬢ちゃんが来るまで、ちゃんと執務室で待ってる」
オスカーが微笑んでそう答えると、アンジェリークはぱあっと顔を輝かせた。
「じゃあね、お約束ね?」
そういって、
アンジェリークは、オスカーの唇に
唇を押し付けた。
「あーーーーーーーー!!!」
守護聖たちが叫ぶ。
オスカーは目を見開いたまま、突然のやわらかな感触に硬直している。
アンジェリークはそんな青年達にはお構いなしに、オスカーの膝の上からぽんと飛び下りて、レイチェルの元に走っていった。


「…オスカー」
「てめえやっぱり…!!」
あまりにも甘やかなキスの余韻に魂を奪われている男に向かって、凄まじい怒りの波動が繰り出されたのは言うまでもない。


PageTop
前へ 次へ
   
Shangri-La | index Angelique | index