Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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旅立ち
<<Part:2>>


数人の共を連れ、ランスロットは馬上の人となった。
伝説の勇者。ランスロットはその存在を信じている。
ゼノビア王国で長く預言者の一人として働いていたウォーレンの実力は疑うべくもなく、勇者と呼ばれるべき人間が近い将来現れるのは間違いないだろう。
だが、遅い。
国が侵され、王が殺され、ランスロットは祖国を失った。
散り散りになった志ある者たちは首都を追われ、今、わずかな軍としてこの辺境の地で逆転の機会を伺っている。
四つの国を食いつぶして現われた帝国は、25年のあいだにとうとう本性を表わしはじめた。
今こそ、決起を。
だが、星の差し示す勇者は一向に姿を見せない。
『戦乱の地に現れ、人を導く』だが、それは何処なのか。
各地で起こる小競り合いを、ランスロット達はじっと息をひそめて見守ってきた。だから、無力の民が踏みつぶされ、血を流す様も、嫌というほど見る羽目になったのだ。
預言の解釈が違うのではないのか。我々が帝国にしかける戦に、彼が姿を見せるのではないのか。だとしたら一刻も早い決起を。
だが、ウォーレンは動こうとはしなかった。
じっと、暴動を見守るだけに徹底してきた。
勇者の出現のために自らの手で暴動を工作しかねないのでは。そんな噂が流れるのも時間の問題だった。ウォーレンならばそれくらいのことをやってのけるのではないかと皆を疑わせるだけの信念を彼は放っている。
ランスロットは、そんなウォーレンに対して皆が疑念を抱く前に、行動を起こしたかったのだ。
だが、結局説得に失敗してしまった。
(勇者が現れるのを待っていたら、シャロームの民は全滅してしまう)
暴動を起こすのは、民ではない。帝国兵の下っ端たちが乱暴と横暴の限りをつくし、果てに余興で町に火を放つのだ。
(狂っている)
下級の兵にまで腐敗が広がっているのを見ても、帝国の上層部の実態が伺えようというものだ。
ウォーレンは勇者が現れるまで、一兵たりとも動かそうとはしないだろう。わずかに残った旧王国派軍のみで、ゼノビア王国を復活させることがウォーレンの存在理由になっている。だが、我々の存在に帝国が気付かれれば、圧倒的な力でもって消されてしまうことは目に見えている。
それだけは、避けねばならない。ここでランスロットが単独で動くのは、旧王国派軍にとって危険であった。
だが、ウォーレンは出立を許した。
彼も、この現状に飽いていたのかもしれない。
ランスロットは馬を早める。

ランスロット一行がその町、フェルナミアに到着したとき、東の空はうっすらと明るみはじめていた。
馬を共の一人に預け、ランスロットは足早に町の門をくぐる。
遅かった。
決して裕福とはいえない町並のいたるところから、火の手が上がっていた。
(だが、まだだ)
ランスロットは走りだす。まだ、冷たく横たわる骸を見ていない。
(生きてさえいれば)
家の中の様子をうかがうが、人の気配はない。
木のはぜる音があちこちから聞こえるが、それ以外には音というものがなかった。
町全体が今だ深い眠りについているかのように。
赤くきらめく火の粉を片腕ではらいつつ、ランスロットは町の中心に向かってゆく。
家の燃え残り方から見て、襲撃があってからまだ幾分もたっていない様だが、人々の気配は相変わらず感じられない。
全員避難できたか、それとも全員殺されてしまったのだろうか。
細い路地をいくつか抜け、視界が急に開ける。
こじんまりとした広場に、古ぼけた井戸が見えた。
ここが町の中心だろう。
ランスロットは呼吸を整えながら静かにあたりを見回した。
誰もいない。人影も見えなかった。
「誰もいませんね」
馬をあずけた共の男が、後ろでつぶやいた。軽く息をはずませている他の従者たちも、集まっている。
「町全体死んだみたいに静かだ」
まだ少年と呼べる年の従者がつぶやく。
「帝国の奴らも引き上げた後なんだろうか」
「それにしても静かすぎる。これでは、本当に一人残らず全滅したことになるぞ」
共の男達が幾分混乱ぎみに話しているのを聞きながら、ランスロットは黙って井戸に向かった。
空は明るい。町に差し込む朝日で、炎が透けて見える。
もう何代も前の時代から静かな営みを続けてきた古びた町が、こうして炎に飲まれて消えて行くのを、ランスロットは幾つも見て来た。
ここも、抜け殻のように焼けこげた家屋だけがいつまでも取り残されるのだろうか。
そのとき、派手な音をたてて広場によろめき出てきた影があった。
ランスロット達は一斉に駆け出した。

その女は路地に置かれた樽に派手に体当りして、ランスロットの前に転がるように現れた。
煤けたショールを頭からかぶり、地面に色褪せた裾をひきずりながら、女は恐ろしい何かから逃れようとしているように見える。
ランスロットは駆け寄り、女の腕を掴んだ。細い腕だな、とランスロットは思った。
「どうしました、大丈夫ですか?お怪我は」
女は黙ったまま顔を伏せて何度も頷く。目深く被ったショールでよく見えないが、華奢な顎の線は若い娘のそれだった。
ランスロットは娘の手をとり、そっと立ち上がらせる。
「無事でよかった。他の皆は?どこかに避難できたのですか」
怯えているのか、娘はただ首をふるだけだった。そうして、深くうなだれる。
ランスロットは今にも泣き出そうとする娘をなだめるように肩に手を置いた。
「大丈夫です、大丈夫ですよ」
「‥‥して」
掠れた声で娘がつぶやく。
「え?」
ふいに顔を上げた娘と、視線が交差する。
真紅の瞳がそこにあった。
ランスロットは一瞬、息を飲んだ。
思わず引き込まれそうになる、痛烈な瞳の輝き。
淡く艶めく唇が開く。そっと言葉を紡いだ。
「剣を捨てなさい。あんたの部下にもそう言って」
何が起こったのか、不覚にも理解できなかった。

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