No。098
目立たないこと
2002.2.25

立ち食いそば、好きですか?
私は、よく食べます。
世の中には、立ち食いそば好きの方も、たくさんいらっしゃるようで、「食べ歩き」をして評価をするサイトも数多くあるみたい。
で、ちょっと見ていただきたいのが、この「立ち食いそば」。
ご存知ですか? たぶん知らないでしょう。
「六文そば処」といいます。東京の一部にしかないと思うんですが…。
この店、厳密には「イス席」もあるので、「立ち食いそば」ではないんですけどね。
写真の店は、東京の銀座にあるんですが、銀座といっても、はずれもはずれ、裏通りのような感じのところにあります。
で、まあ、ここのメニューが凄いんですよ。
ちょっと見てください。
どうです、このメニュー数。(^-^;)
「かき揚天そば」「春菊天そば」、まあこの辺は当たり前。
「海草そば」って、フツーは「ワカメそば」じゃねえの?
「紅しょうが天そば」なんて、もー吉野家が怒っちゃうよという感じ。
「メンチそば」「ソーセージそば」なんてのもあるから、そばに乗せられそうなものは、何でも乗っけてますね。
ちなみに、写真には写っていないんですけど、「ラーメン」もあります。
このメニュー数をですねぇ、昼時なんですけど、店員は何と「1人」だけで賄っております。
アジア系の女性がやってましたが、凄いっすね。(^-^;)(感心)
で
、この店、メニュー数の多さといい、店構えの汚さかげんといい、「ドンキホーテ」っぽくないですか?
東京には、「小諸そば」とか、「富士そば」とか、割とこぎれいなチェーン店もあるんですけど、チョー対極にあるといっていい感じの店。
ちなみに、味は…、店構え通りの味です。(^-^;)
期待しないでください。
値段通りの店です。
麺も「蒸し麺」ですしね。
「手打ち麺」もあるみたいなんですけど、はたして…。
カレーは、当然レトルトを、ジャーっと出すだけですし。
いかん、このままじゃ、単なる食べ歩きになってしまう。
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それでですね、実は、かつてこの店のすぐそばの飲み屋に、よく行っていたんですけど、「こんな店でもつぶれないもんだな〜」と想いながら横目で眺めていたんです。
すると、ある日、新橋の西新橋に、この店を発見。
そう、六文そばの「新しい店」なんですよ。
たぶんできて半年以内のはず。
実は、ここは昔「たつ屋」という牛丼、カツ丼、天丼、などなど「丼チェーン」だったところです。
何で、こんなことを知っているのかというと、十数年前、このすぐ近くに、会社のビルがあったんですね。
そのビルは、すでにどこかの会社に売ってしまって、建て替えられてしまいましたけど。
私にとっては、「昔あった店がなくなっていた」ということ以上に、それが「六文そば」になっているということが衝撃でした。
「この店、新店展開してたんか〜」という感じ。
死火山だと思っていたら、実は活火山でしたという感じ。
だって、あの銀座の店を見れば分かるとおり、誰がどう見ても、「1つの場所だけで、ずーっとやっている小さな店」とばかり思いませんか?
それが、ある日突然、別な場所に、小綺麗な店を出している。
うーん、これはショックです。
でも、写真の通り、看板は少しキレイですけど、メニューなどの感じは、全然変わらない。(^-^;)
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で、この「六文そば」のことを、あれこれ調べようと、ネットで検索したんですけど、これがですね、全然サイトに引っかからないんですよ。
引っかかるのは、個人の「立ち食いそば紀行」で、食べに行った方が、書いた感想ばかり。
店舗はどうやら、6店くらいはありそうということまでは、確認できました。
(日本橋とか、中延という場所にもあるみたい)
でも、店の名前は、「六文そば処」だったり、「六文そば」だったり、結構いいかげん。
肝心なことは何も分からないまま。
今時、ホームページを持たない会社ということしか、分かりませんでした。
まあ、どういうポリシーで経営しているのか分からないままなので、ここからは、私の独断になってしまいます(いつもながら)。
ところで、この「六文そば処」って、店が風景に溶け込んでませんか?
そう、つい最近出来たのはわかるんですけど、何かもう10年くらいずっとやっていそうな感じがしません?
うーん、私の気のせいでしょうか…。
「おまえの気のせいだ」って言われると、これ以上、話が続かないんですけど。
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その根拠として言いたいのは、まずこの看板の「書体」。
まさかこれ、グラフィックデザイナーがデザインしたとは思えませんよね。
下手したら、「オーナーの直筆です」みたいなことでも言いそうな感じ。
普段、何もかも、きっちりしたデザインを見慣れているから、こういう「アナログ」っぽい感じの看板を見ると、どこか「懐かしい」という気もします。
さらに、メニューをダラダラ並べただけの看板も、プロの評価としては最低でしょう。
何も考えずに、店で出すメニューをすべて並べただけ…。
でも、どこか「安心」することもありませんか。
こんな店が、「流行する」なんてことは絶対にないと思います。
少なくとも東京では。
大阪の地下街あたりには、ありそうですけどね。
まあ、東京では、こんな店が雑誌に取り上げられることもないだろうし、OLや女子大生が、行列を作るなんてこともないでしょう。
そもそも、女性は入りにくいだろうな〜。
吉野家で女性が食べていることは、全然珍しくなくなった今でも、この「六文そば」には躊躇するでしょう。
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看板の「色」も、今時珍しく主張がない「黄色」。
しかもちょっと「レモン色」っぽい、薄目の黄色。
今時ないだろ〜、こんな色。
「toto」だって、もっと濃い色だし。
「赤」とか「オレンジ」だと、ちょっと遠くからでも、その店があることが分かります。
「暖色系」は、食欲をそそる色らしいですから、飲食店関係にオレンジや赤の看板は多い。
この辺が、やっぱり代表格でしょうか。
町中で数ある看板の中でも、この辺の店は「かなり強く主張」してますよね。
「オレはここにいるぞ」って感じで。
まあ看板の役割は、「お客さんに場所を知らせること」なのだから、目立って当たり前なんでしょうけど。
でも、みんながみんな主張ばっかりしていると、「うざったい」感じもしてきます。
主張者が多すぎると、かえって全員埋没してしまうような感じまでしてくる。
それに引き換え、六文そばの「黄色に筆文字」はどうです。
全然目立たないですよね。
暗くなると、ネオンで少し光りますが、まあそんなにドギツイわけではない。
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こういう「昔懐かしい感じ」の店って、どうなんでしょうか。
経営的には、新店オープンの初期効果は、あまり見込めないけど、長い目で見ると、ブームに流されずに、堅実な経営が出来るのではないでしょうか。
「味がおいしい」とか、最低条件はあるんでしょうけど、やたらと新しい調度品で、店をピカピカにするのも、どうなんでしょうね。
新規のお客様に、かえって「かまえさせてしまう感じ」がします。
その点、この「六文そば」に入ろうとするときに、かまえる人はいないでしょう。
もっとも、別の意味で「かまえる」でしょうけど。
「味は大丈夫なんだろうな…」ということで。
古い家具や建材を使ったり、オープンすぐから、「どこか懐かしい感じ」を出す。
最近、流行の「大人向け居酒屋」でも、そんなところも増えてきているようです。
新しいモノを作ろうとすると、どうしても「最新のもの」ばかり取り入れがち。
看板などの店舗デザインも、基本的には「目立つ」ように考えるはず。
でも、「あえて目立たないというのも大切なのかな」ということを、この「六文そば」を見て考えた次第です。
あ、もっとも、この「六文そば」は、たぶんそんなこと何も考えないで、作ったと思うんですよ。
六文そばは、あくまでも考えるきっかけになっただけです。
でも、もしも考えてやっているのなら、凄いよな…。
でも、考えてないよな〜。

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で、最後にですね。
この「オープンしてすぐ街に溶け込む店舗デザイン」は、やっぱりこの店になるのかなという結論なんですよ。
何でもかんでも、こういうところに結論を持っていくのも何だなと思うんですけど、でもやっぱりこの店は計算されてますよ。
この看板の「緑」が、仮に「オレンジ」だったら、皆さんどう思いますか?
それでも、買いに行きますか?