Shangri-La | MobileSuitGundam
  
 
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青の瞳


夢を見て目を覚ました。
浅い眠り故に否応なく脳という銀幕に映し出される映像はまるで、旧世紀の射影機______目の錯覚を逆に利用して静画を動画に見せる
最初のマシンがあったと何かの講義で聴いたことがあった_____のように安定性を欠いていた。
絶えず揺れ動く視界、その視界には一人の少女がいる。
照準の甘い監視モニタ、爆撃を食らったあとのメインフレームのように映像にノイズが走る。
もどかしくて舌打ちしたくなる。もっとはっきり姿を捕らえられないのか!
もどかしくてならないのに、フィルムは何度も何度も繰り返し再生される。フィルムの最後と最初のつなぎが微妙にずれていて、映像の中の少女はがくんと下がったあとゆっくりと上昇する。
(これは本当に夢なのだろうか)
それ以外ほとんど動かない被写体の少女(動くのは微震する視界だけだ)は両足を肩の幅に開いて立っている。
両腕は真直ぐこちらに伸ばされている。手は、小型の銃を握っていた。
「動くと、撃ちます」
少女の唇から紡がれる声。大人びた、低く凛とした声。どこか緊張している声。
風に煽られる白味を帯びた金色の髪。
見覚えのあるその髪、瞳。
青い瞳。
自分に銃を向けて立つ少女。
その髪に触れることができたら、こんなにもどかしい思いをすることもなかっただろう。
すぐにわかったはずだ。自分にならばわかることができたはずだった。
繰り返す画像。何度も同じ場面を見せつけてくる夢。
彼女の瞳の色も、髪も自分は知っている。同じものを、自分は持っているから。


アルテイシア‥‥


小休憩の合間に、サイドテーブルに頬杖をついたままうたた寝をしていたようだ。
コンパートメントの時計を見ても、休憩に入ったときから5分と経っていない。
任務の最中に居眠りなど今まで一度もしたことがなかったのだが。
そんなに疲れていただろうか…。
軽く息をついて瞳を閉じ、シャアは首を振った。いや、疲れているのだろう。
自分の指揮する艦から三人もの犠牲者を出してしまったのだ。戦闘ではなく、偵察を任務としていたにも関らず。
今はマスクが隠している目は、きっと疲れ落ちくぼんでいるに違いない。
(こんな顏色を部下に見られないで済むというのは、やはりありがたい)
自嘲の笑みを浮かべ、ふと壁に埋め込まれているモニタに目をやった。
ブリッジに直通しているフラットモニタに自分の姿が反射している。この部屋は音声接続のみに設定してあるから、こちらの様子はブリッジから見ることはできない。司令官になって唯一融通をきかせたのはこの自室だけだった。
シャアは己の表情を覆い隠すマスクを外した。
黒く沈黙している画面に己の素顔が映る。捨てた過去の象徴としての素顔だから、シャアは自分の顔の造形にはあまり興味がなかった。身だしなみを整えるとき以外には鏡も使わない。無論、この容姿を利用できるときは存分に利用するのだが。
(あの少女…)
夢の残像を捕らえようとして、シャアは画面に浮かぶ己の顔の向こうを探った。
夢に表れたのは、サイド7で出会った少女だった。
あの髪。あの瞳。
今の自分に残された手がかりは、己の記憶と不鮮明な夢の残像だけだ。
彼女の輪郭を思い描く。白い肌をしていた。
あの髪。あの瞳。
しっかりと前を向き私を見ていた青い瞳。気丈にも顎をあげ、それでもどこか儚げだった。
私の髪、私の瞳。
似ている。似ていると思える。
幼い日ずっと一緒だった妹に。父の、母の死を共に堪えた妹に。
たったひとりの妹。
私の背中に抱きついて笑っていた少女。彼女の柔らかい頬を覚えている。
私に向かって、なんの躊躇いもなく伸ばされた小さな手。
シャアはぎゅっと拳を握った。小さな手を握るように。
あのとき、触れていればよかったのに…!
砂を噛むような思いでシャアはさらに拳を握った。

君は、アルテイシアか…?

鮮烈な青。
鮮烈な青の中に、陰りを宿す青の瞳。
シャアは思う、なんと高貴な色だろうと。

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