No。027
やられて初めて気付くこと
2000.4.12
この前、床屋に行って来ました。
私、髪型にはあまりこだわっていないので、1900円で、洗髪までしてくれるオヤジ好みの床屋です。
席が10席ほどあり、髪を切ってくれる人も常時5人は待機している、大型店です。
もう4〜5年、そこの床屋に通っているのですが、安い反面、腕がちょっと怪しい感じの人もいて、「危なっかしいな・・・」と思ったこともあったのですが、まあ、「安いからいいか」ということで、ずっと通っていました。
で、この前に行ったときに、私の担当となった人が、その怪しい感じの人もいる店の中でも、群を抜いて怪しい人でした。
何しろ、髪切り職人は、オヤジ・オバサンしかいない中で、年齢だけは、店にふさわしい40代中盤っぽい感じなのですが、髪が「金髪(!)」。
いや、金髪が悪いわけではありません。ただ、店の雰囲気になじんでいないというか、明らかに浮いている。
(実際、レジをやっている若い兄ちゃんは、もちろん茶髪ですが、別に違和感はありません)。
なんていうんですかね、一人だけ「周りが見えていない」というんでしょうか。
そういう雰囲気を醸し出していたんですよ。
いやーな感じがしました。
でも、席につかざるを得ないですね、そういう床屋だと。
カリスマ美容師みたいに、指名でもできればいいのでしょうが、所詮1900円の店ですから。
でまあ、席に座って、普段通り、どのくらいの長さにして欲しいか注文を言って、差し当たって何事もなくスタートしたんです。
ところが・・・。
男の散髪だと、まず、おおまかに髪を切りそろえて行くんですね。
で、半分くらい切った時に、ハサミの調子が悪くなったのか、私を途中でほったらかして、店の事務室みたいなところに入ってしまって、(たぶん)ハサミのネジに当たるところをトンカンやっています(音が聞こえてきた)。
それはいいですよ。別に修理するくらいは。
しかし、「お客さん、ちょっと待ってね」の一言もないのには、むっとしていました。
私は半ば呆然としながらも、「まあ、やむなし。変な風に切られるよりはマシ」と前向きに考えていました。
で、3分くらい待ったでしょうか。
戻ってきて、やおら切り始めました、もちろん「お待たせしました」の一言もなく。
まあ、いいっすよ。
所詮、1900円の店だから、別に高付加価値のサービスなど期待しません。
でも、私のマジギレ第1弾がやってきました。
それは、「やたらと髪の毛を強く引っ張る」んですね。
まあ、この方が、髪の毛の健康にいいと言われりゃそれまでですが、もう痛いくらいに引っ張る。
で、「ジョキッ」と切る。
これ、イヤ〜な感じがするものですよ。
ここで私は、思いました。
かつて、「このオバハンはヘタクソだ」と思った人でも、髪の毛を触るタッチなど、気になったことは一度もなかった。
そう、確かにテクは下手な人でも、実はちゃんと客の気に障ることのないように、髪をデリケートに触っていたということに気付いたのです。
で、さらに、完全にブチギレたのが、髪を洗ってもらっている時です。
男の床屋の洗髪は、だいたい前にかがんでやるんですね。
で、そうやっていたんですが、これがなんて言うんですか、そのヘタオヤジの「指」が、やたらと私の目に当たるんです。
私は、コンタクトをしているんで、それでなくても、普段から、他人に目だけは触って欲しくないと思っているんです。
なのに、この無神経オヤジは、髪を洗うことに夢中になって、客の眉やら目に「手が触れている」ことなど、全く気付いていないようす。
無骨なオヤジの指ですよ、そりゃー気持ち悪いもんです。
いや、普段やってくれる人の、腕の確かさに対するありがたみが、本当によくわかりました。
で、ついに私が、生まれて初めて、床屋でブチ切れることとなりました。
そんなオヤジですから、洗髪が終わり、濡れた髪から、顔を拭いてもらう時に、私はもう心の準備をしていました。
心の準備をしていたのだから、ブチギレとはいいにくいものもありますが、いずれにしてもキレました。
それは、顔の拭き方が、そりゃーもう乱暴なこと。
「ちょっと待ってくれアンタ」
私はついに言いました。
それ以降、終わるまで、恐ろしく憮然とした表情を作っていたこともあり、さすがに腫れ物に触る想いで、オヤジもやっていた様子がありありでしたが、それなら最初からやれっつーの。
で、私が言いたいのは、この床屋に対する苦情ではないんです。
表題にもあるように、普段、我々が「何気なくやっている仕事」の中にも、「それをやられて(やられないで)初めて、その事の重大さに気付くこと」ってあるような気がします。
例えば、今は、人事異動のシーズンでもありますので、担当者の変更に伴って、引継ぎをすることもあるでしょう。
そういう時に、前任者が「当たり前にやっていたこと」まできちんと引き継がないと、思わぬところでお客様の不満を生じさせることもありえます。
ただ、難しいのは、その「当たり前の行動」自体が、完全にパターン化されてしまっているため、「具体的に説明しにくい」と思うんです。
ちょっと飛躍しすぎかもしれませんが、長嶋茂雄にバッティング理論を説明させるのと同じくらい難しいことだと思います。
こう考えてくると、自分が普段何気なくやっている仕事も、たまにはじっくりと「どういう手順でやっているのか」を考えてみるのもよいでしょう。
意外と思い出すことすら難しかったりするかも知れません。
結局、「ナレッジ・マネジメント」って、こういうの積み重ねだと思うんですよ。
普段何気なくやっていること(=暗黙知)を、パターン化(=形式知)するということ。
体に染みついた動作を、いちいちパターン化することって、想像以上に難しいことです。
でも、これを忘れる(無神経オヤジのような)社員が出現してしまうと、お客様の評判は一気に下がることになりかねません。
私も気をつけなくては。