Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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 笑顔のゆくえ
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 いつの日か君のとなりに
 羽化
 嘘とお嬢さん
Illustrator
 
Attraction
 カトチャでGO!
 御覧あれ!


笑顔のゆくえ
<<final>>


アンジェリークは女王候補である。
それはつまりアンジェリークが次の女王になる事を意味しているわけで‥‥。
この状態は女王試験にはふさわしいとは言えません。

「‥‥っはなしてくださいっっ!」
アンジェは精一杯オスカーの胸を押し退ける。
「離さないっ‥‥」
オスカーは抵抗するアンジェを抱き締める。
「っ〜〜〜〜〜〜」
またオスカーの胸に顔を埋めたアンジェは、もう一度、全力でオスカーを押し退けた。
そうするとまたオスカーは大人の男の力でアンジェを引き寄せる。
「離して‥‥っ」
「離さない‥‥っ」
「はなしてください〜〜‥‥っ!」
もう、かれこれこんなやりとりが5分位続いていたのだった‥‥。
細い腕に全運動神経を集結して、力の限り歯を食いしばりオスカーを引き剥がそうとしても到底無理のようだった。
なれなれしく背中に廻された腕に力がこもる度にアンジェリークはオスカーに抱き締められる。バスローブはじたばたしているうちにすっかりはだけてしまっているから、引き戻されればオスカーの生の胸板に頬を寄せる格好になり、ますます恥ずかしい。
暖かい感触、筋肉のしなやかな張り詰めた感じ、なにもかも生で伝わってくるからアンジェリークの腕にも自然と力がこもる。
もう一度大きく息を吸い、力一杯肘を伸ばして押し退けてみても、すぐに元通りにされた。
「無駄な抵抗ってやつだぜ、お嬢ちゃん」
オスカーが、それを言ったらお終い的発言を上から零す。
「一体何をそんなにムキになってるんだ?」
余裕でアンジェリークを抱き締める。回された手でうなじの辺りをさらさらと触られると、一瞬で鳥肌が全身を駆けぬけた。
(ちくっしょ‥‥お)
アンジェリークはもう一度意を決してオスカーの胸をぎゅぅっと押し退ける。
(もう‥‥ふりまわされないっっ)
渾身の力をこめて、腕が逸れるまで、オスカーの胸をより遠くに。
(うう〜〜〜〜〜っっ)
しかしそれも溜息混じりにオスカーがまた引き寄せる。ぺちっと肌と頬があたる音がして、アンジェリークはばぁっと赤くなった。
再び、暖かい感触。
オスカーの鼓動が聞こえる。
回された逞しい腕に体重を委ねてしまうと、とてもとても気持ちがいい。
(‥‥駄目だってばアンジェリークっ)
もう一度、とオスカーの胸に手を掛けた。
(負けちゃ駄目ぇ〜っ)
ぎゅうっと目を瞑って、今なら手からサクリアが出せそうな程力を込めて、何もかもを込めてオスカーの大きな身体を押し退ける。
「お嬢ちゃん‥‥」
あきれた声でオスカーが囁く。
「無駄だと思わないのか?」
背中のオスカーの腕がぎゅっと引き締まると、またぺちっという音と共にオスカーの胸に戻される。
「学習しようぜ、お嬢ちゃん」
クッ、と咽の奥で笑う音すら、よく聞こえる。オスカーが息を吸うと、胸がふわりと浮いた。酔いそうだ。
「放してください‥‥っ」
「何でだ?」
「何でって‥‥」
(アホかおまえは〜〜〜〜!)
そんなもの嫌だからだとか女王候補だからだとか私が抵抗してるからとかまだ子供だからとかいろいろ駄目駄目じゃない〜!
目の端に、涙が浮かぶ。
これがプレイボーイというなら世間は間違ってる。
これはイタイケナ少女をいじめて楽しんでいるだけじゃないか!
「いいから放してください‥‥っ」
「何がいいんだか‥‥」
くすくす笑って、またうなじの髪を遊んだ。冷たい風が全身を駆け抜けて背筋を正すと、オスカーは悪戯っぽくにやっと笑った。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
もう、愛想が尽きた。
どうなっても知るもんか。
アンジェリークは手のひらを拳に変えた。
(喰らえ、正義の鉄拳!)
それを、怒りにまかせ丁度オスカーの胃の辺りにめり込ませた。
俗にミゾオチとか言う場所である。
「カはァッ!?」
目を見開いて口をぱくぱくさせてる男の胸からここぞとばかにり押し退けた。
そうはさせんとオスカーの腕はアンジェの肩を捕らえる。
作戦失敗、心で舌打ち。
オスカーははぁはぁと肩で息をつき、受けたダメージの回復に忙しい。
それでもアンジェリークをしっかりと抱き締めて放さなかった。
「何するんですかっ」
「それはこっちの台詞だお嬢ちゃん!」
「‥‥‥‥」
いや、どう考えても、それはやっぱり私の台詞だ。女王候補に手ぇ出すなんて、そーとー「何するんですか」だ。
しかしオスカーはまったく気にせずに、
「俺に拳で対抗する奴がいるとはな‥こほっ‥油断大敵ってのはこの事か」
いまいちキマらない台詞を吐く。アンジェは心の中でこれは下界の友人たちへの土産話にする事に決心した。
「まったく、本当にやっぱりお嬢ちゃんは一筋縄じゃあいかないな、げほ」
「‥‥‥‥とにかく、やめて下さい」
「けほ、そうだな‥‥、やめよう」
よっぽどミゾオチパンチが効いたのか、咳き込むオスカーは背中の腕を緩めた。解放を待ちわびたアンジェリークも、思わず安堵の溜息をつく。
しかし、すぐに事態は急転する。

「お遊びは、終わりにしよう」

実に楽しそうにそう言うと、次の瞬間、視界がぐらりと回転した。

どさっ

何の音か、しばらく理解に時間がかかる。
それより後頭部痛い。
目の前にオスカーの顔。
背中に地面?

(ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!)

お母さんゴメンナサイ。アンジェリークはいかがわしい子です。
あーもーいろいろ有難うございましたっ。
数々の走馬灯を頭に過らせて、やっと現実に帰ってくる。
(こここここ、これって‥‥、うわ)
両腕をシッカリと地面に押さえ込まれてる。ちょっと力をこめてもちっとも動いてくれない。試しに足も動かしてみたけど
恋愛のプロフェッショナルさんにのしかかられて、もぞもぞするだけで精一杯。
これじゃあウナギかタコじゃないとオスカーから逃げられない。
(ええっと‥‥まって、頭追い付かない‥‥)
あくまでドラマの世界だと思ってた。ちょっと過激な少女漫画にはそーゆーシーンも結構あったけど、誰がこの人相手になると思う?
あの、あの天下の守護聖様が、しかも力司ってるオスカー様が私の上に御降臨。
(‥‥-----ええ?)
天井の赤い夕焼けのプラネタリウム、それに重なってますます燃え上がるオスカーの髪。真剣な瞳。掴まれた両手。圧迫感。
すべての記号を統計すると恐ろしい結果が帰ってきそうで、顔をそむけた。すると、目線の高さに転がったワイングラスが見える。
(ええっと、これは、ええっと)
倒れたグラスと平行な私。平行な私と平行なオスカー様。それの意味する事は‥‥。
(ああ、何でぇ〜〜〜〜!)
オスカーが、オスカーが近い。オスカーがゆっくりと顔を近付けると、瞳が断然近くなる。
ぎょっとして反射的に押し退けようとするけど、腕がびくっとしただけで、されるがままになってしまう。せめてぎゅうっと目をつむった。何が起こるのかパニックでよくわからなら、いっそのこと全然わからない方がいい。
「アンジェリーク‥‥」
響きの良い声で、閉ざされた瞳の向こうで、オスカーが囁いた。
心地意良い響きに、アンジェリークの心臓が多きく揺れた。
息ができない。息を吐くと、たぶんオスカーにかかってしまう。だってオスカーの息が私にかかってる。
「髪をとくと、大人っぽくなるな」
さらり、と何かが髪を触れた。急な刺激にまた腕を痙攣させる。
両手は私の両手を拘束しているから、たぶんあれはオスカーの頬だ。
その証拠に耳もとがくすぐったい。呼吸がすぐ近くで、かすめている。
「柔らかい髪だ」
心拍数が、ぐんと跳ね上がった。
止めていた息がそれに合わせて吐き出される。はあっとこぼれたそれは、自分が驚くぐらい熱かった。どきどきいって、きっと身体全体が熱くなってしまったんだと瞬時に理解した。
唾がうまく飲み込めなくて、悪戦苦闘する。こんな変な体勢でずっと緊張してたら首を寝違えそう。どきどきして、瞼の裏が真っ黄色になりそうだ。
「‥‥瞳を見せてくれないか」
ふいに、耳もとでその原因が囁いた。目を開けろといってるらしかった。
「だ、‥‥駄目です‥‥」
自分の声ではないようだった。ピアノの発表会の時なんかよりずっと緊張して上擦った声。掠れて、消え入りそうだった。
それにくすっと笑って、
「どうして」
という無慈悲な声が囁かれる。さらに理論的な事を喋ってみろというのか。
アンジェリークはまたぎゅうっと瞼に力をこめた。
「駄目‥‥だからっ」
自分でも情けない解答である。息を殺して呼吸をしてるから脳に酸素がいってないみたいだった。思考の鈍るこの状況で口が動いただけでも奇跡的だ。
オスカーは耳をくすぐる様に唇を当てて、
「それは理由になってないぜ‥‥?」
咽の奥で数回笑う。
「こういう場面でも強情なんだな‥‥。ん?」
「‥‥‥‥‥‥」
「だが、真実はそうじゃない」
オスカーはそう幽かに囁いた。

もそっ、とオスカーが身体を離した。
ふわりと身体から誰かの重みがなくなって体温がはなれてゆくのを感じた。
(え!?)
急に寒くなった。
胸のあたりがえぐられたみたいに寒かった。シルクのパジャマに風が入り込んで、ぞくっとする。
(っ‥‥どこに)
アンジェは思わず目を開くと、オスカーはすぐそこにいるのが見えた。
(‥‥ああ)
確認して、安心する。でもすぐ驚いて目を見開いた。
オスカーが慈しむ様に見下ろしている。

「お嬢ちゃんは弱いな」
「‥‥え‥‥?」
「こんな事では、隠し通せないだろう」
オスカーはアンジェリークの腕を引っ張って、座らせた。次から次へと状況がかわってよくわからないアンジェリークは引かれるままに起き上がらされた。
座って、やっと押さえ付けられていた手首に血が通い出したらしく、じんじんと疼き出す。それで、解放された事をおぼろげに理解した。
(‥‥‥‥何)
オスカーはアンジェリークの乱れたパジャマの襟を正してやると、その手で頬を優しく撫でる。
「恐かったか?」
「‥‥??え、」
ろくに返事も出来ずに朦朧と頬にふれる節ばった指をみていると、オスカーは勝手に
「そうか」
と解釈した。頬から手を離すと、ベッドのマットに背をあずけて、はぁ、と溜息をもらす。
「悪かったな」
「え?」
「約束を破った。『もうお嬢ちゃんを汚さない』と誓ったろう」
「ああ‥‥」
(何を今さら‥‥)
状況を飲み込めないながらも、反射的に言葉が浮かんだ。
そうだ。押し倒されて、ほんのついさっきまで、とってもピンチだったはずだった。だったんだけど‥‥。
「‥‥何をしてほしい?」
「は?」
オスカーは、顔を覗き込んだ。その声があまりに真剣で、アンジェリークは瞬きを早める。
「俺に何をして欲しいかと聞いているんだ」
「何って‥‥」
この人は何を言っているの?
一体何からそういう話になったの?っていうかさっきのあれは何だったの?
してほしい?って‥‥ええ?
「よく、‥‥おっしゃってる意味が」
「わからない、か」
「‥‥‥‥はい」
「‥‥‥‥」
オスカーは、座ったまま手をのばし転がったワイングラスを拾った。
それを手の中でころころやると、アンジェリークの瞳を見つめる。
「辛そうだ」
「‥‥‥‥、‥‥」
心の中の何かが、びくっと震えた。
「見てられないぜ」
「‥‥‥‥」
オスカーの瞳が、一途すぎて目を反らす。

「‥‥お嬢ちゃんの、理想の女王候補像が聞きたい」
「え?」
「お嬢ちゃんにとっての理想とは何だ?」
「‥‥‥‥」
それは、よく守護聖から聞かれる事だった。庭園など付き合いで歩く時、話題に困った彼らはそういう無責任な面接をよくはじめた。
どういう宇宙を作りたいか。理想の女王とは何か。アンジェリークはそのたびに状況に応じた当たり障りのない答えを導いた。
今回のこの質問は‥‥どういう答えがこの状況に相応しいのかわからない。
「‥‥理想とされる人を理想としてます‥‥」
簡潔に言えば、こんな事を触れ回っていた。
「‥‥‥‥」
オスカーは、ふぅと溜息をつく。
「また‥‥」
オスカーの綺麗な瞳が、細くなった。

「嘘をついたな」

オスカーの腕が、私の背中をひきよせる。
腕の中にすっぽりとおさまって、またあの格好にもどされた。

「お嬢ちゃんは何が不満なんだ」
「っ‥‥オスカー様」
「俺にどうして欲しい」
「‥‥っや」
「どうして欲しい、言ってみろ」
「何をおっしゃっているのか、解りません‥‥っ」
もう、押しても動かない。オスカーは本気で抱き締めている。
口調も今までにないくらい早い。

「何を我慢してるんだ」

「‥‥‥‥っ」
アンジェリークの肩が、ぴくりと震える。
「我慢なんて」
「してません、か。声、震えてるぜ」
指摘されて、ぴくっ、とまた震えた。
「リボン、どうして蒼のをしていたんだ」
どくっ、と心臓が鳴る。
「何故嘘をつく」
どくんっ、とまた鳴った。
「嘘、ついてないです」
「それが嘘だろう」
「嘘じゃないです」
「女王になりたがってるとは思えない」
どくんっ、と身体中になり響く。
「何故そんなに‥‥」

「何故そんなにいつも泣きそうなんだ、アンジェリーク」

オスカーが、ぎゅっと抱き締めた。

この人は、全部知っている。
全部、私の気持ちを分かってるんだ。

とても、心細い。
こんなに長く一人きりになったのは初めて。
まわりにいるのはみんな知らない人。
闇に突き落とされたみたい。
いつでも身構えるのが癖になった。
頼れるのは、自分だけだった。
頼り無い自分を頼りにするのは、あまりに心細かった。
お母さんをよく思いだす様になった。
友だちの事をよく考える様になった。
そのたびにどうしようもなく恐くなった。
家に帰る事だけが、試験の終了だけが原動力だった。

お家に帰りたい。
帰って、すぐ泣きたい。
誰もそんなわたしを咎めない。
優しく撫でてほしい。
お前はがんばったねって、撫でてほしい。

甘えだって知ってる。
こんなんじゃいけないのも分かってる。
泣いてるようじゃ、女王候補はつとまらない。
もっとしっかりと、自分で立ってなきゃ駄目なのは知ってる。

でも、私は子供なの。
「アンジェリーク」は弱いの。
「アンジェリーク」はどうしようもなく弱いの。

「アンジェリーク」は「女王候補」じゃない。
私は違う。
普通の、普通の女の子なの。

「ふっ‥‥‥‥」
アンジェリークは、オスカーのローブを握り締めた。
力一杯握り締めた。
こめかみに力をこめて、一杯に目を見開いた。
ぎゅっと、全身に力をこめて。
息を飲み込んで閉じ込める。
そうじゃないと、涙が、こぼれてしまう。
「ふっ‥‥‥‥く」
ゆるゆると視界を歪めるそれが去るのをじっと待つ。
乾いてしまうのをじっと待てば、それは去っていくのを知ってる。
いつもの事だった。
いつも、いつもこうして去っていくのを待っていた。
「‥‥っ‥‥ふ」
震える肩も、震える胸も、いつだって待てばどこかに消えていく。
今は、ただ上を向いて、じっとしていればいい。
聖地にきて、一番最初に学んだ事だった。
いままで、ずっとそうしてきた。

「ここじゃ、誰も見てないぜ」
上から、優しい声がする。
柔らかい響きで、包み込む。
「泣いてもいいんだ、アンジェリーク」

大きな手のひらが、優しく頬を包んだ。
震える瞼に唇が降ってくる。
もう、それだけで十分だった。

大きな涙のつぶが、堪えきれずに溢れ出した。



ずっと、誰かにそうして欲しかった。
暖かいてのひらが、ずっと欲しかった。
温もりが欲しかった。
優しさが欲しかった。
寂しかった。
本当に、寂しかった。



「俺に何をしてほしい?」
泣き出した背中を、優しくさする。
「俺に何を望む?」
慈しむ瞳で、髪を撫でる。
「どうしてほしい?」
とまらない涙を、唇ですくう。
「アンジェリーク」
声が出せなかった。涙がじゃまして、上手くしゃべれない。
「どうして欲しい?」
ずっと、願っていた事があった。
「ん?」
馬鹿だから気が付かなった。今ごろ気が付いた。
「何か言いたいのか?」
ずっと願ってた事があった。
「いってごらん」
オスカー様。
私と。
私とお友だちに、なってください。

それが私の望む事。
ずっと欲しかったもの。



「‥‥っ‥‥ひっく‥‥っひっくっ‥‥っ」
「ああ、ほらほら、まいったな。平気か?」
「っく、ひっく‥‥、っ‥‥っっ」
「苦しいか?息、ちゃんとしてるか?‥‥そうか。ならいいんだが‥‥」
「‥‥っく、っく、つ‥‥っん、ひっく‥‥」
「しかしすごいな、一体どんだけ溜めてたんだ‥‥」
「はぁっ‥‥っく、けほっ、けほっ、ひゅー‥‥、くるしっ‥‥」
「落ち着いて、息すって。ゆっくり、ほら」
「っく、ひっく‥‥、っ‥‥っっくはぁ、‥‥はぁっ」
止まらなくなったアンジェリークの涙を、責任をもって止めようとしてるのだが、一向に納まる気配がない。痙攣を始めた身体が痛々しくて、オスカーはぎゅっと抱き締める。
「まいったな‥‥本当に」
アンジェリークもオスカーが真剣に心配してくれるのが解るから、止めなきゃと全力で冷静になってがんばっているが止まらない。
勢いよく泣き過ぎて、ブレーキがきかなくなってしまった。腹筋が痛い。息が上手く吸えない。これだけでまだ泣けそうだ。
しかも抱き締める腕が呼吸を遮ってなお苦しい。抗議したいが声にならない。
せめて正しいリズムで呼吸をしようとその腕の中でもがいている。
「苦しいか?」
何度この質問をされたろう。息切れをおこしながら首を縦にふると、オスカーは慈しむ様にだきしめ背をさする。
「本当に朝から晩まで、ずっと泣きっぱなしになっちまったな」
優しく首筋を撫でた。
「まぁ、あれもこれも全部俺が原因だが‥‥」
ぽんぽん、と背中を叩いて、咳き込むアンジェリークを助けてやる。
そして、時計を見上げた。もう、真夜中の3時を回ろうとしていた。
「笑った顔がみたくて我が家に招待したのに」
はぁ、と溜息をつき、
「結局見れずじまいだったな」
心底残念そうな声でそう言った。
「まったく、本当に一筋縄じゃいかないぜ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥っけほ」
それが本当に残念そうだった。
初めて、オスカーを負かしてやった気分になった。
不思議と呼吸はいくらか楽になって、
アンジェリークはオスカーに隠れて少し笑ったのだった。


オスカーの強さ。それは弱いものを守る事の出来る強さ。万人にそそがれる優しさ。
私の弱さ。弱さを偽る小ささ。下らない考えに捕らわれる視野の狭さ。
少しでも学びたいと思った。見習いたいと思った。

女王試験は面倒臭い。
たくさんの決まり事のなかで、人間関係をクリアしつつ育成をたのみに行くのはめんどうくさい。何より女王になる事に興味がもてない。
ここの生活にもうんざりする。いっその事試験なんて筆記試験とか面接とかですませば良いと思う。
なんなら育成も手紙や電話で頼めばいいと思う。
家で済ませたい、それは変わらない。
自分を大きく見せるのに疲れてしまったから。
家に帰ればそんな必要もないから。
等身大の自分を迎かえ入れてくれるから。

でも、もうちょっとだけがんばってみようかな。

礼儀も遠慮も笑顔も面倒くさいけど、いつもとちょっと変わってきた。
理不尽で腹が立つこともあるけど、面白くなってきそうな予感がするから。

炎の惑星が、ひとつ出来た。

それが私の、小さなたのしみ。



END.

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