Shangri-La | angelique
  
 
Angelique
12Kingdom
OgreBattle
Mobile sutie Gundam
finalFantasy
Shortstory
 旅立ち
 素朴な疑問

 ともしび
 花火
 宴の夜
 満ち月
 癒しの瞳
 クチバシ
 草原にて
Illustrator







素朴な疑問
<<Part:2>>


結局、喧嘩に負けてしまったカノープスは、皿洗いを手伝わされていた。
デニムは可哀相に思い、僕も手伝う、と言ったらリーダーにそんな事はさせられない、と言って乱闘に加わった人たちと、ヤジを飛ばしていた人達全員で片付ける事になってしまった。
「ったく、人には人用の飯が喰いたいってもんだぜ」
カノープスはあいかわらずブツブツ文句を言っていたが、ちゃんと女性に勝ちを譲る辺りが彼らしい。
それになんだかんだ言って、御飯も全部残さず食べる所が偉い。デニムはカチュアが自分の料理をこっそり鍋に戻しているのを目撃したから尚更偉いと思うし、可笑しい。戦士として有力なギルダスさんが隣でいい加減に皿を拭いている様子もなんとなく可笑しかったし、彼につきあわされて渋々皿を拭いてるミルディンさんも可笑しかった。
台所用のテントは大の男でひしめき合い、皿を割ったり水をこぼしたりで滅茶苦茶だったが、デニムにとっては充実した時間になりそうだ。ここには笑い声が溢れている。
夜には樽に汲んだ水も冷たくなる。
デニムが冷たい手を擦り合わせてテントの外を見ると、もう冬のせいか息も白くなった。
街は遠くにあるので明かりも遠い。テントとキャンプファイヤーから離れれば一歩前も解らない濃い闇が垂れ下がる。
デニムは何となく外に出た。すると急に視界が広がって思わず、わあ、と声をあげる。
満天の星空。吸い込まれそうになる大きな宇宙にデニムは惹かれてしまった。濃紺の闇を埋め尽くそうと、星がもう何等星かもわからないくらい自己主張して瞬き合う。空に模様を描こうとした古代の人の気持ちが何となく解るような気がした。
良い物を見た、とデニムがテントの中に引き返そうとした時、一人の人物が闇に溶けかけているのを見つけた。
(あのシルエットは‥‥ハボリム‥‥さん?)
ハボリムも星を眺めているようだった。何か物思いに耽っているのか、星を見上げたまま動かない。
デニムは夕日をながめて浸っていた自分とハボリムを重ねて、ちょっと笑った。
(こんなに星がきれいだもんね。彼だって何かに浸ってたって可笑しくないや)
うんうんと頷いて、声をかけないでいてあげようと踵を返したその時。
(‥‥‥‥ーーー?)
異様な違和感がデニムを支配した。
(‥‥‥‥ハボリムさんが星を眺めるぅ?)
汗が体の奥をつたったように、気持ちが悪い。
デニムは何となく急いでテントに入った。
明るいテントに目潰しを食らって、ぼやっとしていると、カノープスの腕が伸びる。
「デニムっ!サボってたなっ!皿五枚追加の刑だ!やれっ!」
「へいっ」
ここは相変わらずの雰囲気で、デニムに皿が渡された。
勢いに負けて一枚めの皿に手を掛けた時、騒がしいカノープスに、素朴な疑問を投げ掛けた。

「ねぇ、ハボリムさんって本当に見えてないのかなぁ」

誰かがカップを落とした。
誰かがフォークを落とした。
台所用のテントの中にいる全員がこちらを振り返る。
皆驚いた様に目を丸くして、各々の仕事の手をぴたりと止めた。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
妙な緊張が、仲間中に伝染した。

沈黙に耐えきれなくなって、デニムは続けた。
「ハボリムさん、外で星を見ているんだ」
その言葉に全員が顔を見合わせた。何時になく真剣な表情に、汗が浮かぶ。
「見ていた」、という表現は、「見えていない」彼に相応しくない。見えない彼に見る事は出来ないのだ。
誰かがまさか、と笑ったが、その後の言葉は続かなかった。
思い当たる節ならいくらでもあったのだ。どうして見えてないのに解るんだろう?とパーティーにいれば誰しも一度は思う事だった。
もし、それが見えていたのだとしたら、解るのも不思議ではない。
誰かが、生つばを飲み込む音がした。
「わ、私、ハボリムさんに階段から転びそうになったのを助けてもらった事があるわ」
ニ度目の沈黙を破ったのは皿洗いの見張り兼指導役のアロセールだった。視線は一気に彼女に集中する。
「普通、見えてても、助けるのって中々難しいじゃない。それなのに私の肩をしっかり支えてくれて‥‥それで‥‥」
すごいなって思ったの。と続けた。
「あの、‥‥私も助けられたことがあります」
手を上げたのはフォルカスだった。どうやら彼も地味ながら乱闘に加わっていたらしい。上げた片手には皿ふき用の布が握らされている。
「戦闘中、私の後ろから斬り付けようとした戦士を、見事な剣技で、‥‥今思えば私の命の恩人です」
「そもそも目が見えなくて二刀流の剣が両方当たるってのがすげーよな」
カノープスが言葉をつなげる。

「ひょっとして、薄目あけて、みてるんじゃねーの?」

場内は、静まり返った。
お互いの顔を見合わせて、戦いのエキスパートたちは顔色を伺った。
お互いの顔にうかぶ「まさか」の表情。そして「でも」の表情。
見えていたら話は何の不思議もない。彼はちょっとミステリアスで人を騙すのが好きなペテロクラウド自在剣士だったということだ。
仲間を疑いたくはないが、この不安はなんだろう。
ひょっとして、ひょっとするかもしれない、そう思ったとき、システィーナが反論した。
「まだそうと決まったわけじゃないわ。視力を失った代わりに聴覚、嗅覚が優れるっていう話もよくあるし、何より彼はソードマスターよ。気配ぐらい読み取れるのよ」
「でも、システィーナ‥‥、気配ったって限界が‥、」
「フォルカスは黙っててッ」
一瞬、テントの中が、別の意味でおおっと沸いた。
「彼には彼なりの事情があって多くを語れないけど、だからってある事ない事言って中傷するのは良くないわ。彼は仲間よ。信じましょう!」
まわりの人たちはシスティーナの正論に一瞬呆気にとられたが、誰かが拍手をすると、また誰かが拍手をし、テント内はぱちぱちと大いに盛り上がった。
システィーナはそれを両手をあげて声援を受け止める。
「そうね。信じましょう」
とアロセール。
「そうですね。彼が何ものだってかまわない」
とフォルカス。
そうして皆は元の皿拭きに仕事を戻そうとした時、デニムは堪えきれずに言ってしまった。

「ハボリムさんはねえさんの作った料理を、皿に盛る前からカレーって言ったんだッ」

これには全員が口を開けて驚いた。
静寂がまた訪れる。
「デニム、あれはカレーじゃねえ」
とカノープスは冗談を言ってみたが、場は静まり返ったままだった。
「料理を作る過程を見たのかもしれないな」
フォルカスは、あっさりと疑った。それに激しくシスティーナは反抗する。
「そんなの匂いよ!匂いっ!」

はたして、あの奇怪な食べ物からカレーの匂いがしただろうか、否。

システィーナはうなだれた。デニムは俯いた。
信じたい心はテントの中で一つになっている。しかし‥‥。
素朴な疑問は波瀾を呼ぶ。
「ハボリムさんの目は、見えているのかいないのか」。
それは仲間達にとって、スパイ疑惑なんかよりも重大な事に思えた。

PageTop
前へ   次へ
   
Shangri-La | index OgreBattle