Shangri-La | angelique
  
 
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旅立ち
<<Part:8>>


ランスロットと小さな少年は、元神父の部屋だったというこの家の中を歩きまわってやっと剣のかわりになりそうなものを見つけた。
以前教会の屋根から堕ちたという、ロシュフォル教のシンボルである十字架。
「…まあ、こんなところだろう」
ランスロットはその鉄のシンボルを構えて、苦笑した。何も無いよりはましという程度だ。
カイは何故、騎士が剣を持ちたがるのか不審に思ったようだった。
「俺を人質にして、外に逃れようったって駄目だかんな。大体、そんなもんで人を切ったりできないだろ」
ランスロットは少年の言い種が可笑しくて思わず笑んだ。この十字架を部屋の隅から見つけてきて、得意げにランスロットを呼んだのはこの少年なのだ。
少年の方も、何を笑われているのか察したらしく、真っ赤に膨れた。
「でも、君は…ちゃんと人質という言葉の意味を知っているのかな」
ランスロットがちいさく笑いながら、その十字架を腰に結び付ける。カイは首をかしげて騎士の言葉を待った。
「もし私が君を人質に取って外に逃げようとしたら、あの青年は、どうすると思う?」
極力、少年の顔を見ないように、ランスロットは腰に目を落としたまま言った。この問いに少年は何と答えるか。
「それはもちろん、サイノスの足を引っ張るのは嫌だもん、俺は人質になっても助かろうなんて思わない。でもサイノスなら俺を助ける為におっさんを逃がしてやるさ。サイノスは絶対、俺達の味方だから」
明るい、誇らしい声がそう答えて、ランスロットを締め付けた。
おそらく、サイノスならば。
きっと人質などという脅しには乗らないだろう。
この非力な少年と、この計画の破綻とを天秤にかけるような無駄な真似はしない。
天秤にかける必要もない、と言い切るかもしれない…
出会って数時間しかたっていないのに、随分と酷な評価をするものだ。
ランスロットは自嘲してカイ少年を見た。
この少年は、あのサイノスという若者に心酔している。きっと人を惹き付ける魅力のある男なのだろう。そういう人間はまれに存在するものだ。
彼の発するオーラのようなものに捲かれれば、何を言われても許してしまいたくなる、何か彼の為にしてやりたくなる、強い憧れのような感情を抱いてしまう。
例え裏切りという卑劣な行為を青年がしたとしても、その行為をも許せてしまう、恐ろしいまでのカリスマ性を彼は持っているのだ。
我々の待つ勇者も…そんな力を持っているのかもしれない。
「でもおっさん、そんな十字架なんて使わないだろ?おっさんの剣ならもうすぐ返ってくるよ」
カイがそんなことを言う。
「そういえば、私の剣は今、何処にあるんだ?」
「サイノスに持っていったと思うよ。今はたぶん本部に集めて置いてあると思う」
それでは、彼はやはり、ランスロットの正体を知った可能性がある。
剣に刻まれているゼノビアの紋章に気付けば、誰でもある程度の推論は可能だ。
私が反乱分子であるということを。
ランスロットは唇を結んで、本部に身を隠している仲間達を思った。
反乱軍の存在は極秘でなくてはならない。言論さえ処罰の対象となる今の帝国支配では、反乱分子など息をすることも認められない。
だからこそ、ランスロットたちは二五年もの間、息を潜めて機を伺ってきたのだ。
だが、サイノスは知っただろう。
彼ならば、どうするだろう。
この革命に、反乱軍を巻き込むことを考えるかもしれない。
騎士は瞳を伏せ、胸に手を添える。
ウォーレンならば、サイノスの為に援軍を出すようなことはきっとしない。
帝国に怨み持つ同志の願といえども、それは例外ではない。あの頑固な、鋼の信念を貫く老人ならば、勇者以外の人間の為に反乱軍を動かすようなことは絶対ないと言い切れる。彼の、いや、『生き残り』である仲間達の願いはたったひとつ、ゼノビアの復興であるから。
ランスロットでさえ、それを支えに今まで生き恥をさらしてきたのだ。
サイノスに何を言われても知らぬ存ぜぬで通すしかないか。
偽証は罪である。しかし、ランスロットの一存で反乱軍の存在を公にし、帝国を動かすような事になってはならない。
完全なる大義など、あり得ないのかもしれない。


にわかに雰囲気を変えた街には、強い緊張感が漂っている。
アーウィンドはひとつ息を吐くと、裏通りから表へ出る。
今さら、どうにもならない。
アーウィンドは吹っ切るように顔を上げ、目に力を込める。
どんなにくよくよしても、動き出してしまったのだから。もう誰にも計画を止めることなどできはしないのだ。
間違っていようと何だろうと、サイノスについて行くしかない。
全ては、事が済んでからだ。
不覚にも滲みでた涙を乱暴に拭い、アーウィンドはきっ、と視線を定める。
その時だった。
悲鳴が、聞こえた。
通りの向こうに、閉じ込めていたはずの憲兵たちが見えた。
驚いた。反射的に体を壁に寄り添わせ、気配を殺した。息を飲む。
おかしい。憲兵たちは、仲間達が処分する手はずだったはずだ。
アーウィンドは角に身を潜め、様子を伺う。
円陣を組んだようにあつまっている憲兵たち。
心臓が弱音を上げている。熱くも無いのに、汗が吹き出してきた。
どういうことだ。何があった?!
状況は良く解らない。だが、閉じ込めておいた者達が表にでている。何か違ってしまったことは確かだった。
何があった!?アーウィンドは祈るような気持ちで息を殺し、憲兵達の声を忙しなく探る。
すると、馬の嘶きが聞こえた。馬をひいてきた憲兵が、今それにまたがった。
馬を走らせて、本部と連絡を取るつもりか!
大きく、心臓が跳ねる。視界がゆれるほどに感じた。
どくん、どくんと心臓が耳もとに聞こえる。わななく唇を無理矢理押さえ付け、アーウィンドは頼りにならぬ足でその場から立ち退いた。
失敗した!!
それだけが頭に響く。ぐるぐる、ぐるぐると、今までの計画が脳裏を巡った。
ここに、帝国軍がくる。
踏みにじられ、粉々にされる。
燃やされ、灰になってゆく。切り裂き、もぎ取られ、握りつぶされる。
えぐられる。

まるで酒に酔った様に、ありもしない声が脳に反響してきた。
嫌だ!これ以上、これ以上は嫌だ!
どうにも息が切れて、うまく走れない。
額の汗に赤い髪が行く筋も張り付いてた。喘ぐように呼吸して、どこをどう走ったのか、教会の裏に出た。
静かだった。
ここに来て、アーウィンドは、自分一人が愚かな幻を見たのではないかと、一瞬思う。自分の乱れた息継ぎしか聞こえない。
それほどここは静かだった。
アーウィンドは、ふらりと小屋へ向かった。
何故か、そうしなければいけないと思った。投げ出してはいけない、義務がここにあるような気がしたし、


ここに、大きな扉があるような気がしたのだ。

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