Shangri-La | angelique
  
 
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剣とお嬢さん
<<Part:2>>


ポーチに据え付けられたテーブルを囲んで、四人は紅茶を飲んでいた。
白かった空がゆっくりと光を増してくる。今日もいい天気になりそうだ。
「ヴィクトール様のスウェット、ラッセルのですよね」
突然弾けるような明るい声でアンジェリークに話し掛けられて、ヴィクトールはあやうく紅茶をこぼすところだった。
「ん?ああ、これか」
アンジェリークが言っているのは、ヴィクトールの着ているグレイのスウェットの上下のことらしい。
「やっぱり、軍の人はラッセルを着るんですね」
軍の人、という言い方がおかしくてヴィクトールは少し笑った。
「まあ、支給だからな」
「わたしも持ってるんです、これと同じ色の」
お揃いですね、とアンジェリークは顔一杯に笑顔を浮かべてヴィクトールを見つめてくる。自分とお揃いの服を喜んでいる少女に、ヴィクトールは思わず焦る。
返事に詰まって、ふと、オスカーの真剣な視線に気付いた。
アンジェリークを見ている。
いつも不敵な笑みを浮かべているアイスブルーの瞳から、からかうような色が消えていた。アンジェリークを見つめるその瞳は真摯で、飾りがない。
これは。
どういうことだろう。
少しだけ、息苦しさを覚えながらヴィクトールは眉をしかめた。
ヴィクトールの視線に気付いたらしい。オスカーは薄い笑みを見せたかと思うとそっと瞳を伏せ、そして、挑むような真直な視線を向けた。
宣戦布告。
そういうことだろうか。
ヴィクトールは黙って視線を返した。
受けて立とう。

「…オスカー様?」
二人の気配の変化に気付いたのは、敏感なアンジェリークだった。
この娘のはり出しているアンテナは人より華奢だから、どんな小さな変化も逃さず捕らえてしまう。だが、華奢ゆえに衝撃にも弱い。
オスカーはヴィクトールとの気配を振り切るように、極上の笑みを浮かべてみせる。アンジェリークの笑顔を曇らせるつもりは毛頭ない。
いつもより穏やかに笑んだオスカーをみて、アンジェリークは自分の思い違いだったと結論付けたようだ。堅くなっていた表情をほっとやわらげて、話しはじめた。
「あの…オスカー様、金の曜日は、力を送って下さって…ありがとうございました」
「ああ、」
オスカーは、さも今思い出したように瞳を見開いてみせた。本当はアンジェリークを見たときから、いつそう言ってくれるかずっと待っていたのだ。
彼女が照れたように微笑むのが見たくて、頼まれてもいない育成を行った。
オスカーが望んでいた通りに、アンジェリークは雲間からさす光のような笑顔をみせてくれた。無垢の笑顔。
この俺が。
百戦錬磨のこのオスカーが、こんな少女の笑顔ひとつで、自分でも驚くほどの幸福感に包まれる。この笑顔はこの一瞬だけ、他の誰でもない自分だけに向けられている。自分だけに。
「お嬢ちゃんは先週、ずいぶん頑張っていたからな。俺からのごほうびだ」
テラスの手すりにもたれていたオスカーは、歩み寄ってアンジェリークの髪に触れる。アンジェリークが顔を赤くしてあからさまに緊張してみせたので、オスカーは苦笑した。ヴィクトールの顔を見てやろうかと思ったが、やめる。
これでおあいこだ。
そう思いながらオスカーは少し名残惜しそうに少女の髪から手を引いた。

「さて。仕切り直しといこうか、ヴィクトール」
オスカーの声にはっと我に返る。
炎の守護聖は片手を腰に、広げるように伸ばした片手には二本剣を握っている。
声はいつもと変わらないのに、含んでいる響きは鋭い。
「…そうですね」
これは、負けられない。
ヴィクトールは席を立つ。アンジェリークが驚いて二人を交互に見る。
「決闘ですか?」
庭に降りかけた二人がぴくりと反応した。同時に、苦笑が込み上げる。確かに決闘といえなくもない。
「アンジェが来るまで、オスカー様とヴィクトールさんで手合わせしてたんだよ。その続きさ」
ランディも席を立った。やっぱり審判をやるつもりらしい。
アンジェリークも慌てて席を立った。
「あのっ…その剣」
「お嬢ちゃん、真剣じゃないから、心配いらないぜ。」
「オスカー様、真剣にやらないんですか。俺、勉強になりませんよ」
「ボケてる場合か」
オスカーがランディを小突いた。
「アンジェリーク、来てみろ」
少女に、ヴィクトールが手招きする。ぱたぱたと駆け寄ってきた少女は、まだ眉根を寄せている。
ヴィクトールはゆっくり剣をぬいてみせた。
「わかるか、刃がつぶしてあるだろう?練習用の剣だ。心配いらない」
ヴィクトールが静かに見下ろしてくる。
アンジェリークは暫く黙ったが、やがてゆっくり頷いた。
「…はい。でも、気をつけて…」
「こんなところで授業か、ヴィクトール」
「すっかり癖になってしまっているようです」
オスカーの声にヴィクトールが答える。一見和やかなのに、アンジェリークにはなぜかおそろしいことが始まるような気がしてならない。
「お嬢ちゃん、この剣を少し持ってくれるか」
「えっ」
アンジェリークが助けを求めるようにヴィクトールとランディを見る。
「…でも、あの。剣って…女の人は触っちゃいけないんじゃ」
思い掛けない言葉に、自然にオスカーの声が穏やかになる。
「お嬢ちゃんは随分古い事を知っているな。だが、俺は女性が触れてくれた方がいいと考えているんだが」
そっとアンジェリークの手を取り、鞘に入れたままの剣を取らせた。
「オスカー様」
「女性は神秘だ。剣にも、お嬢ちゃんの神秘をわけてほしい」
少女の手の上から剣を握る。そうして、片手で少女を抱き寄せた。
「お嬢ちゃんが、俺の勝利の女神だ」
アンジェリークが状況を把握しきれないでいる隙にその髪に口付けた。
アンジェリークが本能的に飛び下がった。オスカーはいつもの笑みを浮かべてアンジェリークを見る。
「も、もう!オスカー様!」
耳まで真っ赤にしながらアンジェリークはランディの後方までじりじりと移動した。オスカーは笑いながら背を向けて手をひらひらと振ってみせる。
「さあ、はじめよう」
オスカーが光を反射させながら剣を抜いた。
この勝負、絶対勝つ。

二人の間に立って、開始の合図をするだけのランディでさえ、緊張を押さえられなかった。明らかに先ほどと雰囲気が違う。剣を持って構えている二人は真剣だ。いくら練習用の剣だからといって、無傷ですむとは思えなかった。
「ランディ」
オスカーのからかうような声で、ランディは、はっと手を上げた。
アンジェリークが後ろで両手を祈るようにして二人を見ていた。彼女も感じているのだろう、この雰囲気を。ふう、と息を付く。
「はじめっ!!」
振りおろすと同時に、オスカーと、ヴィクトールが前に踏み出した。
「なにっ!?」
ディフェンス型のヴィクトールがオスカーと同時に前に出たのだ。
おもしろい。
普段控えめにしているヴィクトールだが、戦歴の勇者である。いざ事に及べば、防御に徹することなどしないだろう。彼には、全力で相手を押さえ付けるだけの力と技量がある。
怒らせてしまったようだ。
一転してディフェンスにまわったオスカーは、重い剣戟を受け止め、躱しながら思った。
そうでなくては面白くない。
あの内気なアンジェリークがこの精神の教官の前ではなんの気負いも照れもなく、自分から話をする。はにかむ笑顔だけでなく、華やかに輝く笑顔を見せるのをオスカーは気付いていた。
なにしろ、お揃いのトレーナー、だからな。
来週は俺の見立てで、俺のスーツと揃いのドレスをプレゼントするとしよう。
ヴィクトールの攻撃は勢いと、なによりその一撃一撃の重さがすさまじかった。受けているだけではこちらの腕が参ってしまう。
時折火花が散った。その度アンジェリークは血の気が引いていくような気がした。
勝負はきっと一瞬でつくだろう。その一瞬に、どちらかが怪我を負う。
怪我ではすまないかもしれない。
背筋が冷えていく。恐くて目を開けているのが辛かった。
「アンジェ、大丈夫?」
ランディがそっと、肩に手を置いた。
アンジェリークはすがるような気持ちで風の守護聖を見る。
少女の願いを読み取って、首を横にふりながらランディが言った。
「…こうなったら、へたに止めるとかえって危ないんだよ」
「…」
その時、アンジェリークの恐れていた一瞬が、やってきた。

「オスカー様!ヴィクトール様!」
アンジェリークが駆け寄る。二人は息を弾ませて、呆然と剣を手にしたまま立ち尽くしていた。
それぞれの握っている柄から上がなかった。
剣が、折れたのだ。二人の勢いに根をあげたのは、剣の方だった。
「また、おあずけ、だな」
「残念ながら」
オスカーは折れた剣の残骸を拾い上げ、少し悔しそうにふうと息をついた。
ヴィクトールも折れた剣を鞘に収め、空を仰ぐ。
この一戦に込めた思いが、結局からまわりに終わってしまって、少々気が抜けてしまった。
「残念じゃないです!ど、どれだけ心配したと思ってるんですか!?」
駆け寄ってきたアンジェリークが声を張り上げ、二人ははっとした。
「お、お嬢ちゃん。真剣じゃないって言ったろう?」
「そうだぞ、アンジェリーク。お前も返事をしただろう」
「でも、駄目です、こんな危険な事!もう絶対駄目ですっ!!」
アンジェリークは俯いて、両手を伸ばし、二人の袖の端をきゅっと握った。
オスカーもヴィクトールも驚いて思わず顔を見合わせた。
俯いたまま顔をあげない少女の肩が小さく震えている。
「お約束して、ください。もう、しないって。お願い」
朝の明るい光に、なめらかな金色に輝いている髪がさらりとすべり落ちた。
袖を握ってくる白い指が、たまらなく愛おしい。
確かに、少々大人気なかったかな、と二人の男は思う。
想いの強さをぶつけあって、結局、その大切な少女を悲しませるなんて。
「…悪かった。もうしない。我が一族の剣にかけて誓うよ、お嬢ちゃん」
オスカーが俯く顎にそっと指をかけ、上を向かせた。森の影をひっそりと写す泉のような瞳が、涙を浮かべている。
「本当…?」
オスカーは瞳に、そう頷いて見せる。
「泣かないでくれ、アンジェリーク。二度としない。約束する」
ヴィクトールも困ったような笑みを浮かべて、大きく頷き、アンジェリークの髪をすいてやる。
「…お約束、しましたからね」
二人の間に立った少女はそう言って目をこすり、やわらかく笑んだ。
オスカーとヴィクトールは再び顔を見合わせて、こっそりと苦笑した。
この勝負の行方を一方的に握っているのは、このやさしい娘なのだ。

fin.

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