Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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笑顔のゆくえ
<<Part:8>>


馬車のを下りるとそこは別世界だったーーーー。
なんてどこかの名作の冒頭をアレンジした文章が頭によぎる。
「さぁ、どうぞ」
とオスカーが気取って館の方向に手を伸ばすと、そこにはバカでかいとしか言い様のない建物があった。
「‥‥‥‥‥‥」
アンジェリークはようやくこのオスカーが守護聖だと言う証明を見た気がした。なにしろ大きい。広い。
宇宙を司る守護聖が宇宙一すごい家に住んでたって何の不思議もない。
(でもこれ、凄いを超越して、なんだか‥‥‥‥)
目眩がしそう。口の中でそう呟くと、本当に目眩がしそうだった。
豪邸というよりギリシャの建造物とというかイギリスの貴族の家というか、外装は白で細部までの彫刻、柱なんて年代物、しかも入り口のドアまでの阿呆みたいな空間と芝生。
いったい玄関までに自分の家が何件たつだろうとアンジェリークは考えたが惨じめになる事が解り切っていたので考えを中断した。冗談みたいに広い。

馬車を下りた二人は、その豪邸までの道を少し歩いて玄関まで辿り着くと、オスカーは自然にノブを握る。
そのドアノブまでもが気が遠くなるような細工を施してあるのに、オスカーは平然とそれをやってのける。
自分の「家」と言い切ったのだから当たり前なのだろうが、なんというのか、この人がこの家に相応しいと思えてきて、アンジェリークは驚きながらそれを見つめた。
視線に気がついてオスカーは目でどうした?と語りかける。
アンジェリークは無表情にそれを見つめる。
(オスカー様って‥‥‥‥守護聖様なんだった)
ドアは開いた。
アンジェリークは開いたドアの向こうを何となく見たくなかった。
そこに広がる世界は、まちがいなく私の世界とは違う事を分かってしまっていたからである。
「我が家へようこそ、お嬢ちゃん」
オスカーがそう言って、気後れし緊張しはじめるアンジェの手を引っ張った。
ドアの向こうに強引に入れられたアンジェリークは、よろけながらも入り口に立たされると、やっぱり予想通り驚いてしまった。
ロビーの広さ。吹き抜けの構造。シャンデリア。赤い絨毯、大理石の床。並ぶ女官たち。輝くばかりとはこの事だ。
おかげで一瞬自分の目を疑っぐってしまった。
「驚いたか?お嬢ちゃん」
オスカーは悪戯好きの少年みたいに笑う。アンジェリークは半ば放心して、うんと頷いた。
(ー凄すぎるー)
宮殿も凄かった。確かに女王がいる建物は違うと思った。でもこれは個人の所有物という点で凄さが違う。家なのだ。
オスカーが起きて、御飯を食べて、出勤して帰ってくる、いわば人生の拠点とも言えるこれが、家なのだ。
これを「俺の家」と言えてしまうオスカーを見上げると、急に館の主〜といった余裕の表情で笑った。
威厳が見えそうになって、あわてて目をそらす。
「じゃあ、客室にエスコートさせて頂こう。あ、あとお嬢ちゃんの風呂の用意、コックにはもう一人前追加と伝えてくれ」
かしこまりました、とウヤウヤしく礼をする女官達。
またもや別世界に閉じ込められたような気がしたが、こういうお姫様なシチュエーションは悪くない気もした。
「さぁ、いこう。少し歩くがその可愛らしい細い足でがんばって着いてきてくれるな?お嬢ちゃん」
そうしてまた手をひっぱられて、赤い絨毯の上をひたすら歩いていく。

案内された部屋は、またもやアンジェリークの驚きばかりで、何処に重点を置いて驚いて良いのかわからなかった。
まず渡された鍵。これがファンタジーSF系に出てくる例の銀の鍵だった。
頭の部分が三つ葉のクローバーみたいな形になってて、キーホルダーのかわりに赤い細いリボンが付いてる。
それが職人技の限界に挑戦するようにいろいろな模様が施されていた。オスカーにドアを開けてみろと言われたので、
言われた通りに開けると、学校の教室の1.5倍ぐらいの広さの部屋が現れた。
最初に目に付いたのが天涯付きベットだった。それから、可愛らしい緑と白の古風な壁紙、アンティークチェアー、レースのカーテン、食器棚、中に入ってる沢山のティーカップ達。軟らかな証明、テーブルの脚の細工。
バスルームにはカーテンみたいなのが付いてて、洗顔、ボディソープ、何から何までそろっていた。
キッチンまで付いていて、食材さえあれば一生中で暮らせる設備がそなえられている。
一流ホテルのスイートに入った事があれば比べる事ができたのだろうが、アンジェリークはその経験がなかったので、ただひたすら目を丸くした。
でも‥‥‥‥、とアンジェリークは少し肩を落とした。
「?気に入ってもらえなかったか?」
「‥‥‥‥いえ、とっても‥‥‥凄いです」
気に入らない奴なんているのだろうか。こんな素晴らしい部屋一生に一度入れるかどうかだ。こんな何処をとってもアンティークな部屋、ただのモデルハウスにさえ住みたい!と思うアンジェリークにとってここは夢のようだった。
でも‥‥‥、とアンジェリークは思う。

(寮の延長だ、これじゃ‥‥‥‥)

ここは広すぎて孤独を味わうには十分すぎる。
豪華な部屋をあてがわれるのが苦痛になるなんて思ってもいなかった。
ただの女子高生には嬉しさを通り越して寂しい。空間が恐い。
(『頼れるのは自分だけ』って言われてるみたい)
家族皆だったらどんなに楽しいだろうと思ってしまうと、もう駄目なのだ。
場所は変われども舞台は聖地、これが永遠に変わらないと、きっと今のアンジェリークの気持ちを癒す事は出来ない。
(寂しい思いは‥‥‥‥、もう嫌だ)

「‥‥‥‥ンジェ、こら、お嬢ちゃん」
軽く頭をこつかれて、はっと我にかえった。どうやら自分は部屋のまん中で固まっていたらしい。
振り返るとオスカーは少し心配そうな顔になっている。
「‥‥‥大丈夫か?何だかさっきからぼーっとしてるが‥‥‥。人見知りするタイプだったなら悪い事をしたな。女官達の視線が痛かったか?疲れたならもう休んでもかまわないぜ。何なら部屋も変えようか。好きな所を選んで構わない」
「あ、だいじょうぶ、ですっ」
誤摩化すみたいに手をばたばたさせる。素敵な部屋を用意してくれた事には感謝していたから好意を踏みにじるのはさすがのアンジェにも出来ない事だった。
だから元気がある風を装う。ルヴァ様に嘘をついたみたいに、元気がない時は元気にする。
心配は誰にでもかけたくなかった。あえて嘘を選ぶ、これも女王候補には必要な事だった。
するとオスカーはアンジェリークの嘘をを探る様に瞳を覗きこんだ。
目をそらしたら嘘がばれてしまう。アンジェは一瞬緊張して、心を鎮めながらゆっくりとアイスブルーの瞳を見つめ返した。
オスカーの瞳は女性を射抜くと誰かから聞いたのをおぼろげに思いだした。
たしかに、こんな素敵な色をした瞳に見つめられれば無理もない気もする。
あくまで真直ぐ。濁りを知らない澄んだ瞳。オスカーには勿体無いくらい美しくて、見つめられるとまるで自分が汚い物のような気さえした。
そう思ったら、真摯な瞳に目を反らしそうになったけど、一生懸命耐える。
まるで睨み付けるみたいに上目使いで見返した。
オスカーは諦めたような落胆の表情で視線を上げた。彼の瞳と向き合うのは一苦労である。安心してアンジェリークも視線をずらした。
するとすぐに頭のうえからオスカーの声が降ってきた。
「‥‥‥俺には大丈夫そうには見えないぜ。」
驚いて顔をあげると、酷く心配しているオスカーがいた。
リュミエール様のような雰囲気が、かすめて消える。オスカーの慈しむ様な表情がそれを思いださせたのかもしれない。
「執務室に入ってきた時は眉をつりあげてたのに今じゃこんなに下がっているぜ」
そういって、アンジェリークの眉を軽く撫でる。
反射的にびくっと身を引くと、オスカーは寂しそうに微笑んだ。
‥‥‥‥急に罪悪感がうまれる。
たまにオスカーは思いだした様に真剣になる。アンジェリークはこれに弱かった。
24時間閉じ込めて私を笑わせるっていう計画を全部忘れて真剣に『もう休め』と言う。
私をからかうために呼んだはずなのに、最上級の優しさで接してくれる。
その時の瞳の色がいつもより澄んで見えるのはどうしてだろう。
「つ‥‥‥つかれたのかもしれません」
取り繕う様に言うと、オスカーは真剣に「そうだな」と言った。
「食事の時間まで部屋で休んでいるといい。俺は二つ隣の部屋にいるから、何かあったら呼んでくれ。駆け付けるぜ」
それじゃあその時まで、しばしの別れだといって何時もの様にオスカーは微笑んだ。
廊下の向こうに歩いてゆくオスカーを見送って、アンジェリークは部屋に入る。
後ろ手にドアを閉めると、広くて豪華な部屋がアンジェリークを迎えた。
誰もいないのを確認してドアによりかかる。
気の抜けたような溜息をもらして、その場で座り込んだ。

オスカーの瞳の色が、頭にこびり着いてはなれない。
優しいオスカーと、ふざけたオスカーの、どちらが本当の彼なのか、わからなかった。
‥‥胸の奥に、熱い物がある。


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