Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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旅立ち
<<Part:7>>


最後の仕事とは、牢の中の憲兵を始末することだ。
街に火を放っても、死骸がなければすぐに偽装がばれてしまう。
教会の地下に閉じ込めた憲兵13人を始末し、あらかじめ用意しておいた作り物の人骨とまぜて、それらの骨を、町中にばらまく。
それらしく配置しておけば、視察の人間は町人も火に巻き込まれて死んだものと判断するだろう。
青年たちの仕事は食事に毒を盛って、憲兵の死体を火にくべることだ。
これが終われば、自分達も山に隠れて帝国の視察人を待つことになる。
疲れている。緊張を維持することにこれだけ体力が必要だとは。はやく終わりたい。この仕事がすめば、あとはサイノスがなんとかしてくれる。
サイノスに任せれば、自分達は一線から退くことができる。これが終われば。
教会の扉を固めた見張りの仲間に片手を上げ、中に入ってゆく。青年達はお互い黙ったまま、地下への階段を降りていった。
食事が配られてもう一刻はたつ。憲兵は毒がまわって息絶えているだろう。
良心が痛まないではない。彼らは帝国の人間で、どうしようもない屑ではあったが、全員がそうではなかった。しかし、計画の内容上、どうしても全員を始末してしまう必要がある。
帝国に汲みしたのが悪い。許す必要はないのだ。
サイノスの声が蘇ってくる。きっと、皆それを思い出しているのだろう。
地下に降り、ランプをかざして牢の中を覗きこむ。
鉄格子の奥、纏わるような暗闇の中に、重なりあうように倒れている男達が浮かんで見えた。食事の皿がぶちまけられているのを見ると、余程苦しんだのだろう。
喉元に手をやったまま倒れている者もいた。
青年たちはお互い頷きあうと、鍵を開ける。この死体を上まで運び、教会の裏で焼くのだ。気持ちの良い仕事ではないが、これが我々の為になるのだ。なるはずだ。
帝国の悪政から逃れるにはこれしかないのだ。
青年たちが横たわる憲兵の体を持ち上げようとしたとき、ふいに、闇が動いた。
何事か、と思った時には、目の前が赤く染まり、生暖かい水のようなものを顔に浴びた。
遅れて、熱いような痛みがやってきた。切られたのか。視界の端に、同じ様に真っ赤に染まって崩れ落ちてゆく仲間が見えた。
どう、と倒れた体を受け止めたのは床に敷き詰めたようにあった憲兵の死体ではなく、自らが作った血溜まり。目の前には、床をしっかり踏み締めて立つ軍靴が林立しているのが見える。
こいつら、生きている。毒は。どうして。
そんな単語が頭を渦巻いた。そして、視界が闇に堕ちてゆく。
みんな…


その音を聞いたのは、少年が部屋を出ようとした時だった。
勢いをつけて椅子から飛び下りたカイの腕をランスロットはそっと押さえた。
「なんだよ、おっさん」
ちょっと戸惑って騎士を睨み付けた。が、ランスロットに目で少年に静かにするよう示めされて黙って頷く。
ランスロットは音を立てずに立ち上がり、窓の外の様子を伺った。
周りを囲んでいた『護衛』たちが慌ただしく走りさっていくのが見えた。
何か始まったな。
予測していなかった事が。それも、最悪の事態が。
サイノスの部下たちが走り去った方向からすると、教会。
体を取り巻く異様な緊張感が、ランスロットの神経を敏感に磨き上げていく。
ここから移動したほうが良いかもしれない。
直感がそう告げていた。
ここの空気は、何時の間にか戦場のそれに塗り替えられてしまっている。
しかし、と少年の方を見る。
この子を外に連れ出すのは危険ではないだろうか。何かが起こったことは確かだと思えるが、何が起こったのかは全く分らない。
その上、自分は剣をとりあげられている。空手で守りきれると思うほど、ランスロットは無謀ではなかった。
息をひそめてじっと固まっている少年の頭をくしゃりと撫でると、ランスロットは笑ってみせた。
「何か、剣のかわりになるようなものはないかな」


悲鳴だった。
サイノスは長椅子から立ち上がると、窓から外の様子を眺める。
通りの向こうに、閉じ込めていたはずの憲兵たちが見えた。息を飲む。
しくじったのか!
サイノスは顔面に強い衝撃を受けたように思った。頭の芯が一瞬白くなり、目の前が黒くなる。
何ということだ。ここまできてしくじるとは!
馬の嘶きが聞こえ、朦朧としかけた意識が呼び戻される。円陣を組んだようにあつまっている憲兵たちのひとりが、馬をひいて、今それにまたがった。
サイノスの耳は、もう己の鼓動以外を捕らえることができない。
馬を走らせて、本部と連絡を取るつもりだ。
ここに、帝国軍がくる。
それはすなわち、最期を意味する。
どうする!?
サイノスは拳を握った。爪が掌を切り、血が滴っていることにも気付かなかった。

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