Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
12Kingdom
OgreBattle
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finalFantasy
Shortstory
 旅立ち
 素朴な疑問

 ともしび
 花火
 宴の夜
 満ち月
 癒しの瞳
 クチバシ
 草原にて
Illustrator







ともしび


極寒の地、永久の冬の大地。
ここでは日の支配はあまりに頼り無く短い。
吹きすさぶ雪が光を遮り、視界を隠し、己のある場所を惑わせる。
ここで頼るべきは太陽ではなく、己を導く炎なのだ。
太陽が沈んだ暗灰色の空をうめつくす様に、今も白い結晶が舞い乱れている。
ランスロットは空を見上げ、舞い落ちてくる柔らかな雪をまぶたに受けて立ち尽くしていた。
吐き出す息が煙の様に白い。体の熱を伝えない銀の鎧の肩には、すでに雪が降り積もりはじめている。拳を握って、指先の感覚を確かめる。
「ランスロット様?」
松明をもっているらしい者が深雪を踏み締め、背後から彼を呼んだ。小さく風にあおられる炎が、細やかな火の粉を振りまいていく。
その度に、真っ白な地面にランスロットの影が踊った。
「どうか中へお入りになってください。見張りなど、ランスロット様のなさることではありません」
声で、自分の隊の騎士だとわかる。ランスロットは振り向かずに、あいまいに笑んだ。
「いいんだ。お前こそ疲れたろう。中で休め」
しかし、と言いかけた彼は、聖騎士の背中の意志を読み取り、黙った。
「…では、これを」
「気を使わせたな」
松明を受け取る。部下は頭を下げると本部へ引き返していった。
ぼ、と音を立てて松明がゆれる。手のひらをかざして風を遮ると、ゆっくりと顔を上げた。
…声がしたような気がする。
耳に聞こえるのは雪を孕んだ風のうねりと、己の呼吸。篝火のはぜる音。
だが、聞こえた気がする。
馬の嘶きが。手綱を巧みにあやつって、迷うことなくこの雪の中を進んでくる勇者の声を。
彼女は篝火だ。深紅の髪、珠玉の瞳。金色に輝く火粉をふりまいて、闇を切り裂き軌跡を描き、駆け抜ける炎。
我々は炎に導かれ、己の存在を見きわめ、進んでゆく。彼女こそが、導く者。
我々は彼女にすがればよいけれど、では、彼女は?
「開門ー!」
ランスロットが目を上げ、見ると、強固な砦門がきしむような音を立てて開かれている。
来た。
聖騎士はゆっくりと歩み、今、ローブのフードから長い髪をとき解いた馬上の娘に声をかけた。
「御無事で、アーウィンド殿」
振り向いた娘は、凛とした眉に驚きを見せて、鮮やかに笑んだ。
「ランスロット、何してるのこんな所で」
楽しそうに言ってひらりと下馬する。
「そろそろ御到着だと思いまして、お待ち申し上げておりました」
ランスロットの手の松明がふいに躍り上がった。金の粉が天に上がってゆく。
アーウィンドは眩しそうにそれを眺め、そして、くすと笑う。厚い革手袋を引き抜きながら従者に手綱を渡した。
「こんなに積もるまで外で待ってたの?」
華奢な白い手がランスロットの肩に積もった雪を払う。ランスロットは焦る。
「お馬鹿だね」
悪戯っぽく笑って、その手をそのまま上に動かした。ランスロットの頬に、冷えた手のひらが添う。
「アーウィンド殿」
くすくすと鈴の音の声で笑い、すぐ手を離す。
「開門してすぐ、ランスロットが見えた。ありがと」
早く中に入ろう、とアーウィンドはランスロットの背を押し、手にした松明を奪って駆け出した。
「…はい」
自分の肩より小さな娘を見やり、穏やかに笑みを浮かべている自分に気付く。
我々は炎に導かれ、そのともしびに己の存在を見きわめ、進んでゆく。
彼女こそが、導く者。
自分は、とランスロットは思う。
駆け抜けてゆく炎を守っていきたい。
彼女の心穏やかになる場所を、この腕に創ってやりたい。
彼女の持つ松明が、鮮やかな金の粉をまいた。

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