Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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旅立ち
<<Part:6>>


サイノスはひとり、長椅子に座り、腕を組んで瞳を閉じる。
ランスロット。
アーウィンドが接触し、子供たちが奪ってきた剣をよく見れば、単なる騎士ではない事が分る。その柄に施された紋章と、彫り込まれた称号に気付いたのはサイノスだけだったようだ。
あれはゼノビア王国の紋章だ。称号は聖騎士。
旧王国派の人間でなければこんな剣を帯びたりはしまい。この剣は、ゼテギネア支配の今、間違いなく命取りになる。
ランスロットは旧王国派の人間なのだ。
サイノスは髪をかきあげ、足を組み直す。
その騎士がこの町に来た。数人の部下まで連れている。これが何を意味する?
反乱軍の存在を意味しはしないか?
サイノスは己の幸運に感謝したい気分だった。ランスロットを巻き込み、未だどこかに潜んでいるはずの旧王国派軍たちをも、この革命に巻き込んでしまえばいい。
そうなれば、自分達は静かに退場することができる。

憲兵を幽閉し、その上町に火を放ったのはサイノスの作戦だった。
憲兵との連絡がつかなくなったことを不審に思った帝国の人間がこの町に来たとき、焼け落ちたこの町を再起不能だと処理させるためだった。
不毛の地と化した廃虚の町に、帝国が興味を抱き続けるはずもない。いっさいの手を引いて、ここから去るだろう。
そうなれば、帝国の支配の網から抜け出すことができる。誰からも支配されない町を作るには、この方法しかなかった。
帝国の人間ならば、この惨事の犯人を誰にするだろう?
サイノスはあらかじめ憲兵の一人に「薬」を常用させ、錯乱者を用意してあった。錯乱者ひとりを残し、町からは全員ひきあげる。
そうすれば町ひとつを全滅させたと思われるのは、狂った憲兵になる。
だが、ランスロットという絶好の獲物が手に入った。旧王国派の人間ならば遺恨がらみの犯行だと位置付けられやすいだろう。
筋も通っている。
もし、そんな軍が存在しなければ、犯人をランスロット一人に仕立て上げて処分してしまえばいい。
彼は協力すると言ったのだ。
サイノスは口元に組んだ指をほどいて、ゆっくりと立ち上がる。
日は高くなり、この日が沈む頃には決着がつく。自分たちの導きによる自由。
皆にはそろそろ疲れがたまりはじめている。体力の低下は、意志を弱らせ迷いを生じさせる。
今、迷いが生じれば、団結することで事を起こした今までの全てが散じてしまうだろう。少しの迷いも許すわけにはいかないのだ。

アーウィンドはそれを表した。
所詮は女か。
サイノスは濡れたままの唇を手の甲で拭い、忌ま忌ましそうに唾を吐いた。

「おっさん、飯だよ」
扉を軽く叩く音がしたと思ったら、あの少年がやってきた。
小さな盆にパンと、スープのようなものが見える。ランスロットは苦笑した。
少年・カイは少しむっとした様子でずかずかとこちらへやってきて、それらを卓に並べてゆく。
「これっきゃねえけど、別におっさんに辛くあたってるわけじゃないんだぜ。皆これと同じくらいしか無いんだ」
カイは顔を伏せたまま、椅子に腰掛ける。
ランスロットは部屋の周囲に気を配る。よくこんな子供ひとりで部屋によこしたものだ、と思う。
こちらを警戒して動きを牽制したかと思えば、こんな杜撰なことをする。
指導に穴があるな、と思わざるを得ない。自分が、この少年を人質に取ったらどうするつもりなのだろうか。
ランスロットは少年に素直に礼をして、とりあえずパンを手に取った。カイは子供特有の笑顔を見せて、椅子の足をぶらぶらさせる。
「少し聞いてもいいか?」
情報を得るにはこの子から聞くしかない。ランスロットは少年の目を真直ぐ見ていった。カイはまだ子供だから、そのままランスロットの瞳をじっと見返してくる。
そうして特に警戒もせずに頷いた。
「私がここに来たとき、この町には誰もいなかったが…町の皆はどうしたんだ?」
「みんななら、隣の山の中に移動してる。俺のオヤジも母さんも、サイノスの仲間と子供以外は、家ン中の物ほとんど持ってって隠れてるよ」
では、町人は無事なのだ。人の気配がまったくしなかったのはそのせいか。とりあえず安心だ。
カイは得意な様子で腕を頭の後ろに組んで、続ける。
「俺達はサイノスたちの片腕なのさ。今度のことだって、オヤジたちは乗り気じゃなかったんだ。だけど、俺達はサイノスと一緒になって行動を起こした。オヤジたちは文句を言うばっかりの臆病ものだって、だから俺たち子供を選んでくれたんだ。子供だけど、立派に働けるからって」
ランスロットは黙った。
それはとても、危険な思想に思える。
慎重な意見を、臆病だと決めつけて一蹴するのは、独裁者のすることだ。
何か行動を起こすとき、それを擁立する者と、そうで無い者とが必ずあらわれる。その対立する二つの意見をどのようにまとめて答えを導き出すか、その方法のありかたによって結果が意味を持つのだ。
大丈夫だろうか。
青年の目には、確かに怒りの色があった。
しかし、あれは誰の怒りだ?町民全ての抱いている怒りだったか?それとも彼個人の怒りだったのか。
彼の行動は、本当に、ここに暮らす人々の意志の現れなのだろうか?
そして、その彼は、私に何かを望んでいる。
その二つの道筋の重なる場所をおぼろげに目にしたような気がして、ランスロットの心臓は、一瞬、大きく跳ねた。


アーウィンドは長い髪を束ねて、剣を掴む。
何から、始まったのだろう。
始まりは何だったのか、皆はもう忘れてしまったのだろうか。
俯くと、己の足元に光るものが見えて、何気なくそれを拾い上げる。
丸いガラスのボタン。人形の目だったものだ。
手のひらのそれをぼんやりと見やって、アーウィンドは唇を噛み締める。
始まりは、ちいさな少女の死。
日が暮れても家にかえってこなかった女の子は、朝霜がおりた日に発見された。
打ち捨てられる様に横たわった少女の体には霜がおりて、朝光を反射して白く輝いていた。
髪も服も、血が凍って板のように平たくなってしまっていた女の子。
それがきっかけだった。
この惨い仕打ちは誰のせいだ?
あのときのサイノスの声が脳裏に蘇る。
我々は、この仕打ちさえ甘んじて受けるのか!?黙っているだけなのか!?
冷たくなった少女を抱きかかえ、サイノスが叫んだ。
立ち上がるのだ!私に続け!!
アーウィンドはそっと、自分の唇を指でなぞった。
サイノスは変わってしまった。
私達の道しるべだった彼。私達の代表であり、私達自身であった彼は、今は私達の支配者になっている。
サイノスと共に戦うというより、彼によって使役されているような。
「サイノス」
アーウィンドは、唇に残っている感触を思いだし、寒さに震えるように自分自身を抱き締めた。
何か違っている。どこが違うのかはっきりとは指摘できないが、自分達が間違った方角に踏みだしていることは分かっている。
「サイノス」
もう一度名を呼んでみた。何故か、声に出して名を呼ぶと、手の届かない遠いところに行ってしまった者のような気がする。
アーウィンドは拳を握る。
「私達、これでいいの…?」

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