Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
12Kingdom
OgreBattle
Mobile sutie Gundam
finalFantasy
Shortstory
 SPY
 笑顔のゆくえ
 LOLLI-POP CANDY

 
 剣とお嬢さん
 ワインとお嬢さん
 目覚めの君
 つぼみ
 先生
 いつの日か君のとなりに
 羽化
 嘘とお嬢さん
Illustrator
 
Attraction
 カトチャでGO!
 御覧あれ!


笑顔のゆくえ
<<Part:3>>


炎の守護聖の執務室は、初めてであった。
広さはどの執務室もおなじだが、何故か広くかんじるのは、この部屋の主がいないからだろうか。高い天井が、部屋の高級さを物語るようにアンジェリークを見下ろしている。壁に掛けてある何かの紋章が描かれたの旗が、オスカーの強さを象徴しているよう。
(部屋の中は、赤が、いっぱい‥‥)
赤は人間を興奮させる作用があると聞いたことがある。オスカーの髪の色のような、燃えるような炎の色がそこかしこに施されていて、アンジェリークは居心地が悪いような気がした。ここの部屋はオスカーの部屋で、オスカーそのものの様な気がしてきたのだ。
(‥‥はやくすませてしまおう)
敷かれた赤い絨毯の先には机がある。アンジェリークは小走りになって机に駆け寄ると、以外にも片付いているそこの上に、お目当ての万年筆を発見した。
(高そうな万年筆‥‥)
いかにも男の人が使いそうな、黒の万年筆だった。キャップの淵に金の細工がしてある。きっと店で買うならガラスケースの中にあるような奴なのだろうと思った。使ったらやばいかな、アンジェリークは伸ばした手を躊躇させた、が。でも、まぁ、オスカーのである。この際嫌われようがどうでもいい。
キャップを回した。
『育成のお願いに来ましたが、いらっしゃらないようなので、失礼ですが書き置きさせていただきます。育成をたくさんして下さい。お願いします。アンジェリーク』と書いた。
オスカーの書き癖のついた万年筆は書きにくかったから、いつもより字が歪んだが、まぁ良しとしよう。
アンジェリークは机の上にそれを椅子の方向にあわせて置いた。
‥‥なんとなく、職員室を思い出す。
提出期限の過ぎたレポートを出そうと職員室にいくと、大抵先生はいなくて、書き置きをして帰った。そういうときは、先生の机に他愛もない悪戯をして、くすくす笑って友達と一緒に帰ったのだ。
楽しかったな、あの頃は。
思い出すように、書き置きのはしっこにオスカーの似顔絵を書いてみた。
我ながら旨くかけた。あの頃から腕は鈍っていない。小さな笑いが込み上げる。
「なかなか似てるじゃないか、お嬢ちゃん」
「えへっ、私もそうおも‥‥」
振り返ると、その本人が立っていた。
「オスカー様っっっ!」
さらに彼は上半身裸の格好であった。浅黒い日焼けした身体に滴が沢山ついている。濡れた髪を白のタオルで拭きながら、紙に目をやっているオスカーは、どうやらシャワーを浴びていたらしい。当然、女子高に通っていたアンジェリークはあまり見たこともない姿である。アンジェリークは下を向いて顔を伏せた。
「いらっしゃらないようなので、失礼ですが書き置きさせていただきます。育成をたくさんして下さい‥‥ね」
オスカーが丁寧に稚拙な文章を読み上げた。単刀直入さが声に出してやっと解った。オスカーは、ふうん、と感心するようにうなづいている。
‥‥実に気まずい。かなり嫌な雰囲気。絶対嫌味を言われる。アンジェリークは自然と戦闘体制にはいって身構える。
「ノックが聞こえたんで急いできりあげたんだが‥‥、見かけによらず、なかなか大胆な事をするな、お嬢ちゃん」
アイスブルーの瞳が例の馬鹿にした色になる。口元の笑顔があざ笑いにしか見えない。
(女の子の前で平気でそんな格好してる貴方もかなり大胆ですよ、なんて言えるわけがない)
自然と心の中でルヴァの笑顔を描くのに勤めはじめる。
「失礼しました。まさかこんな朝っぱらからシャワーを浴ていらっしゃるなんて想像もつかなかったので。外出してらっしゃるかと‥‥」
「ふっ…」
挑発だ、アンジェリークはそう思うと頭に血が上りかけた。
(ルヴァ様の事をかんがえるのっ!アンジェリーク)
自分に言い聞かせるとアンジェリークも、対抗して余裕の笑顔になってみせた。
「オスカー様、育成お願いします。望みの量がかなりになってきたので‥‥」
「だからやっと来たってわけか」
執務室の空気がとまった。
「‥‥関心しないな」
オスカーから笑顔が消える。
透き通る水の色の瞳が初めて睨んだ。凍てつく瞳をしている、アンジェリークは他人事のようにそう思った。
「俺の何が気に入らないのか知らんが、そんな事では女王にはなれないぜ、お嬢ちゃん」
別にならなくていいです、と言いかけたがやめる他ない。これは守護聖全員の前で絶対に禁句である。
アンジェリークは黙殺した形になった。
執務室は急に静かになった。
アイスブルーの瞳が自分を見ている。
だから私もオスカーの瞳を見た。
視線が絡み合う。
睨んだ、ともいう。
沈黙はオスカー独特の馬鹿にした短い笑い声によって破られた。
「‥‥どうやら、そうとう嫌われているらしいな‥‥」
オスカーは手を広げて降参のポーズを取った。ちょっと困った顔をして、笑顔を刻む。これは苦笑だ、あざ笑いじゃない。
アンジェリークは思った。
「お嬢ちゃんもたいした女だぜ」
濡れた髪をかきあげる。
『たいした女』とは、褒めているのか、けなしているのか。
(また嫌味と冗談のぎりぎりの事を言われたに違いない)
そうは思ったけど、オスカーの言った本当の意味が良く解らなかったから、アンジェリークはこれ以外に話す事がなかった。
「‥‥育成、おねがいします」
(どっちにしても、私にはコメントのしようがない‥‥)
こんな駆け引きめいたな会話をつづけても、疲れるだけ。
さっさと育成のお願いをすませて帰ろう、アンジェリークはおじぎをした。
失礼します、そう言って踵を返す。入るときは壁みたいに見えたドアが、今はゴール地点のゲートに見えてきた。
あそこに行けば解放される。
しかし、オスカーはちょっと待て、といった。声が心無しか低く感じる。
アンジェリークは逃げたい気持ちをこらえて、ゆっくりと振り返る。
「‥‥何でしょうか」
「お嬢ちゃんにひとつ、質問がある」
嫌な予感がした。これ以上ここにいたら、何をいわれるか解らない。どうせ返答困難な難題をふっかけて、反応を楽しむにちがいない。
もう、嫌だ、アンジェリークは祈った。
「‥‥私、急ぐんで‥‥」
顔だけオスカーの方にむけたが、目を合わせることが出来なかった。
早く帰りたい。今日は何も考えずに眠りたい。適当な会釈をもういちどして、アンジェリークは背をむけた。
「逃げるな!」
すごい力でいきなり手を掴まれた。そしてオスカーに引き寄せられる。
「えっ!?」
引かれた手の思うがままに、身体はオスカーの方に寄せられた。あまりの力に重心が崩れる。
アンジェリークはオスカーの方に重心が向くのを感じてバランスを取ろうと足をもたつかせる。
「っっ!」
視界の端に、投げ出されたノートの白いページが映った。そして、その次には、オスカーの節張った手と腕が、自分の肩を掴んだのが見える。
オスカーが、倒れこむアンジェリークを受け止めて、羽交い締めのような、抱きしめるような体制になったのだ。
ばさり、とノートが床に落ちる音がしたとき、アンジェリークはやっとオスカーの腕の中にいることに気が付いた。
背中にかんじるオスカーの体温。
こ、これはもしや‥‥、とアンジェリークが引きつる。
抱きしめられてるのっ!?
(えーーーーっっっ!!????)


PageTop
前へ 次へ
   
Shangri-La | index Angelique | index