Shangri-La | angelique
  
 
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笑顔のゆくえ
<<Part:6>>


オスカーの力を司るものは『強さ』である。
しかし今回、それはただの『強情』や『強引』などに使われる『強さ』のようだった。アンジェリークがどんなに丁寧に(引きつりながら)ご辞退申し上げても頑としてオスカーは笑顔を見届けるまで離れないという。
(この男は会う女ごとにこんな嫌がらせして回ってるのっ!?)
などとアンジェリークは半泣きになってしまったが、相手は腐っても守護聖、そんな事を言えるはずもなく、しょうがなく1日だけオスカーにつきあう事になった。
「1日だけつきあってもいい?ふっ」
そう不可解な含み笑いを浮かべたオスカー。
「もちろん1日と言っても、今日の夕方までの事じゃないよな、お嬢ちゃん。1日と言うからには今から24時間、みっちりとお供させてもらうぜ?シンデレラ」
アンジェリークの生き地獄はこの時点で決定したとも言える。(そして心の中で、シンデレラは12時で終了するし関係ない!とつっこんでいた)
聖地の時間は彼女の世界よりゆっくり流れているのだとルヴァから聞いたことがあった。アンジェリークにはこの24時間が『自分の時間』のどれくらいの時間を占めるのかわからなかったが、果てしなく長く感じるだろう事は良く解っていた。
とにかく今から24時間、つまり丁度明日の10時までこの精神の歪んだ男と一緒にいなければいけないのだ。
(これこそ不幸!炎の守護聖相手に身に振りかかる火の粉を払うなんて不可能よ!火の粉どころか火の玉よ、火の玉!!)
どうしてオスカーがミッチリ1日も私のそばにいたがるのかは知らないけど、どんな理由にせよ、傍迷惑である。
アンジェリークはそうやって事の成り行きを嘆いたが、この男のとっ拍子もない提案に被害を被ったのは、実はアンジェリークだけではなかった。
「ねぇーえ、オスカー。ここのとこの書類さぁー‥‥!」
炎の守護聖の扉を開ける者たちがことごとく石になる。
「あ、あっれー‥‥?何か私、部屋まちがえちゃったぁー?」
あははははとごまかし笑って退出するオリヴィエ。
「そ、そなたたち!‥‥い、いや、またの機会に。急ぐ用事ではない」
見てはならぬものを見たように踵を返すジュリアス。
「オスカー様ぁ、俺今度の休日空いて‥‥‥‥ないです、すいません!」
急に用事が入ったらしいランディ。
「‥‥ふぅん、何だか知らないけど、関わらないほうが賢明という訳だね」
悟ったような顔で鼻で笑い帰っていくセイラン。
どの人も、その異様で希有な取り合わせに面喰らって逃げていく。しかもアンジェリークの目元はどう見ても泣いた後であった。
一発でひとモメした後だという事が解る。そのくせオスカーは普段とかわらない笑顔で来客者を迎かえ入れるものだから、それが逆に白々しく見えるらしく、まるで体罰を与えている最中にきた客を笑顔で追い返しているように感じて逃げていく。
(なんで皆逃げるのーーっ!)
その原因はアンジェリークのうるうると光る涙目にあるのだが、本人は気が付かないようだった。
そんな勘違いのなかで、ヒトキワ輝く勘違いをしたのはゼフェルであった。
「あ、アンジェリーク、っ泣いて‥‥‥おめー‥‥オスカーに‥‥」
ゼフェルはその敏感な神経で何を勘違いしたか知らないがその腕がわなわなと震えるのが見えた。
「オスカーに‥‥、オスカーと‥‥!!」
しかしそれ以上干渉もせず、顔を真っ赤ににしてバカヤローなどと叫びながら退出した。
オスカーは笑ったが全然笑えない。どう考えても勘違いされた。あの罵声はオスカーに向けられたのか、それとも自分か、笑い事ではない。
「まったく、そんなに驚かなくたって俺達はもともと仲良くしてたのにな、アンジェリーク」
極上の笑顔にウインク。それを見てどっと疲れが涌いて大きくため息をつく。
「おいおい、俺の前でそんな切なそうな顔をしないでくれよ。‥‥抱きしめたくなるだろ」
それは散々もうやっただろうが、と思いながら、オスカーを生気のない目で見つめる。
「そんな顔しても、俺は笑顔を見るまで帰さないからな」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

この男‥‥‥‥。
どうやら冗談ではないらしい。
私が泣いたことでよっぽど彼の自尊心を傷つけたのだろう。帰さない帰さないと連呼している時だけ、口が笑っているのに目が真剣で怖い。
こういう強情で言ってしまった事を引っ込める事を知らない奴にはどうしたらいいのだろう。
(‥‥愛想笑いでもして帰ろう‥‥)
この男から解放されるには、手っ取り早く笑ってしまうのが一番頭の良い方法のようである。こういう我儘男は一番安い笑顔で満足させてやればいいのだ。
(こんな奴に笑い掛けると思うと嫌だけど)
解放された後にルヴァ様の所に行って気をはらしたり出来ると思うと幾分気が楽である。
アンジェリークは意を決してオスカーを強いまなざしで見る。
(ようし、笑うぞ!)
握り拳で気合いをいれると、あまりの雰囲気のちがいにオスカーが視線に気が付いた。
「ん?」
何気なくアンジェリークを振り返るそのオスカーの自然な笑顔に、アンジェリークは喉に何か詰まったみたいになる。
「どうした?疲れたか?‥‥慣れない執務室だもんな、疲れるのも解るぜ」
どこか嫌味っぽいが、気を使われているのが解るから、『作り笑顔』をうまく出すことが出来ない。
「やはり、椅子を用意しよう。いくらお嬢ちゃんが遠慮しても、女性を立たせて自分が座るなんて俺には出来ない」
やはり自己満足の所もある。しかしそれだけでこんなに献身的になれるものなのだろうか。このアイスブルーの瞳の笑みの意味が解らない。
「それにお嬢ちゃんは泣いた後だからな。泣くっていうのは結構身体にずしんと来るからな。ましてお嬢ちゃんみたいに細いー‥‥、‥‥」
オスカーが、急に口を閉ざした。
そして立ち上がると、私の目の前まで踵を鳴らしながら歩みよってくる。
オスカーは中膝になると、目線をあわせてその端正な顔を近ずけた。
「‥‥黙ってちゃ何も解らない。意思表示しないと何をしていいのか解らんだろう」
不意に訝しげに眉に皺をよせている守護聖に、ようやく自分がまた無視してしまった事に気が付いた。
「あ‥‥、いえ‥‥、疲れていませんので、心配なさらないで下さい」
「ずっとそこに立っているつもりか」
急に事務用の真面目な低い声。まるで叱られているような気分になった。
「‥‥いいえ、じき、帰ります」
これはささやかな抵抗である。アンジェリークは口元に小さな笑みを浮かべて自信のある表情になってみせた。
それを見て、子供の稚拙さを笑うように、
「笑ったら、な」
オスカーが挑発的な、見下した目になる。喉の奥でクッと笑ったのが聞こえた。
笑えるもんなら笑ってみせろという、あからさまな態度に血が上る。
「‥‥笑えます」
「ほう?」
オスカーがまるで長期戦に構えるようにアンジェリークの前で片膝をついた。
「やってみろ」
(命令型‥‥っ)
アンジェリークはかっとなった。表情はみるみる怒りにそまっていく。
今、笑えば帰れる。
アンジェリークは、今一番嫌いな男の前で笑えば、今一番嫌いな男から解放されるんだと煽る。
アンジェリークの手は、気が付けばぎゅうっと力が篭っている。

アンジェリークはこれまでに数々の作り笑いをこなしてきた。守護聖達の前では何より必要だったものだ。
へらへらと笑っていれば適当な会話も適当に問題なくクリアできたのを経験的に知っている。
(女王候補を馬鹿にしないで)
こんなに苦労してきた私に対して、この男の馬鹿にした態度はシャクに触る。
何が笑えだ。私が炎の守護聖の前で笑顔を見せないのは、笑えないからではなく笑わないからだ。私のプライドが、あなたの前で媚びへつらうのを許さないだけ!
(やってみせてあげようじゃないの)
もう頭にきた。ああ頭にきた!
アンジェリークは屈んだオスカーに、さらに目線をあわせるためにアンジェリークも膝をつく。目の前に印象の強い水色の瞳が二つ、見ている。
「笑います」
そういってアンジェリークはちょっとうつむくと、力を溜めるように額に力をいれた。そして、オスカーを見上げる。
アンジェリークは、満面の笑顔になってみせた。

「‥‥‥‥なるほどな。ルヴァがいかれるわけだ。こんなに上手に笑うとはな。‥‥しかも、作り笑いで」
刺しか感じられないコメントだった。
「たしかに、見届けたぜ。かわいらしい笑顔だ」
オスカーが見放すように立ち上がる。そしてアンジェリークの存在を無視をしながら、机に向かった。とりのこされたアンジェリークは、どうしていいか解らず、膝をおったまま、
「‥‥あの」
「却下、だ」
「は?」
「却下」
「‥‥‥‥‥‥」
机に向かったオスカーは、書類らしい紙に目を通しながら、守護聖らしい口調で言い放つ。
「俺の見たい笑顔はそんなのじゃない‥‥」


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