No。046
毎日骨太に見るブランド再構築の道
2001.4.2
by Y.Tomizawa

こいつはマルエツで買いました雪印の「毎日骨太」が、「毎日骨太MBP」となっています。
毎日骨太」といえば、ここ数年のマーケティング業界の中では、ブランド資産構築の典型例として語られてきた商品です。
でも、ご存知のような事件で、商品そのものが店頭から消えていました。
私自身、「なぜか買ってしまっていた商品のひとつ」だったので、買えなくなってしまったことは非常に残念でした。

でも、頑張って復活させようとしていますね。その復活劇(の途中)の裏側を考えてみたいと思います。

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「毎日骨太」は、たかが『牛乳』をブランド化したという意味で、極めてエポックメーキングな商品だったと思います。
同じようなケースでは、たかが「水」から、「evian」や「volvic」などの「ミネラルウォーター」へとブランド化させた例もあるのでしょうが、あれは、ちょっとブームのような感じもあった気がします。
一企業が企業努力で、「たかが」と思われている商品をブランド化させたことは、本当にどエライことだと思います。

牛乳から始まり、展開の順序は不明ですが、ヨーグルト、チーズなど、まさに「ブランドエクステンション」をしていき、乳製品分野で確固たるブランドを築いていった。
それまで、乳製品のブランドといえば、(私の主観としては)せいぜい「農協牛乳」くらいの感じで、いずれも「雪印牛乳」とか、それこそ「オハヨー牛乳」。私は神奈川県なんで、「タカナシ牛乳」とか「近藤牛乳」(中学校時の給食用牛乳でした・・・)くらいでした。
要するに、「メーカー名ブランド」というブランドとしては非常にプリミティブな段階のマーケットだったはずです。
これは、要するに、「スーパードライ発売前のビール市場」と同じだったのでは?
ビールといえば、「ラガー」ではなくて、「キリン」であった時代。
それが、まさにスーパードライのように、「毎日骨太」がそれまで「ブランド」という発想すらなかった「牛乳市場」を、見事に変えてしまった。

牛乳は、「鮮度感」が重要だと思いますので、ナショナルブランドといっても、売るのは意外と難しいはずです。
誰でも、北海道で作られて、遠距離を運ばれてきた牛乳より、自宅近くの牧場で作られた牛乳の方が、おいしく感じるでしょうから。
だから、それこそ雪印をはじめ、森永などの大手乳業メーカーも、「企業名ブランドの商品」しか発売していなかった。
いや発売しようとも思っていなかったのではないでしょうか。
今、明治が「牛のお乳のカルシウム」で似たようなことをやっていますが、雪印の方も、きっと苦々しい想いで見ていらっしゃることでしょう。

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雪印のサイトを見ると、「毎日骨太はカルシウム強化から、カルシウム・MBP強化へと進化しました」と書いてあります。
これはやっぱり、そうせざるを得なかったのでしょうか?
乳製品のイメージを、自ら決定的なまでに損ねてしまったからには、「過去と同じベネフィット」ではダメだったのでしょうか。

MBPとは、「ミルク・ベーシック・プロテイン」の略のようです。牛乳や母乳に含まれる微量タンパク質だそうで・・・。わかりにくいですよね、これ。
たしかに、カルシウムだけよりも、もっと健康によいのだ、ということを言いたいのは分かりますが、ここまで言われてしまうと、「別に牛乳で、そこまで健康になろうとは思わない」とひねくれて考えてしまいます。

だいたい、それまで「毎日骨太」と「漢字」で攻めてきたのに、どうして訳の分からない、後付の論理っぽいアルファベット(MBP)をつけてしまったのでしょうか。
「健康を少し回復」したいという人が飲むものなのに、しかもビタミン剤などではない飲み物を求めているのに、どうして「怪しげなビタミン剤っぽい雰囲気の言葉」をつけてしまったのでしょうか。極めて疑問です。
売上回復のために、商品のイメージを変えるためにも、訴求ポイントをプラスする意義は分かりますが、ここまでMBPを前面に押し出す必要はなかったと思います。
もし、毎日骨太ブランドがこのまま沈んでいってしまうとしたら、私は、この「MBP」をつけ、さらに前面に出してしまったことが、失敗の主因となると思います。

仮に、私が毎日骨太の担当者であったら、ここはグッと堪えて、基本的には今まで通り売っていく道を選ぶと思います。
たしかに、ひどい事件ではありましたが、毎日骨太自体には、結果的に毒素やらが混入していたわけでもなく、他商品との兼ね合いもあって、販売自粛や店頭から消えていただけでした。
そう、商品自体の機能性や、そのブランド価値が根本的に否定されたわけではないのです。
毎日骨太ブランド派だった私の判断としては、別に「雪印だから買っていたわけではない」ので、むしろ「ブランド名(毎日骨太)を大きく書く」などして、ブランドを前面に出し、企業名を少し控えめにするなどにします(まあ、これはこれで、「やっぱ会社名を出すのは恥ずかしいか」と言われそうですが・・・)。
※ただ、雪印の担当者レベルの思惑は、ひょっとして私と同じだったのでしょうか。でも、最近は「流通の意向」に逆らうことはできません。もしそうだったら哀しいことですね。

ブランド資産構築の大成功事例から、ブランド没落の最悪事例となってしまうのか。
はたまた、奇跡の復活をとげるのか。
どういうことになるのか、行く末を見つめたいですが、かなり厳しいだろうなというのが、今の予想です。

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ちなみに、このコラムに使う商品を買おうと思って、セブンイレブンに買いに行ったんですけど、置いてありませんでした。
前は、あんなにいっぱい売っていたのに。
(どうです、今回はマジメでしょ、久々に)