Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
12Kingdom
OgreBattle
Mobile sutie Gundam
finalFantasy
Shortstory
 旅立ち
 素朴な疑問

 ともしび
 花火
 宴の夜
 満ち月
 癒しの瞳
 クチバシ
 草原にて
Illustrator







旅立ち
<<Part:3>>


ランスロットの死角からかまえられていた短剣は、今、確実に騎士の急所にあてがわれていた。
戦火に追われた哀れな娘を保護した騎士は、背後を取られた上、首筋に短剣を突きつけられてかたまっているのだった。
騎士の元に駆け寄ろうとした部下はあわてて立ち止まった。
「ランスロット様!!」
ランスロットは娘に抵抗の意志がないことを示すようにゆっくりと腰の剣を抜き、前へ投げた。
「‥‥お前たちも剣を捨てろ」
「しかし」
「いいから、従うんだ」
部下達は憤りを隠さずに、言われるまま剣を投げる。埃を立てて、剣は地に捨てられた。
「‥‥君は何者だ」
ランスロットは前を向いたまま、娘に囁くように問うた。
娘は答えず、ランスロットに短剣を突きつけたまま、甲高い口笛を吹いた。
それを合図に周囲から飛び出してきたのは、小さな影たち。
一瞬身構えたものの、朝日の中に見えたのは子供達だった。
彼等は駆け寄ってきて、投げられた剣を素早く拾い上げると、声もなく走り去った。
「姉ちゃん、縄」
一人の少年が荒縄を差し出す。娘は顎で少年に従者達を縛るよう促した。
少年は頷き、すたすたと従者たちに歩みよると、
「おっさんたち、自分達でお互い縛ってよ。変なことすると、あの人、喉切られちゃうから、しっかり縛ったほうがいいよ」
と、手にした荒縄を突き出した。
部下のひとりが縄を手に取ることも、それを拒むこともできず、目で答えをランスロットに求めている。
騎士は黙って頷く。観念したように、男は仲間を後ろ手に縛り上げるため、少年から荒縄を受け取った。

ランスロット一行はさらに目隠しを施され、町を歩かされた。
いくら腕の自由が利かないとはいえ、同行しているのは小娘と子供だ。人質を盾にとられていない今なら、逃げ出すこともできないことではない。
だが、自分達の主である騎士が、黙って従うよう態度に示していた。従者たちは甚だ不本意だが、騎士に従うしかなかった。
娘は先ほどから一言も口を開かず、この奇妙な行列の一番後ろを歩いている。
どれだけ歩かされたのか、一行の前方から、扉の軋む音が聞こえた。何処か、建物の中に保護、されるらしい。
ランスロットは自分の背後にいると思われる娘の気配を探ることに意識を集中させた。
何者なのだろう。この町の娘ではないのだろうか。
「おっと、おっさんはこっち」
突然、少年に上着を引っぱられ、彼の鼻先で扉が閉まる音がした。小屋の中から、その異変を聞き取った男が声を上げる。
「別に変なことする訳じゃないから、心配することないよ」
少年は、これから起こる面白いことを内緒にするかのように、悪戯っぽく笑って言った。
「君達は何者なんだ」
ランスロットは今日二度目の問いをした。
「話はあとだよ、おっさん。おっさんは、こっち」
少年はランスロットの上着をさらに引っぱり、移動を促した。
「まだ、おっさんと呼ばれる年ではないんだが」
先ほどから連呼されているのが気になる。騎士ランスロットはおっさんと呼ばれる年ではないが、気になる年ではあった。
「変な人だね、あんた。おっかなくないの?」
少年の声が、小さく笑いを含んだものに変わった。少年は、騎士に興味を持ちはじめている。
「変なことする訳じゃないから心配することない、だろう?」
「それはこれからのあんた次第よ」
背後から、あの娘が言った。
突然のことで、ランスロットはぎくりと肩を動かした。
よく通る声を意識して落としているのがわかる。
「子供から懐柔しようなんて、みっともない真似はやめることね、騎士様。黙って歩いて」
背筋に力が入る。
ただの娘が、騎士である自分を警戒させるだけの覇気を感じさせるとは。
(やはり、ただの町娘ではなさそうだ)
それきり少年は口をきかなかった。覆いで見えないが、少年の緊張が気配からありありと解る。かわいそうなことをしてしまった。
再び複雑に路地を歩き、どこをどう歩いたのか解らなくなったころ、再び扉の開く音がした。重々しい音からして、部下たちの隔離された所とは少々格の違う建造物のようである。
薄暗い部屋だということが、瞼に感じる光りの変化でわかった。
ひやりと湿った空気から、あたりに火を付けられた家屋がないことが想像できる。
町はずれか。
「‥‥階段、気をつけて」
少年がぽつりと言った。辺りをはばかりながらランスロットを気づかってくれたのだ。
「ありがとう」
娘の視線を強く感じたが、ランスロットはあえて気付かない風を装った。少年は後ろ手に縛られているランスロットの腕のあたりを引き、階段を先に下ってゆく。
少年の足音、後ろからは娘の足音。そしてランスロットの固い踵があたりに反響する。石作りの階段のようだ。
地下に続く階段か。
ランスロットは静かに息を吸い込み、呼吸を整える。耳に神経を集中させる。
「ここは、教会かな」
騎士の声に、微妙に足音のリズムが乱れたのはやはり少年の方だった。後ろの娘には、なんの変化もない。
「地下のある教会というのは、なかなか珍しいんじゃないのかな」
また、前の少年の足音に変化が表われた。戸惑いながら返事するべきかどうか後ろを歩く娘を振り仰いでいるのが、微かな空気の乱れで解った。
返事を返したのは、娘だった。
「教会の地下は昔から薄汚ない、後ろ暗いものを隠しておく場所でしょう。神の足元こそ、悪徳の温床なのよ」
あの唇が、この台詞を紡いでいるのかと思うとランスロットはなぜか軽い息苦しさと高揚感を抱いた。
凛とした、それでいてどこか甘やかな声。
「‥‥神父が聞いたら気絶しそうだな」
声を発して、喉がからからに乾いている自分に気付く。
「神のシモベは天ばかりを仰ぎ見るから、足元の毒沼には気付かない」
娘は微かに笑った。
きい、とか細い金気の音がしてはっとした。
さらに冷えた空気が頬を撫でる。
少年が腕から離れた。すぐ後ろにいた娘も数歩後退していく。
囲まれている。
ランスロットは辺りに複数の人間がいることを感じ取った。
ここで襲われれば、防ぎようがない。
何が始まる?静かに呼吸を整える。冷えた汗が流れた。

PageTop
前へ   次へ
   
Shangri-La | index OgreBattle