北海道フリーきっぷ,グリーン車鉄道旅行-5〜北海道鉄道旅行記〜


■4日目(2)

小幌駅(室蘭本線)

小幌駅下りホームから上りホームと室蘭
方面を眺める。山中の谷、崖の途中に
あるような駅。
秘境、小幌駅
 トンネルを出て列車は小幌駅に停車した。北海道フリーきっぷ見せ降りようとすると、運転手さんが「ここで降りるの?」と珍しいそうに質問してくる。そうですと返事をした次に「ここで泊まるの?」と再び聞いてきた。こんな辺鄙過ぎて夜には不気味さが増す所に誰が泊まるものかと思い、手を横に振り「まさか」と反応してしまう。ホームに降りたら黄色いヘルメットを被った数人の保線員が並んでいて、私と入れ替わりに列車に乗った。

 列車が去ると、私はこの秘境駅に1人取り残されてしまった。周りには駅の四方を塞ごうとするかのように木々の葉が蒸すように茂る。「旅と鉄道`96夏号」で見た雪解け頃の写真ではもう少しさっぱりしている風景だったので凄い落差だ。下りホームの真後ろには急斜面が迫り、上りホームの背後には、海岸へ向けて急斜面が続く。ここに至る車道は無く、車の乗り入れは不可能だ。列車以外でここを出る手段は密林の斜面を登るか、海岸に降り泳ぎか船で離れるかだ。まるで人里離れた山の中のに迷い出てしまった気分になる。駅の周辺に人家は無く、2棟の保線員用の建物が見える。何でこんな所に駅があるんだと不思議だが、かつては人が住んでいたが、この地を離れたという。今は保線員やたまに釣り人や鉄道ファンが利用するだけだという。

 上りホームに立っていると保線員用の建物の扉が開く音が聞こえ、振り向くと20代の男性が顔を出してこちらを見ていて、不意を突かれビックリする。まさそんな所に人が居るとは思わなかった。どうもこの建物に泊まっている旅人らしい。旅人が保線員用建物に泊まることがあり、だから運転手さんが「泊まるの?」という奇妙な質問をしてきたのかもしれない。

 その人に海岸へ降りる道を聞き、教えてもらって方に進む。少し歩くと、生い茂る木々に隠された待合室か倉庫のようなものがあった。壁にはウニは取るななどの釣り人への注意事項が書かれている大きな看板が付いている。ここを素通りし、釣り人達が踏み固め出来た急坂の道を下り、海岸を目指す。木々を掻き分け急斜面で滑らないように慎重に進み海がどんどん近くなる。だが意外と時間が掛かりそうで、最終列車に乗り遅れ、本当にここに泊まらなければいけなくなりそうなので、途中で引き返した。

 もうすっかり暗くなり、不気味さが増し、駅の周りをうろうろするしかない。上の方を国道37号線が通り、かすかに車の走行音が聞こえる。踏切が閉まり、列車接近の自動アナウンスが静寂を破り、列車が通過する時だけは騒がしくなる。

小幌駅駅名標

小幌駅上りホームの駅名標。薄汚れ
ていて、足元が錆び落ち、針金で柵に
括りつけられていた。
小幌駅の数少ない建物、保線員用建物

保線員用の建物。その近くに待合室らしき
倉庫のような小屋が、下りホーム側に
保線員用の建物がある。これらが小幌駅
周辺にある建物の全て。
 間もなくスーパ北斗18号が通過するので、ホームの上で見届けようと上りホームに立つ。静かだった小幌駅に突然、風が音を立てながら吹きはじめ髪が乱される。その風は急激に嵐のように強くなり、スーパー北斗が通過したらまともに立っていられない程吹きつけ、思わずホームの柵をしっかり握り締めた。S北斗が通り過ぎた後も余韻のように風が残り、そして止んだ。その数分後に寝台特急カシオペアが銀色の車体を一閃させるように小幌駅を通過した時も、嵐のような風に襲われた。上手くは言えないが、高速で通過する上にトンネルを出るときの作用で嵐のような突風が発生するのだろう。子供が立っていたら本当に吹き飛ばされていただろう。

 19:07分に長万部行きの普通列車に乗り小幌駅を離れた。自分以外に乗る人も、もちろん降りる人も居ない。この列車が小幌に停車する最終列車で、後の上下で3本の普通列車は小幌駅を通過する

真夜中の函館でのひと時
 長万部から北斗20号に乗り21時45分に函館に到着。札幌行急行はまなすに乗るまでまだ4時間も夜の函館で過ごさなければいけない。以前なら23時30に出発する快速ミッドナイトが便利だったのだが不定期化され今日は運転されていない。

 まず風呂に入りに行こうと函館駅を出た。ほとんどの店がシャッターを降ろし人通も少なく寂しい夜の繁華街を黙々と足早に歩く。大通りを曲がり少し歩くと目的の函館温泉ホテルに到着した。函館の温泉といえば谷地頭と湯の川が有名だが、谷地頭は本日の営業が終了で湯の川は少し遠い。ここなら0時までやっているので有難い。のんびりと湯に浸かり、早起きして楓駅訪問、登川支線巡り、小幌駅訪問など今日のなかなかハードだった旅を振り帰りほっと一息ついた。

 そして湯から出ると函館駅には戻らず、べイエリア方面に向って歩く。ベイエリアは函館の有名観光地で賑わっているが、夜中の11時近くになると店はシャッターを閉め、人通りもほとんど無く静まり返っている。かえっている。だけど、いかすみソフトクリームなどユニークなメニューと変わった内装の函館の人気ハンバーガー屋のラッキーピエロが0時まで営業している。店内に入り、夕食を食べたにも関わらず、人気No1のチャイニーズチキンハンバーガーとコーラを注文して席に付く。店内には色々な雑誌などが置いてあり、中でも目を引くのが函館出身の有名バンドGLAYの記事を集めたスクラップファイルだ。かなり記事が溜まっていてファイルはズシリと重い。地元紙を中心に多くの記事が集められ、ファイルの重さと共に函館市民、道民のGLAYに対する愛着が感じられる。特別にGLAYが好きな訳ではなかったが、非常に興味深く読んだ。ハンバーガを食べ終わり、名物のイカスミソフトクリームを食べていると、店員がもう閉店時間ですと深々と頭をさげながら知らせてきた。

 深夜で誰もいないレンガ倉庫やお土産屋の前を通り函館駅に向って歩く。夜で時々車は通るが本当に人通りが無く、町は暗く静まりかえっている。ただコンビニの明かりだけが煌々としている。

■5日目(7/5)

函館1:43(急行はまなす代替バス)五稜郭1:55(急行はまなす)6:18札幌6:50
(120M)7:35南小樽…手宮線廃線跡…小樽11:45(快速エアポート)12:18札幌
15:20(特急スーパー北斗16)16:30東室蘭17:01(特急スーパー北斗13)17:48
南千歳17:52(快速エアポート172)17:56新千歳空港19:10(ANA714)20:45
名古屋空港

五稜郭で出発前の急行はまなす

函館駅が工事のため五稜郭に臨時
停車中の急行はまなす。出発直前
にパチリ!
急行はまなすの代行バスで五稜郭駅へ
 これから急行はまなすを一夜の宿とし札幌に向う。だけど、今日の急行はまなすは函館駅の構内改良工事のため函館駅には来ない。そのため、1つ手前の五稜郭に臨時停車し、函館-五稜郭間はバスで代行運転される事になっている。北斗20号で函館駅に着いた時、駅員さんに代行バスの時間ついて聞いたら、通常のはまなすと同じ1時43分出発で、少し早めに改札前に来てくれとのことだった。

 函館駅は深夜1時ということもあり、かなり人が少なくガランとしている。でも私の記憶では深夜の函館駅の待合室は乗客、駅寝の旅人、酔っ払いなどで雑多な賑わいを見せていた記憶があり余計寂しげに見える。はまなすの乗客は五稜郭駅に直接向っているのかもしれないし、旅人が多く集まる時期はまだなのだろう。函館駅は新築される事になっていて、私が今の姿を見るのはこれで最後だろう。昔を懐かしむ気持ちと、これでお別れだという気持ちが入り混じり、函館駅での時を過ごした。

 1時20分頃に札幌行き急行はまなすの乗客は集まってくれというアナウンスがあり、改札口に向った。数人の乗客が集まり駅員に案内され玄関を出ると、目の前に函館帝産バスの観光バスが止まっていて、車内に入り出発を待った。バス車内では列車のアナウンスのように、代行バスのアナウンスが繰返されている。徐々に人が集まってきて、席の半分弱が埋まり、予定通り1時43分に函館駅を離れた。

 初めはたった12分で五稜郭駅に着けるのかと思っていたが、深夜で空いている道をスイスイ走り、10分で五稜郭駅に着いた。降りた乗客は団体旅行の添乗員の後に付いて歩くように、係員の後を付いてい歩き、ホームに導かれた。もう急行はまなすは入線していた。写真を撮ろうとしたら駅員さんに早く乗って下さいと促され、デッキ部に乗り扉からカメラを一瞬出してシャッターを切った。

 4号車カーペットカーの車内は暗く、乗客の寝息が静かに響いている。指定された区画に入ると、早速布団を被って眠ろうとした。指定席料金で横になって寝れるのでかなりお得だが、すぐ隣りに人が寝ていて、ゴロゴロとこっちに転がってきたらいやだなぁなどとあれこれと気を揉む。だけどそんな事を考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。


急行はまなす、カーペットカー

急行はまなすカーペットカー。普通車
指定席料金でゆっくり横になって休める。
これもドラえもんカーでドラミちゃんの
シールが貼ってあった。
北海道フリーきっぷでは急行はまなすの
B寝台は利用できなく、普通車指定席
なら利用できるのでカーペットカー
での一夜となった。
281系気動車のスーパー北斗

東室蘭に入線する281系の特急「スーパー
北斗11号」。スーパー北斗には「スーパー
おおぞら」などで使われる283系気動車も
投入され、どちらに乗れるかは運次第。
スーパー北斗でグリーン車乗り納め
 小樽市内に残る手宮線廃線跡を見て、札幌に戻ってきた。初めは札幌の大通り公園やすすきのをぶらぶらしようと考えていたのだが、折角の「グリーン車用」だから、もう少しグリーン車に乗りたいという気持ちが湧いてきて予定を変更した。札幌駅のみどりの窓口で札幌→東室蘭→南千歳とスーパー北斗の2枚のグリーン券を取り、まだ出発まで時間があったので札幌駅地下街のパセオで昼食を食べたり、店を見たりして時を過ごした。念のため駅内にあるANAの自動チェックイン機で帰りの便の席の指定をした。

 今回の旅ではまだ281系のスーパー北斗には乗ってなく、281系に乗れることを期待していた。だが、15時16分発のスーパー北斗16号は残念ながら283系だった。でも千歳線や室蘭本線の直線区間を100km以上のスピードで飛ばす様は爽快で。落ち着いたデザインのグリーン車内は快適だ。ただ気になったのは、ふくらはぎを支えるレッグレストが電動式で扱いにくい上に、セットした位置から少しずり下がってしまうなど利用しづらかった。7/1に乗ったスーパーおおぞらに至っては不調で上がらなかった。たまたま2度とも外れくじを引いてしまったとか、私の扱いが悪かったも考えられるのだが、改善の余地はありそうだ。

 東室蘭で下車して30分待つと、ようやくお目当ての281系のスーパー北斗13号がやってきた。細かい違いを除けば、外観は283系と似ている。だがグリーン室に入ると明らかに283系とは違う。1-2の横3列の座席配置の途中2-1と変わるのは283系と同じだが、内装は283系の方が照明が控えめで落ち着き高級感がある。また281系は足元の壁の隅にカバーに覆われた排気管らしき物が通っていて、それが無い283系の方が僅かだが足元が広い。グリーン車の座席は、オホーツク、とかち、北斗など、183系気動車とほぼ同じものだった。
 
281系のグリーン車車内

スーパー北斗13号、281系グリーン車の車内。
シートは183系と同じもの。今回のグリーン車旅
の乗り納め。快適だが、発展型の283系はさらに
居住性がアップしてる。
 いつものようにツインクルレディが検札にやってきたが、いつもと様子が違い真っ直ぐ私を見る表情がやや硬い。私の切符を手に取り検札しているレディの後ろにもう1人のレディが立っている。前のレディの名札を見ると「実習中」の札がついている。なるほど、実習中で後ろに先輩レディが付き添い、仕事振りをチェックしているのだ。まだ実習から日が浅いのか「ドリンクはいかが致しましょうか?」と言う時も緊張が感じられる。新人ゆえマニュアル通りの硬さと緊張が感じられるが、真面目に仕事をこなそうとしている姿はとても好感が持て、いつの日か必ず一人前のツインクルレディになれる日が来る事だろう。その時はまた、この実習中レディの乗務する列車に乗り、再会を果たしてみたいものだ。

 南千歳に到着しツインクルレディに見送られながら、スーパー北斗を降りた。すぐ快速エアポートに乗換え、新千歳空港駅に到着した。これで今回の贅沢な鉄道旅行は終わった。切符はまだ2日間有効だが、5日間でJR北海道が誇る特急列車のグリーン車を堪能でき、金銭的に元を取れたのはもちろん、気分的にも満足感は大きかった。

 帰路の名古屋行きANA便機内で、到着前「只今の到着地の気温は34℃です」と放送された時、客室内は一斉にどよめきにも似た溜息に包まれた。もちろん私も非常にうんざりとした。名古屋空港に降り立ち外に出たら、爽やかな北海道からいきなりサウナに放り出されたような蒸し暑さで、全身から汗が滲み出てきた。

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