Shangri-La | 12Kingdom
  
 
Angelique
12Kingdom
OgreBattle
Mobile sutie Gundam
finalFantasy
Shortstory
 いつもあなたのそばに
 あなたとわたし
 爪月の夜
 呆れた男
 懲りない男
 手習い
 胸にある、あたたかい光。
 肩たたき
 ひなたぼっこ
Illustrator






 
 
 
Attraction
 十二国記とは?
 主要人物紹介
 海客のための十二国事情

呆れた男


戴国の即位式が終わってはや一ヶ月。
国もだんだんと騒ぎが治まり、妖魔の数も少しずつ減ってきた頃、泰麒は一人で庭を散歩していた。
「‥‥はぁ」
長い裾の服装をずるずると引きずりながら、てくてくと歩くと、時折空を見上げて溜息をつく。小鳥のさえずりに耳を傾け、池の鯉を眺め、そして肩をがっくりと落として、そのうちまた空を仰ぎ、溜息。この姿を最近頻繁に見かけるようになった。
長くなった黒髪を無気力に垂れ流す様子も、いかにも元気がない。
女官たちは彼の気をまざわらそうと、いつかの女仙達のように髪をとかしてやったり、故郷の話をしてやったり、巷で流行っている遊びを教えたりしたが、彼の溜息は重さを失わなかった。
「食べたく‥‥ないんです」
いつだかそう言って女官達を困らせた。彼は御飯を残すような「悪い子」な事はしなかったし、そんな申し出は初めてだったので女官達はどうしていいのかわからず、いろいろな官吏たちに相談にまわった。
それで驍宗は一人の官吏から彼が具合が悪いと聞いて様子を見にいったが、部屋にこもって顔も見れないといった始末。
無理に部屋に入ろうと思えば入る事もできたが、具合が悪いというなら邪魔をしない方がいいに決まっている。
泰麒はまだ幼い。幼い故に悩みごとも耐えないのだろう、と驍宗は考えていた‥‥が。
やはり、最近はあまりに泰麒の調子がおかしくて心配になってきしまったのだ。
「‥‥はぁ」
驍宗は溜息をもらした。
いったい泰麒がどうしてあんなに元気がないのかが全然わからなかったのだ。
いつも、自分が政を行う時は、難しい話に頭を悩ませながらも傍にいた。
執務室に二人きりになれば会話も交わしたし、彼は楽しそうに笑顔だった。
ここ数日のあいだ彼はみるみる元気をなくしていったのだ。
(どうしてだ?)
麒麟は病気にならないと聞いていた。実際泰麒の顔色は悪いとかそういう病気めいた症状ではない。ただひたすら落ち込んでいる様子だった。
(‥‥何故落ち込んでいるのか)
たしかに自分の中に閉じこもり気味な性格であるように感じるが、さほど酷くはなかったはず。
驍宗はうーん、と唸る。
やっぱり何が原因なのか解らない。
彼は銀色に光る髪をかき分けて、もう一度溜息をもらしてしまう。
麒麟が傍にいないと政にも気が入らないのである。
(‥‥いつも傍にいる者がいなくなると落ちつかないのだ)
しかし、自分の中でこれは言い訳だと分かっている。純粋に、あの彼の無垢な笑顔が見れないのがこたえているのだ。
王たるもの民のためとは言え政治を行う時少々苛酷な決断をしなくてはならないのがしばしばだ。その時、泰麒は控えめながらも、ちゃん自分をと批判してくれる。驍宗はそんな彼にできるだけ解りやすくその理由を述べ諭す。
それは、同時に自分さえも納得させて、随分と気持ちが楽になるのだった。そんなたわいもないやり取りに、自分はどれだけ救われたかわからない。
例えば、自分の国のためとはいえ税を普段より多めにとらなくてはならない様な時や、宮内の対立をさけるために優秀な官吏を罷免しなければならないとき。
頭の中ではそれが必要な事だと解っていても、やはりどうしても良心は傷む。
それが王の勤めだとしても、自分で自分がどんどん嫌になって、驍宗は周りに当り散らしたくなる。終いには、苛々はエスカレートしていって、当たり構わず剣を振り回したくなる。どこかの王にリターンマッチでも挑もうかと思うくらいだ。
そんな自分に、泰麒はいつものように自分のそばにいて、なんとなく空気を読み取ってにこりと笑う。
彼なりに場を和ませようと必死なのだ。
なんて健気なんだろうと思う。
この前なんか、
「驍宗様がそうおっしゃるなら、僕は間違ってないと思います」
とはっきり意思表示してくれた。
もっと前なんか
「がんばっている驍宗様は、ちょっと格好良いです」
なんて言ってくれたりした。
さらに前なんか
「驍宗様は、頼もしいです」
なーんて言ってくれたりしてー。
こんな単純な褒め言葉に、心が軽くなってしまう自分にちょっとテレながらも、
驍宗はあの小さな台輔を必要としているのである。

しかし、今、本来彼がいるべき場所にブッチョウズラの年老いた官吏が立っている。可愛い彼の後釜にはまったくもって相応しくないと、驍宗は握りこぶしで叫びたい。が、王たる彼がそんな痴態をさらせるわけもない。
「‥‥‥‥」
頬杖をついて、退屈をかみ殺す。
考えてもみてくれ。
こんな広い執務室に、老人と密室になるなんて、息苦しくてたまらないだろう。
こんな日に限ってする事はあまりない。
声をかけようにも話題がない。
何となく始めた貧乏揺すりも震度5ぐらい激しくもなるさ。
とにかく、とにかく。
(泰麒と話がしたい)

驍宗はたちあがった。もともと辛抱強いタイプではなかったが、いつもにまして辛抱できなかったのは、一概に泰麒のせいと言えよう。
老人に、失礼、と軽く会釈して、何事もないようにしずしずと歩き、扉を開けると驍宗は大きく一歩を踏み出した。
(こんなでは仕事に集中できんではないか。仕事のために会いに行く)
心の中でみえみえの言い訳を浮かべて、大股歩きで廊下を進む。
いっその事走ってしまおうと思うが、やはりそれは王として相応しくないので、めいいっぱいスピードを上げて、歩く。
歩幅は大きく、手を大きく振って、歩く。
ひたすら長い廊下を真直ぐに歩いた。その時の形相はまるで鬼のようだったと、擦れ違った女官は語るがそれはまた別の話である。

続く
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