Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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旅立ち
<<Part:11>>


その騎士は沈黙していた。
彼は黙って我々に後ろ手に縛られた。
観念したというよりも、口を閉ざすことで何かを抗議しているようだった。
先程、アーウィンドはまるで敵でも見るようにサイノスに対して殺気をみなぎらせていたように感じたが、あれは私の気のせいだったのだろうか。今はカイを後から抱き締めて、サイノスの顔を黙って見つめている。
サイノスは騎士が仲間数人とともに小屋の外に出たのを確認すると、カイの前にしゃがみ込み、彼の頭をくしゃくしゃとなで、
「すまなかったな、怖かったろう?」
と笑んだ。
普段生意気な口を聞くカイも、真剣を突きつけられたのは初めてだったのだろう。黙ったまま目を見開いて泣いている。
騎士を我々の支配下に置くためには少々驚かす必要があるな、とサイノスはそう言っていた。
正直言って、私もサイノスがいきなりカイを人質にとったときには何が起こったのか分からなかった。
しかし今思えばあれ以上の妙策はない。まったく彼は大した策士である。驚きながらも、彼の行いに間違いはない、と今更ながら誇らしく、また、こんな非常時にも関わらず安堵の心地がした。
きっとサイノスならばこの窮地でさえ巧く治めることができるであろう。
先に出ていろ、とサイノスが背中越しに言った。
私たちは頷いて神父の小屋を出た。サイノスは泣きやまないカイを慰めるつもりなのだろう。そう思うとほほ笑ましく、私は思わず笑んでしまった。
カイは必要以上に口が達者な子供だが、そのぶん物分かりはいい。
騎士を無抵抗のうちに支配下に置くには人質が一番だった、と言って聞かせればすぐにでも泣きやむだろう。あの少年も、リーダーであるサイノスに心酔している一人だ。
それにしてもこんなときにたかが子供一人のために時間を割くとはサイノスも真からのお人よしだ、と仲間のひとりがちいさく言った。全くだ、と私は答えた。
それがサイノスのよいところだと皆知っている。大儀よりも我々仲間を大切に思ってくれる。
そんなリーダーを誇りに思っている。
閉まろうとする扉の隙間から、サイノスがカイの髪を撫でてやっているのが見えた。
カイは、その腕を振払い、逃れるように強く首をふり、アーウィンドの肩にしがみついた。
何か違和感を覚えた。どこに違和感を覚えたのか摘む前に扉は閉じた。
ぼんやりとした不安が、そっと胸を撫でていった。

「‥‥それで、今度は私に何をしろというのかな」
銀色の篭手に縄をかけられた騎士は声を落としてそう静かに言ってきた。
ひとまわりは年下の自分達に縄で引かれて歩く、というのは屈辱だろうと私は思った。
私は騎士というものを良く知らない。
私の両親は、この町の住人がほとんどそうであるように畑で麦を収穫する農夫であった。王国が滅ぶまでは、その収穫の一部を納める領主としての騎士がいたようだったが、それは私が生まれる前の話だ。
父は酔うとその騎士のことを語った。
立派な馬にのり、時々この町にも騎士様がやってきたと。
よその土地では私腹を肥やそうとする商人の腐ったような(農夫である父は商人が嫌いだった)領主がひどい取り立てをしやがるところもあるらしいが、うちの領主様は騎士様だったから、汚い真似はしない人だった。潔い人だった。
金髪を後ろに流した、この背の高い騎士は誰に忠誠を誓って騎士となったのだろう。
25年前にも、この騎士は騎士だったのだろうか。
私はそんなことを思いながら、騎士の縄を引いて歩いていた。
サイノスは、この騎士をどうするつもりなのだろう。

騎士とは王に忠誠を誓い、その忠誠をもって王は騎士に対してその領土を保証するのだという。
彼は帝国の騎士ではないという。
では誰に仕えているのだろう。誰に仕えて騎士である自己を貫いているのだろう?金髪の騎士はただ静かに歩いていた。


「決着をつける。確かにそう言ったなアーウィンド。それともここで逃げ出すか」
サイノスはカイの前から立ち上がった。
いつものようにゆっくりとした口調。
何か余裕さえ感じさせる、穏やかな声だった。
サイノスは一度カイに目をやったが、興味を失ったという様子でその顔から表情を消した。次の瞬間には目の前の子供のことなど忘れたかのようにアーウィンドに視線を向けた。
アーウィンドは黙ったまま、ゆらりと顔を上げた。
「‥‥決着はつけるわ。ここまで来て投げ出す訳にはいかない」
顔にかかった真紅の髪をかきあげながら、娘の瞳は鈍くサイノスを見た。倦いたという表情で青年の薄い色の瞳を眺める。
サイノスもまた、冷めた目をしていた。当然だ、と言うように肯く。
「ならば私に従うんだ。場所を変えよう」
顎で、外へ促す。アーウィンドはカイの手をとって、無表情で歩き始めた。
「‥‥でも、あなたのいう決着って何なの」
アーウィンドの呟きは、サイノスに届く前に空気を振動させる力を失って消えた。



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