Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
12Kingdom
OgreBattle
Mobile sutie Gundam
finalFantasy
Shortstory
 SPY
 笑顔のゆくえ
 LOLLI-POP CANDY

 
 剣とお嬢さん
 ワインとお嬢さん
 目覚めの君
 つぼみ
 先生
 いつの日か君のとなりに
 羽化
 嘘とお嬢さん
Illustrator
 
Attraction
 カトチャでGO!
 御覧あれ!


SPY
[03]

女王候補に選ばれた時、正直驚いたわ。
でもすぐに「やっぱり」って思った。それにすごく嬉しかったの。
やっと認められた気がして、すごく嬉しかった。
ライバルもそこそこ根性のあるやつだし、自分を磨くにはぴったりの試練。
私はもっと強くなる。自分に負けないように強くなる。
そんな聖地にもやっぱり軟弱なやつがいて苛々する。
権力は嫌い。
自分は全然偉くないのに、勘違いしてるから。
嫌いな物は嫌い。
相手が誰であれ、どんなやつだって嫌いは嫌い。
自分の強さは自分で作る。
それの出来ないやつは大嫌い。




スパイとしての第一日め。
オスカーはアンジェリークの寮のドアをノックしていた。
(腹はくくった)
スパイとして活動する事は、もう観念した。
ジュリアス様の期待を裏切るわけにはいかない。
(後は上手くやるだけ)
アンジェリークの事を、自然に、できるだけ多くを聞き出す。
これが俺の任務。これが俺の使命。
使命を与えられたなら、それをやり遂げるのも騎士だと俺は気がついたのだ。
幸い、女性から物事を聞き出すのは慣れてる。
(得意分野だ)
だから選ばれたのだけど。
とにかく、騎士道にのっとり、アンジェリークを調べあげる。


「お嬢ちゃん、俺だ」
オスカーはいつもの調子を崩す事なく、そう言った。
こういう時の明るい声は禁止だ。あくまで気紛れでここに寄ってみた暇な守護聖風に、地声をつかう。
(これは、二股してる時に使う技)
修羅場の近い女性の感は侮れない事を、オスカーはその身をもって知っている。少しでも普段の自分と変えてはいけない。機嫌を取る事が一番危険だ。
(まぁ、お嬢ちゃん相手にこんな高等技術は必要ないだろうが)
が、完璧にしないといつボロが出るか解らない。
(徹底するのが俺流だ)
オスカーは、髪をかきあげた。
暫くして、ドア越しに無防備な、はぁい、というアンジェリークの声がする。
ターゲットはアンジェリーク。茶色の髪の女王候補。
彼女がどんな少女なのか、何が好きで何が嫌いなのか、調べあげる事。
それが、自分の使命なのだ。

ドアが開いた。
いつもの制服姿で、目標のアンジェリークは現れる。
「‥‥オスカー、様」
幼さを残した高めの声。蒼い海を思わせる瞳に、癖のない栗色の髪。
素早い身のこなしで言い逃げするようには思えない、繊細な雰囲気がある少女。
落ち着いた海の蒼の瞳のせいだろう。神秘を思わせるそれが、あのギャップを生むのだ。
オスカーは頭を切り替えて、笑ってみせた。
「お嬢ちゃん、今日は俺と過ごさないか?とびっきりの一日をプレゼントするぜ」
とりあえずありがちなセリフで攻めてみる。
するとアンジェリークは、瞬きをした。心底意外そうに、間の抜けた顔をしている。
「‥‥え?」
何がそんなにも信じられないのか、アンジェリークは心なし首を傾げて聞き返す。
「暇だったら出かけないか、と言ってるんだ。女王試験女王試験と根をつめてばかりじゃ成果もあがらないだろ?」
そしてウインクしてみせた。
「‥‥ああ」
アンジェリークの納得したような気の抜けたような声。
「そういう事でしたら‥‥」
アンジェリークがバスケットを持ち直す。
「喜んで」
そして、次には嬉しそうにやわらかく微笑んだ。
心なしか頬を染めて、少女らしい笑顔で。

アンジェリークが、オスカーのデートの誘いにのったではないか。

「そうと決まったら出かけよう。お姫様は何処に行きたい?」
「ええと‥‥カフェは?」
「‥‥よし、じゃあ庭園だな。いこう」
そう言って、二人は歩き出した。

いつもの様に良い天気で、庭園は暖かな陽気だった。
噴水が光をはじいて、気持ちのよい音を奏でている。剪定の行き届いた植え込みも青さをまして輝いて、少女も笑顔を浮かべている。
リラックスするもの、話をするのも格好の場所だ。落ち着いた色のレンガを歩いて、目的のカフェに行く。真っ白いなテーブルが幾つも並んだそこは、日の曜日には大抵恋人達で埋まっていて、飛び入りでは入れない程人気の有る場所だ。
今日のような平日の昼が一番空いていて、人も少なく話しやすい。
オスカーが椅子をひいてやると、アンジェリークもお辞儀をして席につく。
あまりに天気がよいせいか、アンジェリークは小さく伸びをして、ここは好きなんです、と言った。
「暖かいし、皆楽しそうだし、景色いいし、おいしい紅茶は飲めるし」
「紅茶?」
情報はなんでもいい。多ければ多い程いい。どんなに下らない事だって、何かアンジェリークを示す者なら。
(‥‥とういうより)
オスカーは、アンジェリークを全く知らないのだ。
育成も、頼まれた事がなかった。たしかアンジェリークがクラヴィスとリュミエールの所に熱心に通っているのを見た事があるけど、それで逆に興味をそがれてしまったのだ。
(あちら側のタイプの子だと思ったんだ)
クラヴィスとリュミエールと言えば、オスカーには、いかにもこー、じめじめして暗そうにぼそぼそ生活するイメージがある。
それと仲が良いとなると、やっぱりアンジェリークも、じめじめして暗そうにぼそぼそ生活してそうに見えたのだ。
今思えば、こうして誘ったのも初めてだった。擦れ違って挨拶くらいはしたような気もするが、書類上の簡単なプロフィール以上の事は、まったく知らなかったのだ。
(良い機会だったのかもしれん)
オスカーは、口元で笑った。

「紅茶、好きか」
オスカーは答えを乞うように、アンジェリークの目を見た。波立つ海の色をしたアンジェリークの瞳は、何か言葉を探す様に上を見上げると、オスカーに目を合す。
「特にそういう訳じゃないけど‥‥、こういう場所で飲むと、午後のティイィッ!って感じがするからかな」
「‥‥あ?」
「なんとなく、ノーブルな感じがするでしょう?‥‥あ、注文して良いですか?」
「‥‥、あ、ああ。お嬢ちゃんはー‥‥ダージリンティーか?」
「アッサム」
歯切れ良く、そう言った。
「じゃあ、カプチーノとアッサムティーを。苺のタルトも頼もうか?」
「うーん‥‥タルトって甘いやつは甘過ぎるからなぁ‥‥。シフォンかスコーンの方がいいな」
「お嬢ちゃんがそれがいいなら両方頼もう」
「じゃあオスカー様とはんぶんこね」
「いや、俺は‥‥、おっと、じゃあそれでいいな」
ウエイトレスが近くを通るのを呼び止めて、少女の望む物を読み上げた。
そうして、ウエイトレスが紅茶の入ったポットを運んでくる頃、アンジェリークの口が開いた。
「正直、お説教なのかと思った」
「え?」
アンジェリークは運ばれてきたお目当てのアッサムティーに砂糖をぱかぱかと入れると、ぐりぐりとかき回す。
あまりに素早く無駄のないかきまぜ方だったので少し呆気にとられながら、オスカーは目を上げた。
「お説教って‥‥どういう事だ?」
アンジェリークは、少しはにかんで答えた。
「だってジュリアス様にあんな事言った後だから。きっとあの馬鹿夫、オスカー様を使って私を叱らせようとしたのかと思ったの」
オスカーは、一瞬口に含んだものを噴き出しそうになって前につんのめった。
馬鹿夫、とは‥‥もしやそれは、ジュリアス様の事なのだろうか‥‥。
(爆弾発言だぜ、‥‥それは)
主星出身といえばそれはそれはジュリアスの恩恵を受けている星ではないか。
(いい性格だ‥‥)
この少女はこういう性格なのだ。こちらが身構えなければ噴き出しそうな事を平気でいう少女なのだ。
(平静をたもて、平静を)
楯突けば昨日のジュリアスのようになってしまう。きっと二度と話せない。
そうすれば任務は駄目になって、駄目騎士の烙印を押される事請け合いだ。
(アンジェリークの話を‥‥普通に聞くんだオスカー)
自分に言い聞かせて、オスカーは無理のないよう鮮やかに笑う。
「‥‥ジュリアス様はそんな姑息な手段を使うお方じゃないぜ」
おきまりのセリフだが、この際言っておく。
「頼りなる立派な方だ。意見をまとめあげてより良い方に導こうと、大変熱心なんだぜ。多少の性格の堅さはあるが、ああじゃないとリーダーはやっていけないのさ」
そして、
「俺は尊敬してる」
と付け足した。
するとアンジェリークは眉根に皺をよせる。
「‥‥そう?」
「そうさ。じきにジュリアス様の良さがわかるさ」
オスカーがそう言って当たり障りのない会話をおえると、心をしずめるためにカプチーノを一口すする。いつもの味が広がって、少し肩の力が抜けた。こうでもしないとアンジェリークとの会話は心臓に悪い。
そんなオスカーを知ってか知らないでか、アンジェリークは言葉を続けた。
「私はあんまり付き合い長くないし、よく知らないけど、あのロンゲは頭固くて嫌になるわ」
「ロンゲ‥‥」
オスカーは軽い目眩を覚える。
「だってあいつ、人の育成の仕方に文句付けてくるのよ」
「‥‥育成?」
育成といえばたしかこの前、アンジェリークの惑星は4つになったという報告を受けたような気がする。試験はまだ始まったばかりで4つという数字は悪い数ではない。
「今の所は‥‥その、上手くいってるじゃないか」
この先は知らんが、とオスカーは心の中で呟いたが、そんな様子も知らず少女はふんぞり返って続けた。
「そうよ。私、素人なりに恥ずかしくないようにやってるつもりよ。それをあのうすら金髪、『クラヴィスとリュミエールばかりに頼んでは宇宙がかたよる』っていうのよ」
オスカーは、うすら金髪には意識を集中しないように努めて、
「そりゃ、初耳だ」
と絞り出した。
しかし実際初耳だ。
ジュリアスは、アンジェリークに前から指導をしているなんてオスカーは全く知らなかった。
(‥‥だからこその、最終手段だったのか?)
オスカーへの任務。きっとジュリアスは自分なりに説教してみて、無駄だと分かったからこの方法に踏み切ったのだろう。
まさに最終手段。ヘタをすれば女王試験より機密度は高い。
ジュリアスのした苦労は並大抵ではなかっただろう事を思って、オスカーは心の中で同情する。
「ジュリアス様がそんな事を言ったのか」
しらじらしくならないように驚いたフリをする。
「そうよ。あいつは言ったの」
へえ、と返事をする。
「だから私、言ってやったの」
アンジェリークがアッサムティーのカップをかしゃんとを置いた。

「女王試験を甘く見るな!!って」

オスカーがカプチーノをぶちまけた。
「‥‥お、お嬢ちゃん。そりゃジュリアス様の台詞だろ」
あわてて平静をつくろい、汚してしまったテーブルを拭く。一方アンジェリークはやっぱりそんなオスカーに見向きもせず握りこぶしを作った。
「だってあの腐れ頭は何にも分ってないんだもの。いらいらしちゃうの!女王試験は女王候補の意志で行われるのよ。それをバランスがなんだどうだ、安定値がなんだかんだって五月蝿いのよ」
「‥‥‥‥ジュリアス様は、宇宙の事を心配なさっているんじゃないのか?」
だいたいそれに、将来、自分が女王となって守る宇宙を杜撰に創るわけにはいかないのは、ジュリアスに言われずとも分ってる事だろう。
オスカーは瞳を細める。
仮にも自分は守護聖だ。女王試験に女王候補が半端な気持ちでいるのを黙っているわけにはいかない。
「‥‥お嬢ちゃん‥‥わかってると思うが、女王試験の宇宙を育てるっていうのは」
「そんなの、試験よ。試験ってあいつの口から聞いたからには、宇宙で育成しようがヤギ育てようが寝たきり老人介護しようが試験って言ったからには試験なのよ」
「いや、だか」
「オスカー様は甘い!!」
アンジェリークが、びし、と指をこちらに指した。
「女王陛下が試験って言ったわ。ジュリアスの奴も試験って言うわ。試験って言ったら試験なの。宇宙育てるのが大事なら宇宙育成試験と言うべきよ。これは女王試験、女王をきめる試験なんだから女王が決まれば良いの!」
「‥‥‥‥それは」
この娘が言うと不思議とそうかもしれないと思ってしまう。
オスカーは半分になってしまったカプチーノの消えかかった泡をゆらゆらと揺らした。なんだか、自分はずいぶん情けないような気がしてきた。
「それなのにジュリアスってば、やれタイミングが悪いの、やれバランスが悪いの、終いには生活から食事のマナーまでとやかく言いやがるのよ。そんなの試験だったらどうでもいいのよ。女王になる奴を決めるんだったら結果だけ見ればいいの。期末テストはいい点を取る為の物じゃないわ。実力を計るためよ。試験の最中にちゃちゃ入れるなんて最もやっちゃいけない事なのに、あの馬鹿なにも分ってないわ。守護聖筆頭が分ってなけりゃ、その手下たちだって見習えないじゃない。一番宇宙に貢献してない男よ。宇宙一の馬鹿。脳の賞味期限きれてるのよ。年末になったら電球といっしょにとりかえるといいんだわ」
「‥‥‥‥あああ」
もはや、どこを突っ込んでいいのか分らなかった。笑っていいのか怒っていいのか、オスカーの中途半端に開いた口は行き場なくあうあうしてしまう。
しかし、そんな様子にも構わずアンジェリークはまくしたてる。
「クラヴィク様もクラヴィス様だわ。あんなの構ってからかったりするなんて中身は同じなのよ。いつかは仲良くなろうって思ってるクセにあの馬鹿を逆撫でして楽しんでる陰気な奴だし、ジュリアスはそれを受け止められないほどの馬鹿だし。
それを見守ってるだけのリュミエール様はもっと阿呆よ。ハーブティー飲み過ぎで頭がスースーしてんのかしら。私は争いを好みませんって態度もいい加減にしてほしいわ。好まないなら争いの根元を断てばいいのに、あいつはやっぱりハーブティー飲んでハープ弾いてるのよ。争いが起きなかったら笑顔でハーブティー飲んで、争いが起ったら悲しそうにハーブティーを飲んでるの。あいつの足にはハーブの根っこが生えてるんじゃないかしら。行動力が植物並よ」
「‥‥‥‥‥‥」
俺だってそこまでは言わないぞ、という言葉が出かかったが飲み込む。それになんだかだんだんリュミエールとクラヴィス様が可哀相に思えてきた。こんな娘に、宇宙を支える守護聖が‥‥。
そのひょうしに、頭の中にアンジェリークがクラヴィスとリュミエールの所に通っていたのを思いだした。
「お‥‥お嬢ちゃんはたしかリュミエールとクラヴィス様の所に熱心に育成を頼んじゃいなかったか?」
「してたわ。あの二人、悪いやつらじゃないわ。でも馬鹿なの。どーーしようもなく馬鹿なの」
「‥‥‥‥‥‥」
やっぱり、リュミエールたちに同情してしまいそうになる。
「二人で部屋に閉じこもって世界作ってるところもアレだわ。あのひとたち、私が話し掛けないとずっとハープ弾いてタロットやってにやにやしながら黙って過ごしてるのよ。部屋が暗いからお部屋に花でも飾ればって言ったら、『おまえは闇を恐れぬのだな‥‥』とか言うし。私は花を飾れって言っただけよ、闇なんて関係ないわ。仕事と自分を全然区別できてないの。事あるがごとに闇闇言って、そんなに自分がかわいいなら髪なんてきらなきゃいいのに。妙にロマンチストなのよ。私の事天使だなんて言うし、クスリでもキマっちゃってるんじゃないかしら」
「‥‥‥‥‥‥」
もはや、オスカーは言葉がでない。ぐったりと首をうなだれて、上目遣いに少女を見上げた。
するとアンジェリークは不思議そうに首をかしげる。そしてやっとやってきたウエイトレスを嬉々として出迎えた。
「ここのスコーン甘くなくて好き」
しかも、この少女は余裕で食べ物の事なんか考えてる。
「‥‥‥‥」
オスカーはこっそり溜息をついた。

一体、どこを抜粋してジュリアス様に報告すればいいんだ。

やっと自分の任務が重い事を自覚して、オスカーは目眩を覚えた。


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