Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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finalFantasy
Shortstory
 SPY
 笑顔のゆくえ
 LOLLI-POP CANDY

 
 剣とお嬢さん
 ワインとお嬢さん
 目覚めの君
 つぼみ
 先生
 いつの日か君のとなりに
 羽化
 嘘とお嬢さん
Illustrator
 
Attraction
 カトチャでGO!
 御覧あれ!


SPY
[02]


私は間違ってない。
嫌いな人を嫌いと言って何が悪いの?言わない方が間違ってるのよ。
強情?勝気?笑わせないで。
軟弱ものより何倍もマシだわ。
自分の意志は自分で貫く。
それが出来なかったら、存在価値なんてないじゃない。
好きは好き。嫌いは嫌い。
どうしてこんな簡単な事ができないの?


翌日の朝、オスカーはやっぱりジュリアスの執務室に訪ねる事になった。
理由は簡単、大事な書類を持ったままオスカーが執務室から逃げだしてしまったからである。
もちろん、ジュリアスに言われた提出一時間前にもオスカーはジュリアスの執務室に訪ねる事は出来なかった。
心底怖かったのである。騎士たる者そんなのでいいんかと言われたら、駄目に決まってるが、騎士だって怖いものは怖い。
オスカーは、結局大事な書類をジュリアスにもう一度届けなければならなかったのだ。

(怒りが静まっているといいんだが)

案外根に持つタイプだから困る。
オスカーは例によって扉の前で立ち止まっていた。
なんせ「金髪ハゲ」なんて、生まれて初めて言われた言葉だろう。ゼフェルが使う言葉みたいに、安易でありふれた形容だったらまだしも、「金髪ハゲ」だなんて‥‥。
(髪が金髪でハゲてるって事は‥‥つまり、どういう状態か全然わからんが‥‥)
とにかく、悪意の塊である。
(アンジェリーク‥‥あのおとなしそうな女王候補が)
あのあと、言い逃げるように執務室を飛だしたあの身のこなし、ただ者じゃない。
ジュリアスの震える肩と、アンジェリークの廊下を駆ける足音を見比べ、オスカーはアンジェリークを追い掛けるフリをして逃げたした。オスカーがドアの向こうに飛びだした時には、遥か彼方、アンジェリークは見えなくなっていた。
(‥‥ああいう変なのには関わらない方がよさそうだ)
そう、今自分の抱えている難題は、もう一度ジュリアスに書類を渡す事。
はあ、と溜息をついて、唾を飲み下し、ドアをノックした。
「入れ」
するといつもの短い返事が返ってきて、少し安心する。
「失礼します」
がちゃり、と音をたててドアをあけると、意外にも「通常の」ジュリアスが立っていた。
「オスカーか。例の書類だな」
笑顔が覗いて、オスカーは肩の荷が下りた気がした。
(なんだ、怒ってらっしゃらない)
自分も心なしか声も明るくなる。
「はい。昨日が期限でしたがロザリアに延ばしてもらいました。明後日の5時までです」
「そうか、御苦労だったな」
ジュリアスがいつもの笑顔で、オスカーをソファに勧めた。
昨日の今日にしては異様に機嫌がいいのが気になるが、こういう対応はありがたい。きっと昨日の件はなかった事にしたいのだろうと思って、オスカーは革張りのソファに腰掛けた。
ぎちり、と音を立てて軋む。
そして隣からもう一回、ぎちりと軋む音がした。
ジュリアスがオスカーの横に腰掛けたのだ。
(!?)
普段オスカーはこのソファにすわって、執務机についたジュリアスと話す。
ジュリアスが、一緒に並んで座るなんて‥‥めったにない。
オスカーは驚き目をむいて隣を仰ぐと、そこにはきらきらと瞳を輝かしたジュリアスがいた。
「‥‥?ジュリア‥‥」
「オスカー、そなたにはいつも感謝している」
「はぇ?」
おもわず二枚目らしからぬ声をだしてしまって、オスカーは口元を押さえた。
ジュリアスが、しおらしく自分なんかに礼を言っている。
それも指を組んで、恥ずかしそうに俯きながらだ。あまり人をほめる方ではない。上機嫌の時ならまだしも、あんな事があった後に。
あっけにとられたオスカーは口を開け、隣に座った上司を物珍しく眺めた。
そんな内にも、ジュリアスは次の言葉を発している。
「そなたは私の大切な友人だ。そなたの働きには感謝せずにはいられない。どこかの誰かに見習って欲しいぐらいだ」
「‥‥ジュ」
「そなたのような友人をもって私は果報者だ。そなたは私の言う事をなんでも上手くこなし、役立ってくれる。そなたなしの執務など考えられない」
「ジュリ」
「そういえば先週のプロジェクトにもたくさんの意見を出してくれたな。素晴らしかった。あのような発言がやがては宇宙の貢献となり、惑星を育み、陛下への期待に」
「ジュリアス様!ちょ‥‥っ、待って下さい」
勢いにのったジュリアスの誉め殺しに、流石のオスカーもストップをかけた。そんな様子にジュリアスは心底怪訝そうに問う。
「なんだ」
「‥‥その‥‥なんというか、‥‥‥‥どうなさったんです?」
「どう、とは?私はいたって冷静だが」
「‥‥そう、‥‥ですか?」
フに落ちない。だがジュリアスがそう言うのだから、これ以上ツッコめない。
オスカーは眉根に皺を寄せながらもう一度ジュリアスを眺めると、ジュリアスは優しい笑顔で応えた。
「いいから聞くのだオスカー。そなたの活躍には私はとても感謝していると言っているのだ」
「はぁ‥‥」
「だから私はそなたに今後の活躍も期待しているのだ」
「‥‥はぁ」
「そういう事で、オスカー」
ジュリアスが、オスカーの肩に手をのせる。

「アンジェリークを、調べてくれないか」

さすがに、我が耳を疑う。
数呼吸置いた後、ようやく声が出る様になった。
「アン‥‥ジェリークを、ですか?」
「そうだ」
と言って、ジュリアスはソファから立ち上がるとオスカーに背をむけて、握りこぶしを固める。
「正直、あの者に、宇宙の女王の素質があるとは思えないのだ」
「‥‥‥‥」
それて、確かにそうかもしれなかった。昨日の一件を見る限りでは、とても慈愛という性質ではなかったような気もする。
なんせ守護聖にむかってお山の大将だの言ってのける娘だ。
だが、このセリフをジュリアスから聞くとでは、重みが違う。守護聖筆頭が女王候補は女王にはむいてないと言っているのだ。
オスカーはその言葉を撤回させなければならない気にかられた。ジュリアスには責任がある。
「しかしジュリアス様、アンジェリークは実際に宇宙の意志が選んだ‥‥、つまり正当な」
「わかっている!」
そう言うと、ジュリアスは声をあらげて振り返る。その表情はいつになく厳しくてオスカーは目を見張った。さきほどの笑顔など、どこにも残っていない。蒼い瞳が正義に燃えていた。
「アンジェリークは正当な女王候補だという事も、アンジェリークに素質があるからこそ選ばれたという事も、承知だ」
「ならば、」
「だが、それは素質を開花させてからの事だとは思わぬか?オスカー」
「それは‥‥」
言葉につまる。
アンジェリークがあのままで、もしも女王にでもなったら宇宙はどうなるか明白だ。均衡崩壊による、貧困、疫病、戦争、殺戮‥‥、そして宇宙自身の崩壊。
あのままでは不安なジュリアスの気持ちもわかる。守護聖をまとめあげる役職についている彼ならその思いは人一倍強いのだろう。
(だが‥‥)
ジュリアスの期待に応えれば、自分はスパイまがいの事をしなくてはならないのだ。それは騎士道に反する。
ジュリアスは押し黙ったオスカーの肩に、もう一度手をのせた。
「アンジェリークの事がよく解らない内は、こちらとしても指導ができないのだ」
「‥‥‥‥それは解りますが」
オスカーの声は消え入りそうだった。
「俺じゃない誰かに適任は? 研究員のエルンストあたりは」
「‥‥研究院にはすでに調査を始めてもらっている」
「‥‥っ」
「だが私が真に欲しているのはアンジェリークの精神面の情報なのだ。研究員たちはアンジェリークの故郷での生活環境を調べる事はできても、考え方や道徳までは調査不能だという」
研究員たちはデータからデータをはじき出す。だから調査したとしてもアンジェリークの成績や出席日数ぐらいが限度だ。
誰とどう付き合って、誰に感銘を受け、何を目指し、どう生きていくのかをまとめあげたデータなど何処にもないから。
(だからって、俺がスパイなんて)
それはおかしい。
オスカーはジュリアスを振り仰ぐ。
「ならば、ルヴァとか、なんならリュミエールにでも‥‥、ジュリアス様御自身は」
「私はあの者に随分と嫌われてしまったようだ。私が何を聞こうとしても、きっとあの者は答えないだろう」
「‥‥‥‥」
それは、そうかもしれない。
オスカーは次の手を巡らす。
「マルセルあたりなんてどうです。あいつはああ見えても話し上手の聞き上手です」
「‥‥そなたは幸い、女性と話すのを得意としている」
オスカーはびくりとした。
「これ以上の適任はない」
そうくるか。
(これは‥‥逃げ場がない)
数々の女性との交際が、こんな所で裏目に出るとは。
こんな事で、俺がスパイを?
オスカーは膝に置いた拳を、強くにぎりしめた。
「頼んだぞ、オスカー」
わざとらしいほど優しい声。相手はいつもオスカーの上をいく。
そう。怒っている時よりさらに逆らえないのは、冴えている彼なのだ。
「このことは、重大機密として扱う様に。報告は毎週土の曜日の午後に聞かせてもらおう。‥‥以上、下がってよい」
「‥‥はっ」
そうして、オスカーは重大な仕事を背負ってしまった。


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