Shangri-La | angelique
  
 
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笑顔のゆくえ
<<Part:2>>


「おやぁ、どうかしたんですかぁー?アンジェリーク」
後ろの方からおっとりした声が名前を呼んだ。びっくりして振り返ると、そこにはニコニコした地の守護聖が立っていた。
「ル、ルヴァ様。おはようございます」
「あ、はいー。おはようございます、アンジェリーク」
子供と話すような、ゆっくりとした特徴のある口調でルヴァは話しかけてきた。
「何やらただ事ならぬ表情をしている貴女をみつけましてねぇー‥‥。ちょっと気になったんで声を掛けてしまいましたけどー‥‥。どうかしたんですか?」
「‥‥‥‥」
どう説明していいのかわからなかった。話していいのかも解らなかった。
アンジェリークは、うつむいた。
「‥‥何か、どうかしたんですね」
心配する親のような表情で、ルヴァはアンジェリークの目を見る。
それでやっと自分が情けない顔をしていた事に気が付いた。慌てて言い訳を講じる。
「いえっ、別に何かあったという訳ではないんです。ちょっとホームシックになっちゃって!」
無理に笑って見せた。ルヴァ様は優しいきもちにさせてくれる。
『若いのに、親みたいに優しい人』のこの人にだけは心配を掛けてはいけない、と即座に思ったのだ。
「だから、ちょっと落ち込んでただけです」
アンジェリークはもう一度にっこり笑って見せた。今度は旨く笑えた。
「そうですか‥‥。そうならいいんですけど‥‥」
心配そうに眉を下げてアンジェリークを見つめる。
「大丈夫ですって!今朝の朝食はちゃんとおいしかったしっ!」
ここまでくると嘘をついている気分になる。しかし自分の気持ちの正反対を言う事が、ルヴァの不安要素を取り除く一番の方法だと思った。
「‥‥なにかあったら、相談してくださいね。貴女の落ち込む姿は、あまり見たくないですからねぇ」
「はい。相談させい下さい」
どうやらルヴァを丸め込む事に成功したらしい。笑顔の反面、疲れがどっと涌いた。
(ルヴァ様に心配かけるわけにはいかない)
オスカーの執務室にいきたくないなんて行ったら、心配どころか軽蔑されそうだ。『女王試験を軽く見てる』とか、『そんな私的感情を持っては女王にはなれない』とか‥‥。ジュリアス様なら間違いなくそう言いそう。
‥‥何だかますますオスカーの執務室に行きたくなくなってしまった。
「今日は育成をするんですかー?」
「え、ああ。はい」
ルヴァの『育成』という言葉に、意味なくどきっとする。
「最近調子いいみたいですねぇ。それで、誰の所に?」
「ええと‥‥、その」
何となく公にしたくない。オスカー様の所に行くと言ったら、絶対いかなくちゃいけなくなる。アンジェリークは言葉を濁した。
「今日は、ちょうどルヴァ様の‥‥」
「オスカーの所ですね」
ぎくり、とした。見上げたルヴァの顔はいつもと変わらず笑顔だった。
ルヴァは、ルヴァの一番の笑顔でにっこり笑っている。
「オスカーの所、ですよね」
あくまで優しい笑顔で、アンジェリークを諭すように言う。
ルヴァ様、私がオスカー様を避けているのを知ってらしたんだ。
アンジェリークは急に恥ずかしくなった。
「‥‥はい。育成を‥‥オスカー様に‥‥」
「そうですかー。うんうん」
満足そうに言う。
「どうしてわかったんですか?」
「それは、アンジェリークがこの世の終わりみたいな顔してるからですよ」
「‥‥‥‥‥‥」
『どうして私がオスカー様を嫌いなのが解ったの?』の意味で聞いたのだが、違う返答が返ってきた。それはそれで、もっともらしい理由では、ある。
「苦手な人間というのは絶対にいますから、しょうがないんですけどねぇ。でも、あまり話さない内からその人を決め付けてしまうのは関心しませんよ、アンジェリーク」
「はい‥‥」
ルヴァのもっともな意見に反論の余地もない。
確かに嫌いだったクラスの女の子とも仲良くなった事もある。話せば誰にでも良い所があるのだ。それは知っている。
‥‥生理的に嫌いなの。親しくなりたいと思わない。
例にもれずアンジェリークはうつむいた。
「ああ、そんな顔しないで下さい。私は貴女の笑顔が好きなんですから」
そういってルヴァは頬を少し、赤らめた。
「貴女には、笑顔が似合うと思うんですよ。ですから、皆となるべく仲良くして、沢山笑ってください。貴女が笑うと、 私まで元気になりますからね」
そう言って笑った。ルヴァはますます赤くなった。アンジェリークも冗談だと思いつつ、真っ赤になってしまった。
「育成、がんばって下さいねぇ。応援してますから」
「はい。がんばります」
ルヴァは赤面を隠しながら、逃げるように王立研究院の方に歩いていった。
一回だけ振り返って手を振ってくれたルヴァを見送って、アンジェリークは笑顔らしい笑顔を浮かべた。
‥‥ちょっと元気になれた、かも。
アンジェリークは、思い足取りが軽やかになったのを感じながら、オスカーの執務室に向かった。
  
  
さぁ、ここからが勝負よ、アンジェリーク。
このドアをノックして、適当な敬語を使ってさっさと育成を頼んでしまうの。
相手の言うことには耳をかさずに、反論する間もなく帰ってくればセーフ、挑発にのってしまったらアウト。
かっとなったらルヴァ様の顔を思い出せばいい。きっとツツガナク終われるわ。
さあ、勝負よ、アンジェリーク!
このドアをノックしなさいっ!
こんこん。
アンジェリークが10分間、悩みに悩んだ結果がこの音である。
オスカーの執務室のドア。他の守護聖様のドアと同じ大きさなのにこんなに大きく感じる。それをノックするのに、悩みまくってしまった。
(やった)
しかし、折角の勇気もむなしく、オスカーの部屋からは何の声もしない。
(‥‥あれ?)
返事がない。
「あの、アンジェリーク、です」
同じく、返事がない。
(いないの、かな?)
ならラッキーである。書き置きでも机にしておけば、丁寧な(心にもない)敬語をつかって育成をお願いできる。
アンジェリークは壁のように見えたドアの前で、神に祈るような仕草で喜んだ。
(育成のお願い、かきおきですませちゃおう)
そうと決まるとアンジェリークの行動は素早かった。
なんの躊躇なくノートの最終ページをべりべりと破る。破いた紙の切れ目は美しいとはいえなかったが、このさいオスカーである。
改めて訪ねるなんてしたくなかったから、この紙を使う事にしてやった。
ドアを机にして、書き出しをぶつぶつと考えたそのとき、
(ペン、もってない)
やっと気がついた。
計画は実行不可能である。
やはり改めてオスカー様を訪ねるしかない。心底嫌だ。アンジェリークは心でため息をついた。ペンさえあればそんなことしなくて済んだのに‥‥。
(‥‥執務室の中は?)
さすがにあのオスカーでも、(どんなかしらないけど)仕事という事しているなら、ペンの1本や2本持っていなければおかしいというものである。
(はいっちゃおうか)
他の守護聖様にだったら絶対しないことも今のアンジェリークはやってのける。
(どうせいないんだから、いいよね)
そしてアンジェリークは、ドアを開けてしまった。



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