Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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旅立ち
<<Part:10>>


大義とは、必ずしも正義と同義ではない。
ランスロットは思う。
では、大義とはなんなのだろう。
それは、人の妄執。
例え人びとの掲げる大義がどんな崇高な理想に拠ったものであったとしても、それを真実願った瞬間に、それは「欲望」に染められる。
強く、深い人びとの思いは集結し、純粋な域まで高められる。それが「大義」。大義とは、欲望の結晶なのだ。
だからこそ、大義は強大な力を持つ。大義の前には個人の思いなど無いに等しく、多少の犠牲はやむを得ない。

人々の大義を掲げ、人々の上に立ち、人々を指導する者が、目の前にいる。
彼は剣を抜き、少年の咽もとにその剣先を押し付けながら、薄い色の瞳で自分を見ていた。
大義の名のもとに、人々を導いてきた青年。
大義とは獰猛な欲望がすました顔をしているだけのものだから、放っておけばあらゆるものを取り込んで暴走しはじめる。
御するには指導者が必要になる。
彼はその指導者。彼の肩には人々の望む希望やら理想やらが集結した大義が、背負われているはずだ。
だが、と、青年の異様に光を帯びた瞳を見て、ランスロットは思った。
だが、その背にあった大義が、いつの間にか青年自身の為の大義にすりかわっていたとしたら?

「…その子を人質に取るのは、筋違いというものだ」
ランスロットはゆっくりとした口調でそう告げる。
「この子は、君たちの仲間だろう。私は別に、その少年がどうなろうとかまわない」
「そうは思えない」
白金の髪の青年は確信に満ちた声で言い放つ。
「あなたは、自分になついた子供を見殺しにするような真似はできない人だ。そうだろ?」
その口元に笑みさえ浮かべて、サイノスはさらに剣を少年に押し付ける。
少年は肩を震わせることもなく、ただ、どこか遠くを見るような目をして立っていた。
サイノスの為ならば助け乞うこともしないと、誇らしく笑った少年。
驚き戸惑いながらも、この幼い子供はきっと全てを悟ってしまったのだろう。信じていた大切なものに切り捨てられたことを。
その円らな瞳に浮かぶのは、恐怖の涙ではなく、失望の涙。

ランスロットは、初めて合った時に青年の瞳から見つけられなかったものを、今ここではっきりと見い出すことができた。
彼に出会ったとき、高い所から遥か先を見通すような瞳をしている、と思った。それは、ランスロットのよく知る老師の見せる視線とよく似ていた。
高き理想を掲げ、その峰の高きから遥か広がる険しい山野を見渡す「導く者」の瞳を、サイノスは持っていると思った。
彼を、指導者だとさえ思った。
だが、今目の前にいる青年は、道を求める者ではない。自由への道を模索し、進む者ではない。
サイノスは、支配者になる「場」を求めているだけなのだ。

目的のためならば、手段を選ばない人間。
「…君は」
ランスロットの声に苦々しい響きが滲む。
「どうしますか、ランスロット殿」
サイノスは騎士に挑むような目を向け、ゆっくりと答えを促す。
「この計画のきっかけは何なんだ」
「そんなことはあなたに関係のないことだ」
青年の長剣が鈍く光る。少年は呼吸を止めて、瞼を閉じている。カイはもう、この状況を受け入れ、サイノスを諦めてしまっているように見えた。
ランスロットは拳を握り、年若い指導者を見据える。
「誰のための戦いだ。君は何のために皆に犠牲を強いているんだ」
サイノスの背後を守っている青年たちが、今さら何を、と怪訝な顔をする。
彼らは、まだ気付いていないのか。そうランスロットが感じ取ったと同時に、
「従うのか従わないのか、答えろ!」
サイノスが声を荒げた。びり、と空が鳴った。
アーウィンドが、得物に飛び掛かろうとする肉食動物のように身体をかがめる。咄嗟に、サイノスの前に青年達が足を踏み出して身構えた。

「…分かった」
ランスロットは目を伏せて、吐息混じりに言った。
「君に従おう。サイノス。______その子を放せ」
アーウィンドが苦痛に耐えるように眉根をしかめ、顔を背けた。
サイノスの合図で、ランスロットの両腕は再び縄を掛けられた。

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