Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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Shortstory
 SPY
 笑顔のゆくえ
 LOLLI-POP CANDY

 
 剣とお嬢さん
 ワインとお嬢さん
 目覚めの君
 つぼみ
 先生
 いつの日か君のとなりに
 羽化
 嘘とお嬢さん
Illustrator
 
Attraction
 カトチャでGO!
 御覧あれ!


LOLLI-POP CANDY
<<Part:2>>


とんとん、とドアをノックする音がする。
椅子にだらしなく座って、ぼんやり天井を眺めていたセイランは、この退屈した時間を断ち切ってくれるであろう訪問者に声をかけた。
「どうぞ」
ドアの向こうから、なにやら話声がする。ドアの向こう側で彼女が何かしているのだろう。その光景を想像してくすっと笑った。
ちょっとした間の後、アンジェリークがそろそろとドアを開けて、顔を覗かせた。栗色のつやつやした髪が、傾けた首から肩へするりと落ちる。
「…せいらん、さま」
アンジェリークは小さな声でそういって、はにかみながら、部屋へ入ってくる。セイランは屈んで、ちいさな女王候補と視線をあわせた。
「やあ、アンジェリーク。今日は何の御用かな」
「あのね…お勉強にきたの」
アンジェリークは大きすぎるノートを抱きかかえている。以前、彼女が17歳だった頃に使っていたノートも、今の彼女には大判のスケッチブックのようになってしまう。セイランはアンジェリークのノートを取って、両手を楽にしてやる。
「よく来たね。君が来るのを待ってたよ」
アンジェリークはぱあっと顔を輝かせて、セイランの上着にぎゅっとはりついた。小さな手が愛おしくて、セイランも彼女を抱き寄せる。
「で、後ろにいる彼も一緒に受けてくのかい?せっかくふたりきりなのに」
半開きのドアの影に立っている少年に向かって言ってみる。
しばしの沈黙の後、姿をあらわしたのは鋼の守護聖、ゼフェルである。
「アンジェの護衛ですか?御苦労様です」
相変わらずのむっとした様子でセイランを一睨みすると、ぷいと顔をそむける。
隠すようにそむけられた横顔は、あきらかに照れていた。
「そんなんじゃねーよ。アンジェの奴が、学芸館に行くっていうから。オレもたまたまこっちに用があったから送ってきてやっただけだよ」
いわずもがなのことをまくしたてるゼフェルが、セイランはおかしくてたまらない。アンジェリークを抱き上げ、なんとか笑いをかみ殺した。
「ドアの前で楽しそうに騒いでたようだけど?」
「あれはっ…!」
「あのね、あんじぇがね、やるっていったの」
ふたりの微妙な力関係を読み取ったのか、アンジェリークが助け舟を出した。
「あんじぇ、ドアの、もつとこ、とどかないからね、ぜーさまがね」
一生懸命はなそうとするアンジェリークを見ているのは興味深い。
子供は何をするのも一生懸命で、真直ぐだ。
精一杯に何かをしようとしている幼い魂がこんなに魅力的だなんて、セイランは今まで見過ごしてきたものの大きさに悔しい思いさえするのだ。
「あのね、だっこしてもらってね」
「なるほど、わかったよアンジェ」
セイランはすぐ近くにあるアンジェリークの額に自分の額をあわせる。やわらかい、甘いにおいがする。
神の幸福につつまれている者の匂い。
「ドアノブに手が届かないから、ゼフェル様が君を抱き上げてくれたんだ。そうだろ?」
うん、とアンジェリークは頬を赤らめて頷いた。照れくさいやら決まりが悪いやらでかっと赤くなっているのはゼフェルも同じである。
「アンジェ!終わったらすぐ戻って来いよ!芸術家ってのはやばい趣味の奴が多いからな、なにされっかわかんねぇぞ!」
わかったな、と捨て台詞を吐いて、もう一度セイランを一睨みしてからゼフェルは走り去っていった。
ドアが閉まって、沈黙が訪れて、セイランはこらえていた笑いを一気に爆発させた。
アンジェリークには、よくわからない。ちょっと首をかしげて、セイランが笑っているのを黙って見ていた。
「君はすごいね、アンジェリーク。皆君の魂に魅かれてしまってるよ」
笑いすぎて浮かべた涙を指で拭って、セイランは腕の中のアンジェリークを見つめた。
「ゼフェル様だってそうだよ。君の虜だ。すごい女の子だ」
不思議そうに見上げてくる緑青色の瞳にセイランはつやっぽく笑んで、その髪に口付ける。
「この僕も、ね」
やっぱり何の事だかわからないでいる女の子は、小さな手でセイランのほほに触れて、瞳を真直ぐに覗き込んでくる。
くすり、と笑ってから、セイランはその手を握った。
「さあ、今日は何を使ってお勉強しようか」
「ピアノ!」
「はいはい。仰せの通りに、姫君」
セイランはアンジェを抱えたまま、音楽室へのドアを開ける。
この授業が終わったら、アンジェリークを抱きかかえて宮殿まで送って行こう。ゼフェルには睨まれるかもしれないが、かまうものか。
「ライバルに遠慮するほど、僕はお人よしじゃないからね」
そう呟いて、ドアの向こうに消えていった。


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