Shangri-La | angelique
  
 
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笑顔のゆくえ
<<Part:7>>


結局、アンジェリークは用意された椅子にすわることになった。
(何だか、私、馬鹿みたいじゃない‥‥?)
なんだか気が抜けてしまった。さっきから悔しいけどオスカーの思い通りにされている。
何をやっても、どんなに抵抗しても結局はオスカーのペースにはまっている。
なんだか手のひらの上で踊らされているような‥‥、私の反応すら計算済って言う感じの態度に、もう何をやっても無駄という脱力感がどうしても沸き起こる。
現にもうオスカーは何事もなかったような様子で機嫌よさそうに書類に目を通している。
時々こっちを振り返って『悪いがそこにある資料をとってくれ』なんてごく自然に話し掛けたりもする。
その度「私はお手伝いさんじゃないっての」と思うが、抵抗するのも無駄だとわかるとなんだか嫌な顔をするのもだるくなる。
私が言われた通り資料を手渡すと、その度オスカーは例のごとくクサイ台詞を御披露してくれるのだが、そにさえ何だか無感動。
(24時間かー‥‥。もうどれくらいたったかなぁ‥‥)
ぼんやりと、豪華なお客用の椅子に腰掛けて考えた。
(なんか、疲れたなー‥‥いろいろ、あったからなぁ)
アンジェは後ろをちらりと覗くと、大きな窓の外にはやっと下り坂の太陽がさんさんと照っている。まだまだ時間はある。全然余っている。
絞り出すような溜息。
(本当に、この炎のシュゴセイサマは24時間私を軟禁するつもりみたいだし)
こんな調子じゃ24時間後にはミイラになっちゃうよ‥‥
もう一度、溜息。
でも、がんばれアンジェリーク。
オスカー様(と書いて、こんな男と読む)を受け入れたらそれこそオスカー様(と書いて、この男と読む)の思うつぼじゃないっ!
がんばって抵抗するの!抵抗をやめたら裸で抱き着かれたり笑顔振りまいてあげた過去の私がバカ丸出しだわっ!
アンジェリークにのこされた最後の抵抗、それはー‥‥。
(あと一日、笑わなきゃいいのよ!アンジェリーク!)
‥‥変な事になってしまった。
こうなったらもう意地である。
もうオスカーから逃れられないという現状を覆すのは無理だと言う事はよーく分かった。
このまま24時間この男につき合うしかなさそうなのだ。ならつき合ってやろうじゃないか。嫌だけどしかたない。
相手は宇宙を支える守護聖様。
私はちょっと口下手な普通の女子高生。
これは従った方が賢いってものだ。
(でも言いなりになるのは嫌。喜ばすのはもっと嫌)
(だからそういうことはしない。それだけは守ってやる!)
アンジェリークは確かに、オスカーが独り言の様に呟いたのを聞いた。
『俺の見たい笑顔はそんなんじゃない‥‥』
そう言うのなら絶対御期待にはそえないでいてやろう。
(皿洗いだろうが資料の整理だろうがなんだってつき合ってやる)
でもでもでも!
(でも絶対笑ったりしないんだから!)
‥‥それがアンジェの最後の抵抗である。
じぶんでも子供クサイこと言っているのは解る。
でも、やっぱりどんな阿呆くさいことだって一矢むくいたいのだ!


「お嬢ちゃん、使って悪いんだが青いファイルにある年表とってくれると嬉しいんだが」
「‥‥‥はい」
「サンキューお嬢ちゃん。お嬢ちゃんがいると仕事のはかどりがいつもより数段楽に感じるぜ。これもお嬢ちゃんが俺を優しく見守ってくれているおかげか、それとも俺がお嬢ちゃんという天使の加護にあるせいなのか‥‥フッ。それはお嬢ちゃんのみぞ知るってやつか?」
そういってウインク。アンジェはオスカーの向こう側にある何かを見つめる様にして適当に、うんと頷く。
(‥‥っていうか、私が手伝ってるからだよ)
アンジェリークはずっとこの調子でただただ日が落ちるのを祈るばかりだった。


執務室がオレンジ色に染まったのを、アンジェリークは初めてみた。
外側の大きな窓から差し込む日射しが夕焼け色になったとき、オスカーが立ち上がった。執務終了の時間のようだ。
廊下の方からバタバタと扉を開いたり閉まったりする音が聞こえてくる。他の守護聖がもう退出してるのだろう。
オスカーがこちらを振り返る。
「おつかれさま、お嬢ちゃん。窓を閉めたら行こう」
「はい」
やっとここから出れると思うと嬉しかった。心なしか返事がはずむ。
ずっと同じ景色の部屋の中にいるのはさすがに苦痛。特にこの部屋は見なれないところだらけで、気疲れしてしまったのだ。
なんというか、眠気に似たダルさから抜け出したかったのだ。
(やっと出れるよ〜。うっうっ)
心の中で忍び泣きをする。そして言われた通り大きな窓に鍵をして、はたと気がついた。
(‥‥‥‥『行こう』!?)
「お嬢ちゃん鍵はしめたか?ああ、カーテンはいい。見回りの女官がやってくれることになってるからな」
オスカーの声が別世界のものの様に聞こえた。ちがう。私の聞きたいのはそんな下らない世間話じゃなくて‥‥‥‥!
「オスカー様‥‥」
アンジェリークがカーテンをぎゅっと握って、低い声で呼び掛ける。

「行こう‥‥‥‥って、『どこへ』‥‥‥‥ですか?」

それが肝心なのだ。
これ以上アンジェリークを苦しませる舞台でない事を心から祈った。
ああ陛下。今なら女王にだってすがろう!
どうかこの男の口から地獄が語られません様に!!!

「どこって、俺の家だろ」

ーーーー無情にも、天に祈りは届かなかった。
「家?」
おもわず聞き返す。
「オスカー、様の」
家。
アンジェの頭の中で、ゴーーーンと鐘が鳴り響く。
最悪。最悪。なんて事でしょう。アンジェ信じられない。超腹切りたい。
「嫌か?なら俺がお嬢ちゃんの部屋に」
「やめてください」
下らない冗談は。こっちは真剣に嫌がってるのに!それなのにどうしてそんなに嬉しそうにわらっているの?!
そんなに爽やかに微笑まれると私だけが悪人みたいじゃない!!
「もう馬車がきてるはずだぜ。行こう、シンデレラ。君は今宵だけのお姫様だぜ」
御手をどうぞと、紳士をきどったポーズ。
「そして俺は、お嬢ちゃんをお姫様に変える魔法使いってとこだな」
白い歯を見せて、鮮やかに笑うオスカーは、アンジェの手をとった。

悪い魔法使いに捕まってしまった。

オスカーが執務室の扉をあける。ゴールだと思っていたその扉のむこうには果てしない廊下が続いて、まるで先は永いと暗示しているようだった。
アンジェリークは、可哀相な売られていく子牛の歌を心の中で口ずさんで、引き摺られる様に、オスカーの後を歩いていった。



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