Shangri-La | angelique
  
 
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LOLLI-POP CANDY
<<Part:9>>


今日のように天気のいい日は、拍車をかけて執務に対する意欲がそがれた。
仕事はしたくない、でもやることがないという状態でゼフェルは執務机の上に足を投げ出し、マイナスドライバーを器用に指で回転させながらただ無為に時間を過ごしていた。
どっかに、ふけちまおうかな…
無意識のままドライバーを回し、そんな不謹慎なことを思ったそのとき、その考えを断ち切る、ちいさな天使がやってきた。
ゼフェルは思わず、足をおろして立ち上がっていた。

「…ぜー、さま。こんにちは」
ちいさいアンジェリークはいつものように、細く開けたドアの隙間から、小首をかしげる様にして顔をのぞかせた。どうしても「ゼフェル」と発音できないアンジェリークが、彼女だけの呼び方で、自分に話しかけてくる。
アンジェが来た!
「よう、ちび。今日はなんの用だ?」
ゼフェルはそういいながら、アンジェリークを高く抱き上げた。
ゼフェルの腕が掲げるようにアンジェリークを持ち上げると、アンジェリークはその腕を一杯にゼフェルの方に伸ばして、嬉しそうに声をあげた。
真直ぐ自分に向かって伸ばされるちいさな手に、ゼフェルはたまらなくなる。
離しているのが物足りなく思えて、アンジェリークをすっぽりと自分の腕のなかにおさめた。
自分に向かって伸ばされたちいさな手は、白いマントをきゅっと握っている。
「ぜーさま。今日は、おねがいにきました」
ゼフェルの腕の中で、アンジェリークは小さな顔をそっと赤くして言った。
とろけるようにやわらかい頬が、腕にさわった。
っかー!
ゼフェルは何故だかたまらなく恥ずかしいような気分になって、腕の中の少女の髪をくしゃくしゃとかきまぜる。
栗色の髪が指先をすべって、アンジェリークもくすぐったそうに、はにかんだような笑い声をあげた。
何でだろう。
なんでこいつ、こんなにかわいいんだろう?
餓鬼なんて、皆汚くてびーびー泣くだけの面倒臭ぇもんだと思ってた。
くしゃくしゃにされないように、髪を手で押さえているアンジェリーク。
このちいさな、ぷにぷにした手。嘘みたいにちいさな爪。
こんなのが、ちゃんと動くんだよな…
当たり前のことだと解っていても、ゼフェルはアンジェリークの指を見るたび奇跡を見たような思いを抱いてしまう。
「お願い、って育成でいいんだな? 」
くすくすと笑っているアンジェリークの髪を整えてやりながら、ゼフェルは椅子に戻った。膝の上にちょこっと座ったアンジェリークは、こくりと頷く。
「あとね、おはなし」
「…育成とお話?… 」
それは、アンジェリークがずっと、この鋼の守護聖の執務室にいるということだ。
「…ふーん」
何気ない風を装って適当な返事をしたものの、ゼフェルは顔が笑うのを止められなかった。

アンジェリークが今の姿になってしまってから、ゼフェルの執務室に、ちょっとした変化があった。
まず、年中床に散らばっていた設計図やらテストデータやらが片付けられるようになったこと。
大理石の床に放置された紙を踏んで、アンジェリークが転倒したらどうするつもりだと守護聖首座に言われ、珍しく納得した結果だった。
もうひとつは、丈の低い、ちょっとした飾り棚が据え付けられたこと。
そこには、今までゼフェルが作ってきた作品達が並べられている。
もちろん、アンジェリークが手にとって、遊べるようにである。
ゼフェルの膝から降りたアンジェリークは、その飾り棚の前でじっと立っている。
棚のなかにあるのは、彼女には魅力的なおもちゃたち。
半ば魅入られたように立っているアンジェリークを、ゼフェルは頬杖をついて見ていた。
今日はどれを選ぶかな。
並んでいるのは、どれも習作である。こうしたおもちゃじみた物から、大掛かりの作品のためのテストデータを取る。
ゼンマイとタイヤで円を描く猫や、前進と後退をランダムに繰り返すブルドーザ、モーターの三段階変動可能にした鳥の翼、センサーで光源の情報を識別し文字を表示する掲示板。
ゼフェルにとってはもはや用済みなのだが、彼女にとっては宝箱のようなものだろう。一日一つと決まりがあるわけでもないのに、アンジェリークは決まっておもちゃをひとつだけ選んで、それで心底楽しそうに遊ぶのだ。
棚の前で、ちょっと手を伸ばし、すぐひっこめて、首をかしげるようにしてじっと見つめる。
「何で遊んでもいいんだぜ、アンジェ。いっぱい取れよ」
ゼフェルがそう言うと、アンジェリークは、ぱあっと顔を明るくする。嬉し気にこくりと頷いて、ふたたび選別作業に没頭していく。
自分の作ったガラクタに瞳を輝かせてくれるのは、照れくさいが、正直嬉しい。
「…ぜーさま。…これで、あそんでもいい?」
ちいさな声で、アンジェリークが指を指した。
ようやくアンジェリークが選んだのは、ちいさなロボットである。銀の円柱の身体に、申し訳程度の手足、半球型の頭には黄色のライトの目と、くぼみで表された口が付いている。
アンジェリークの選択にゼフェルはよっしゃ!と声をあげたい気分であった。
このちいさなロボットは、習作というより、アンジェリークの為に用意したものだったから。ちいさなアンジェリークの手の平に乗ってしまう程度のロボットだが、ゼフェルの施せる技術がふんだんに盛り込まれている。
「自分で取れよ、アンジェ」
ゼフェルがそういうと、アンジェリークは瞳をきらきらさせてそのロボットを、そっと手に取った。さあ、うまく動いてくれよ。
「こんにちは」

アンジェリークは一度大きく瞬きをして、きょろ、とあたりを見回した。
そうして、大きな瞳をこぼれ落ちそうなほど見開いて、手の中のロボットを見つめる。アンジェリークがてのひらにそれを納めたとたん、ロボットが喋る、そういう仕掛けを施したのだ。ロボットの足の裏に設置したセンサーが、手の平の温度に反応するのである。
「こんにちは」
ロボットがしゃべる。アンジェリークは大きな瞳のまま、ロボットと、ゼフェルを交互に見て、ゼフェルのもとに走って戻ってきた。
「ぜーさま!このこおはなしするよ!」
両手で包むようにしてロボットを持っているアンジェリークは頬を紅潮させていた。
よっっしゃ、成功!
ゼフェルは快哉を叫びたい気分で、しかしそれを懸命にかみ殺して、アンジェリークを膝の上に座らせた。
ちいさなアンジェリークはじっとロボットを凝視して、時折背中をあずけたゼフェルを振り返る。
「ぜーさま。このこね、おはなしするのよ」
「本当かー?おめぇ、ちゃんと返事したか?」
顔がむずむずと笑い出すのを堪え、すっとぼけてゼフェルが言うと、アンジェリークは真剣な顔で首を横に振った。
「じゃあ、今度はちゃんと返事してやれ」
返事をすることが重要な任務であるように、こくり、とアンジェリークは深く頷いた。そんなアンジェリークの頭をなでてやる。
「こんにちは」
ロボットが発言する。設定秒おきに繰り返される電子音。アンジェリークは顔を赤くして、こんにちは、と返事を返した。
これでいい?と言う様にゼフェルを振り返る。やわらかな頬を指でかるくつついてやる。アンジェリークは嬉しそうに笑んだ。
第一関門は突破。次のセリフが出るか?
「おなまえは?」
「…あんじぇ」
ロボットの製作者は満足げに頷いた。
彼の施した人工知能は、きちんと動いているようだ。膝の上の女の子は、瞳を輝かせてロボットと話をしている。
くすくす、と耳にくすぐったい声で笑って、ゼフェルを振り返る。
ゼフェルはこの小さな女の子を喜ばせることができて、自分でも驚くくらいの幸福な気分になっていた。
栗色の髪を梳いてやりながら、次はどうしようか、と考えるゼフェルであった。

執務室の扉を出た時、アンジェリークが言った。すっかり外は夕暮れである。
ロボットを部屋に連れてかえると言い出したアンジェリークに、こいつは執務室の外から出ちまうと魔法がとけて口が聞けなくなっちまうんだ、と苦しい嘘をついて会話を終わらせた。
単に用意しておいた会話パターンが尽きてしまったのである。これ以上続けると、最初の「こんにちは」からくり返しになってしまう。
「ぜーさま、またあした来てもいい?」
ゼフェルはアンジェリークを抱き上げてやりながら、別にかまわねーけど、と言った。今日収集したアンジェリークの返答を基礎データとしてデフォルトに設定し、会話パターンをAIに反映させられれば、明日には更に高度な会話の成立するロボットになるだろう。
明日もアンジェが来るというなら、ゼフェルは今晩、かなりの睡眠時間を割くことになる。
こりゃ一苦労だな、と内心思ったが、
「ぜーさま、ほんとうは、まほうつかいなの?」
そう言って、嬉しそうにぎゅっと首にだきついてきたアンジェリークの為ならば、それも楽しいかもしんねー、とゼフェルは思うのだった。


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