Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
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素朴な疑問
<<Part:3>>


あの騒ぎからもう三日になった。
ハボリム疑惑、とでも言おうか、とにかくそれのお陰でパーティーの皆は必要以上にピリピリしている。
ハボリムが剣を振るうたび、ハボリムが呪文をとなえる度、大袈裟に言えばハボリムが首の後ろを掻く度に誰もが彼を伺った。
システィーナはあの夜の最後に「私は彼が何者でも構わない」ともう一度付け足した。それはデニムも皆もとても感心し見習いたいと思う言葉だったが、それでもやはり彼がシスティーナの前を通り過ぎれば彼女は異様な緊張を走らせている。
「皆、なんだか凄い殺気だなぁ‥‥」
「うーん、まぁ、しょうがねーんじゃないの?俺も前から気になってたし」
「僕、余計な事を言っちゃったみたいだね‥‥。こんな事になるって解ってたなら、姉さんのカレーの事なんて言わなきゃよかったよ」
デニムは、枕をぎゅっと抱きしめた。
同室に泊まる事になったカノープスは落ち込みやすいリーダーを忌ま忌ましそうに眺めて、槍の手入れをしている。
「なっちまったもんはもう引っ込めようがない。皆も気にしてはいたけど口に出さなかっただけだ。デニムが気にする事はないと思うぜ」
「でも‥‥」
パジャマ姿のデニムはベットの上でごろごろと転がると、やっぱり納得いかないと言った感じで起き上がり、カノープスを上目使いに眺めた。
「僕、やっぱり皆に謝りに行こうかな」
「謝りに?なんでデニムが謝るんだ」
「‥‥だって、皆すごくピリピリしてるもん。それって僕が原因なんだし‥‥」
「それはお前のせいじゃないって言っただろう」
「‥‥うん」
キュッキュッと槍を拭く音が部屋を支配する。ランプひとつだけで明かりを採っているこの部屋は人が話さないと異様に暗い。
デニムは窓の外を見た。
星がいっぱい出てる。
(あの時、たしかにハボリムさんは星を見てたんだ‥‥)
‥‥デニムは寝返りをうった。
毛布を蹴ってみた。
頭をかいてみた。
「‥‥‥‥‥‥」
起き上がった。
「やっぱり、僕のせいだ。謝ってくるよ」
「だーかーらー‥‥!」
それはお前のせいじゃない、とカノープスが口を開こうとした瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。拍子抜けしたカノープスが舌打ちしながらベットに体を横たえてしまったのは「俺は出ないぞ」という意思表示である。
デニムは苦笑いしてドアノブに手をかけると、驚いた事に‥‥。
「皆‥‥」
扉の向こうにはあの「皿洗いメンバー」がそろっていたのだ。
そこには、やっぱりシスティーナもいたのだった。

「気になって眠れません」
フォルカス殿の第一声である。
「ここに集まった者たちはもう3日もまともに眠っていない者です。このままでは私達、昼の活動に身が入らなくなってしまう」
確かにそう言うとうり、ランプの光に浮かび上がった彼らの表情は疲れきったものだった。目にクマをつくって、顔色もどことなく土気色である。明るい表情は見られない。アロセールなんかここ数日で随分痩せたような気がする。
「もう限界だわ。どうしても気になるんです。ハボリムさんの事で頭がいっぱいになっちゃって‥‥!集中力がなくちゃ弓なんか撃てないんです〜っ」
そう言うアロセールの台詞はそれだけ聞くと、まるで恋に悩む女の子の様だが甘さがない。切羽詰まってがけっぷちといった緊迫感がひしひしと伝わる声だった。本当につらそうである。
「俺も、結構自分では物事気にしないタイプだと思ったんだが‥‥これだけは異様〜に、気になって。合計8時間しか寝れてないんだ、すけーだろ」
ギルダスが罰の悪そうにそう言った。暗くてよく見えないがミルディンを含む何人かの影がうんうんと頷いた。
これは、全員が寝不足という事だ。
「それで、私達はリーダーに相談に来たんです。いったいどうすればこのモヤモヤを取る事ができるんでしょうか‥‥!?」
群集の先頭に立ったフォルカスとシスティーナは痛いくらい切実な瞳でデニムを見る。彼らは彼らなりにいろいろ考えて、こうなったら頼れるのはリーダーしかない、と言う結論になったのだろう。助けを求める影たちは、クマで縁取りされた瞳でじっとこちらを見ている。
最後の砦のデニムは気迫に後ずさりして、泣きそうになる。
「やっぱり‥‥僕があんな事言わなければ皆はこんなに悩まずに済んだのに‥‥。僕のせいだ‥‥」
「だーもー!デニムのせいじゃないって何度言わせれば済むんだッ」
カノープスが絶えきれず叫ぶと、群集の中からもリーダーのせいじゃないと声があがる。
「でも、でも、あのギルダスさんが‥‥いっつもイビキのギルダスさんまでが8時間しか眠れないなんて、‥‥僕、すごい事を言っちゃったんだ」
そう言ってデニムは両手で顔を覆う。細い肩が震えて、いよいよデニムの懺悔が始まった。
「皆に協力したいけど僕にはどうする事もできないよ‥‥。僕のせいで皆を苦しめる結果になったのに‥‥責任もとれないリーダーなんだ。いつもそうだ。僕の選択ひとつで皆をまきこむ。レオナールさんの時も姉さんの時も僕が皆を巻き込んだんだ‥‥。僕はどうしたらいい?僕はどうやって皆に謝ったらいいのかわからないよ‥‥」
「いいえ、これは皆の問題よ、リーダーは悪くないわ」
システィーナはまるで聖母のように穏やかにデニムの肩に手をのせると、皆を振り返る。
「そう、これは皆の戦いよ!リーダーのせいじゃない、そうでしょ!?」
そう演技がかった声で言うと、ひしめきあう影達はそうだそうだ、と盛り上がる。
「システィーナ‥‥」
デニムはシスティーナを救いの女神を見る様に眩しそうに目を細めた。
「これはリーダーのせいじゃない。皆の責任だわ。ホントの事を言えば皆リーダーがハボリムさんの事を言うまで考えない様にしてただけなんだわ。これは皆で悩んで皆で解決するのが筋だと思うの」
システィーナはそう皆を仰ぐと皆もうんうんと頷いている。美しいパーティー愛にカノープスは目眩を感じながら、呆れた様に、
「‥‥で?それで不眠症解消のために催眠術師でも雇えってのか?」
「ちがうわ。‥‥これは私とアロセールで考えた案なんだけど‥‥‥アロセール。紙、用意して」
「はい」
アロセールは背中から何かをごそごそと取り出すと、随分と大きな紙を取り出した。そこには大きく、
「解決!ハボリムの謎!〜明るい明日と安らかな睡眠を求めて〜」とかいてある。
「‥‥おいおい、なんだそりゃ」
カノープスは間の抜けた声でその紙をアロセールから奪うと、怪訝な声でその紙を読み上げる。
「なになに?作戦その1デニム編。自然をよそおってハボリムさんに近付き、宿を同室にし相手の素性をさぐる。ハボリムの荷物の中に雑誌や新聞など見えないと意味のない物が入ってないかをチェック。作戦その2カノープス編。空を飛べるカノープスは上から石を投げよけるかどうかを確かめる。その時できるだけ気配は消す事。ばれた場合は靴にひっかかっていた石が落ちたと偶然を装うことぉおおおー?なんだよこりゃ!!」
「ハボリムさんを腹の底から信じるためには、ハボリムさんをもっと知らなくてはならない。そうでしょ?そのための作戦よ」
いけしゃあしゃあとシスティーナは言うと、ふんぞり返ってみせた。
「私は何事にも慎重派なの。セリエねえさんとは違うわ」
「今そんな事が論点じゃねーだろぉが!こんな草まがいの事をデニムにやらせるつもりかッ!?リーダー思いのいい仲間だなぁ、オイ!」
「何、じゃあ貴方は私達が過労死しても良いって言うの?私なんて3日連続完徹してるのよ。もう一睡もしてないのよ。
これだけ我慢したんだからもう行動に出て良いと思ったのよ。何か文句は?」
呆れて物がいえないカノープスにアロセールは申し訳なさそうに言葉を紡いだ。
「このままじゃ気になって眠れないんです‥‥。どうか御協力ください‥‥」
その瞳には、いっぱいに涙が溢れてて、カノープスは言い淀む。それを見てシスティーナは微笑むと、後ろの群集を振り返る。
「作戦は、まだまだあるわ。皆さん、協力してくれるわよね?!」
「おー!」
「それじゃあ、がんばりましょう!」
「おー!」

もう草木も眠る時間なのに、異様な盛り上がりを見せたデニムとカノープスの寝室では、未だ灯がともっていた。
そして朝日がのぼり始める頃群集はやっと自室に引き返し、作戦遂行の朝になる。

<<To be continued...>>
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