Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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 笑顔のゆくえ
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笑顔のゆくえ
<<Part:11>>


「さて、と‥‥」
オスカーはテーブルに瓶をかちゃかちゃと置いた。やっと両手が解放された、と小さく笑ってアンジェリークを振り返る。
「お嬢ちゃん、その棚にグラスがはいってるから二つ用意してくれるか?」
アンジェリークは待ってましたと言わんばかりに意気揚々と棚に駆け寄った。お酒を飲むのには淵の薄いグラスがいいと知っていたから、その棚の中でも一番薄くて繊細なものを選ぶ。
良い酒を美味しく頂くためにはグラスも大事だというのがアンジェリークの持論である。見た目も美しく、なおかつ香りすら味わえそうな物‥‥とアンジェリークがいつになく真剣にグラス選びをしているので、オスカーは少し驚く。
「‥‥お嬢ちゃん、ひょっとして結構いけるクチか‥‥?」
「‥‥‥‥さぁ」
限界が何処だかわからないから返事はまたそっけない物になってしまったが、オスカーはもう慣れてしまった様で全然気にしてない風だった。そのかわり見た事も無いような神妙な顔つきでこちらを見ている。
「‥‥しかし、お嬢ちゃんはお酒に弱いと踏んでいたのに、参ったな‥‥」
グラス選びの手を止めて振り返る。
「‥‥は?」
「いや、‥‥笑い上戸だったら最高だな、なんて考えてたんだ。お嬢ちゃんの笑顔を肴に飲む酒、なんて素敵だろ?きっと花やら月やら眺めるよりずっと美味しく頂けると思ったんだが‥‥。強いとなると‥‥、やっぱりお嬢ちゃんは一筋縄じゃあ
いかないらしい。まぁ、そこが魅力なんだが」
「‥‥‥‥」
黙殺して棚に向き直り、グラスを選び出した。ワイン用のを2脚とシャンパン用のを2脚、テーブルの上に配置してみる。
グラスと木目のテーブルとがまるでお酒のCMみたいに合っていてアンジェリークはこっそり感動した。
こんな所に来たのは誤算だったけど、良い思い出づくりになりそうだ。いそいそと椅子を引く。
(極上のお酒に極上のセッティング‥‥)
うっとりと溜息をつくとお酒のおまけに付いてきてしまった男がアンジェを呼ぶ。
「そこじゃない。こっちに持ってきてくれ」
「こっち?って‥‥何処ですか」
椅子に座ってさぁコルクの栓を抜こうかな?そうしよっと、とか考えているアンジェリークに、オスカーは変な事を言う。
呆然としてるアンジェに悪戯っぽく目を細めて笑うとベットの前の絨毯に直に座った。
「テーブルよりこっちの方がくつろげるだろ?」
「‥‥‥‥」
(なんでこんなに良いお酒を地べたで飲むんだ)
どうせだったらちゃんとした所でちゃんとした味を確認したいじゃないか。
キャンプファイヤーで飲むビールじゃないんだからっと憤慨して、アンジェリークはしぶしぶテーブルから移動する。
グラスもボトルもなんもかんも大移動して、オスカーの隣に座った。
(‥‥ああ、)
なるほど、ベットのスプリングのマットがふかふかの背もたれみたいになる。それに格式張ってないから、不思議と肩の荷が下りる。
寮ではそのまま座るなんて不作法はやった事がないから目線が下になると不思議で懐かしい感じがした。
新鮮な驚きにアンジェリークはオスカーを見ると、言ったろ?というような自信に満ちた表情になった。
「たまにはこんなのもいい」
「そう、ですね‥‥」
しかし、目線が下がった分、部屋はますます広く感じた。
だだっぴろい部屋に男と二人っきりという感じが強くなって、なんだか気持ちが悪い。
すこし眉を曇らせると、オスカーは面白いものを取り出した。赤のガラスの球体の容器ようだった。
「‥‥なんですか、それは」
「いい物。特にお嬢ちゃんにはな」
ローブのポケットからライターを取り出すと、ガラスの球体の蓋を取り、中に入っていた蝋に火をつけた。これはクリスマス時期になるとデパートでもよく見かけるあれだ、とアンジェリークは思った。じっさいそれはガラス細工が馬鹿のように細かくなければ役割はまったく同じのようだった。小さな炎がちらちらと揺れていて、明かりを採るにはあまり最適ではない中途半端な蝋燭である。
貧弱な炎はアンジェの呼吸だけでも消えてしまいそうに大きく揺れて、いかにもな感じの蝋燭である。
「どうするんですか?」
こんなもの、と付け足そうとしたアンジェリークを制して、オスカーは立ち上がり、ベットサイドのスイッチをぱちりと押した。
闇が訪れた。
「わ‥‥」
すると、部屋の照明が全部消えて蝋燭だけの小さな空間が出来上がる。
赤いガラスを通った光は、赤味を帯びて、ふわふわと揺れている。
アンジェリークの嫌った余計な空間は闇に沈み、世界はただ、この小さな光が当たる部分だけになった。暖かく染まった世界は静かで無駄がない。
それはゆれる蝋の炎にあわせて、神秘的な空気を運んだ。
アンジェリークは驚いて辺りを見回すと、天井と壁に、何やら模様が出来ているのに気がついた。
星だった。天井と壁をスクリーンに簡易プラネタリウムをやっているのである。小さく光るそれらはまるで夕日に浮かんだ宵の明星のように輝いていた。
(‥‥綺麗‥‥‥‥)
オスカーはアンジェリークの隣に座りなおしたらしい。顔を覗き込まれていた。はっと現実に引き戻されたアンジェリークは思わず開いてしまった口を塞ぐ。
「どうだ?気に入ったか?」
素直にうんと頷けないアンジェリークは、うっすらと頬を染めて、戸惑った瞳をうろうろさせる。
「テーブルで愛を語らうものロマンティックでいいが、こういうのも悪くないだろ?」
「‥‥そう、ですね‥‥」
やっとそう答えて、オスカーを見上げると、赤く淡い光に照らされたオスカーは優しく微笑んだ。瞳が優しくて、やっぱり目を反らした。
照れてしまったアンジェリークにフッと笑うと、
「なんせ、こっちの方がお嬢ちゃんとの肩が近いしな」
そう言ってアンジェの肩を引き寄せた。
「‥‥‥‥」
ひきはがした。
この人の言っている事は、いつも解らない。
真剣だったり冗談だったりの繰り返しで、いつもどれが奴の本性なのか見失う。
総てを見透かした馬鹿にしたような目も慈しむような優しい瞳も同じなのに、含んだ意味は全然違う。この男本人にしたって気を使ってるんだか無神経なのか解らない。
(例えばこの蝋燭とか‥‥)
簡単な照明を使って、安心できる空間を作り上げた。一瞬、ここの世界に来てはじめて地面に体重を預けられた気分になってしまった。
優しい光。どこか心の底で張り詰めていた物が溶けていくような‥‥。
(どうしてこんなに‥‥)
良くしてくれるのだろう‥‥?
アンジェリークは不思議そうにじぃっとオスカーを見た。
視線に気がついたオスカーは、
「‥‥‥そんなに怒るなよ。わかった、冗談だ。」
少し怯える様に近付けた肩を離した。
体温が遠退いて、急に肩が寒くなる。
咄嗟に、アンジェリークは離れたオスカーのバスローブの袖を掴んだ。
オスカーが、驚いて目を見開く。
「‥お嬢ちゃん‥‥?」
「‥‥っ、‥‥ごめんなさい」
あわてて、握ったものを放した。タオルの感触が手のひらから消えると、また寂しいような寒さが胸の辺りをかけぬけた。
‥‥私、どうかしてるんだ。
アンジェリークは心の中でそう呟いた。

グラスに注がれたスパークリングワインを傾けると、そんなことも自然とどうでも良くなってきた。美味しい。
世界にこんなに美味しいお酒があるのか、と初めて知った。程よい酸味、口当たりの良さ、品の漂う香り‥‥。
甘さはそんなに無いのに、果物独特の優しい後味が次の一口を誘う。炭酸のフランクなかんじがお子様のアンジェリークにぴったりで、アンジェリークは思わずピッチを上げてしまいそうになる。高い酒高い酒と自分を制しながらちびちび飲むが、それもそろそろ限界である。
「‥‥本当に強いな」
オスカーは半ば呆れて、そう言った。それでもまだ細いグラスに一杯ちょっとしか飲んでなかった。ここで酔う奴はそんなにいないと思うのだが。よっぽどオスカーはアンジェリークの事を「弱そう」と思っていたらしかった。オスカーはラベルの裏のアルコール度数を確認すると、もう一度アンジェリークの顔を確認して、さらに感心するのだった。
「旨いか?」
「美味しいです」
かつてアンジェリークの口から、こんなに積極的に形容詞が飛び出た事はあったろうか。
「‥‥4本で足りるといいんだが‥‥。俺のぶんも残しておいてくれよ、お嬢ちゃん‥‥」
寮にもって返りたいなどと考えていたアンジェリークに返事はできなかった。

さしあたって話題もないまま瓶を一本空けてしまった。
そろそろアンジェリークの頬も赤味がさして、目もとろんとしてくる。
弱いつもりはなかったが、部屋が暗いせいもあって眠気が訪れるのがいつもより数段早い。隣で化け物を見るような目で見ている男に寄り掛かりそうになって体勢をなおす。
(飲んだら吐くな、吐くなら飲むな‥‥)
意味不明の標語を掲げて、眠気と戦っている時に、オスカーの真面目な声がした。
「お嬢ちゃん」
「‥‥なんですか」
「初恋はいつだ?」
アンジェリークは吹き出した。一気に目が醒めてしまった。
オスカーの口から初恋なんて単語が飛び出すなんて思いもよらない事である。
驚いて口をぱくぱくさせると、オスカーは、
「こういう時は恋愛の話をするって決まってるだろう」
とふんぞり返る。イベントの夜は恋愛話。いったい誰が決めたのか知らないが、思い返せば修学旅行などの夜は大抵そんな暴露話が主流であった。しかしそれが宇宙を支える守護聖でしかも筆頭の右腕とまで言われた男にも通用するとは思わなかった。
「どうなんだ?」
大人の男が、しかもプレイボーイだとか自分で言っちゃうような男が、18だか17だかの小娘に初恋の話をせがむ図は、かなり恐い。
心の中で思いっきり引いてしまったアンジェリークは、
「‥‥‥特になにも」
と適当に返事して、ワイングラスを傾けた。この赤い液体は少々渋みが強めで舌に葡萄の皮の味が残っている。料理と一緒だったらもう少しいけるのだが、いかんせんつまみがない。
「初恋でなにかあったらそりゃ凄いぜ」
「‥‥‥‥いえ、そういう事でなくて」
頭の中で「この下半身!」と罵りながら義務感だけで一応つっこむ。
オスカーは一足はやくグラスを空にすると、床に置いた。
ふぅ、と酔いしれた溜息をついて、
「お嬢ちゃんが恋してる所、想像もできないな」
といいながらグラスに赤ワインを注ぐ。
「やっぱり、好きな奴に声を掛けられると頬をそめたり、バレンタインに手作りチョコレートをつくったりするのか?」
「‥‥‥‥」
オスカーの女子高生に対する偏見を垣間見て、一瞬絶句する。
「‥‥手作りの子もいるけど‥‥普通は既製品です」
「渡したのか?体育館裏に手紙で呼び出して?」
「‥‥ロッカーに。今どきそんな子はいないです」
「返事はどうだったんだ?」
「‥‥‥‥‥‥」
さすがにその後は言えない。プライベートである。
「そうか、可哀相に」
アンジェの沈黙を勝手にそう解釈すると、オスカーは慈しむような目でこちらを見てくる。しかし振られたのは当たっているから無性に腹がたつ。余計なお世話だと言い返してやりたくなったが振られた事の肯定になるからここはぐっと我慢である。
アンジェリークの通うスモルニィは女子校だから、成功率は格段に低いのだ。思いだすだけでも嫌な過去に触れられて、アンジェリークのグラスの高級ワインはいっきにヤケ酒の扱いを受けた。
「しかし、世の中には馬鹿な男もいるもんだな」
「?」
「お嬢ちゃんをふるなんて、そいつは見る目がなかったんだな。良かったじゃないか、馬鹿な男と付き合わずにすんで。見る目の無い馬鹿とつきあったって時間の無駄だろう。それにそんな奴は元々お嬢ちゃんには相応しくなかったのさ」
「‥‥‥‥」
過去の一瞬でも好きだった奴をここまでボロカスに言われればそれはそれで腹がたつ。ぎらりとオスカーを睨むと、オスカーはアンジェの顎をひょいと上に向かせた。これで完璧に視線が交わる。
(あれ?)
いきなりの行動に目を白黒させていると、オスカーの腕がアンジェリークの肩にのびた。
持っていたグラスから赤い液体がこぼれた。
オスカーの胸に倒れこんだアンジェリークは腕の強い感じに我にかえった。
あたたかくて、しっかりとした体で、アンジェリークを包む。
このシチュエーションはまるで‥‥‥‥。
‥‥朝のと同じではなかろうか‥‥。
男の人の香り、赤い髪、しなやかな筋肉、長い腕、暖かな別の人の体温。
しっとりと髪に滑り込んだ長い指が、オスカーの傍にいることを強要する。
徐々に体を強ばらせるアンジェリークにオスカーは耳もとで囁いた。
「俺なら、絶対お嬢ちゃんを振ったりするような馬鹿はしないぜ?」
「‥‥っ」
「俺はお嬢ちゃんの良さをしってるからな」
オスカーはそう言って、ぎゅっとアンジェリークを抱き締めた。




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