名鉄小牧線途中下車の旅〜ローカル線型都市近郊線を行く(1)


名鉄小牧線と上飯田連絡線
 小牧線は名古屋北部の上飯田と犬山を結ぶ20.5kmの名鉄の路線だ。この路線の特異な所は、名古屋市北部の上飯田でレールが尽き、中心部を目前に行き止まりの盲腸線となっている点だ。そのため200万都市の名古屋と周辺都市を結ぶ都市型の路線でありながら不便で、ローカル線色の強い路線でもある。

 もし小牧線の上飯田駅から名古屋中心部に行くならば、バスか徒歩で約1km先の地下鉄名城線平安通駅まで行くか、バスで名古屋市中心部に入る方法がある。しかし、平安通駅までバスに乗るとしてら、たった1kmで200円は惜しく、バスは道路事情に左右され定時性に不安が付きまとう。そのためか、15分も歩き平安通駅に行き、地下鉄に乗換える人がほとんどだ。小牧線の北半分から名古屋に行く場合は、犬山駅まで行き、犬山線を経由する人々も多く、また、小牧駅から都市高速を通り、中心街の栄等を経由し、名古屋駅側の名鉄バスセンターに至るバス便もあり、小牧線の不便さを物語っていると言えそうだ。

 私は一度だけ小牧線の朝ラッシュに遭遇した事がある。上飯田駅で下車した大勢の小牧線の乗客が、狭い歩道を埋め尽くすように、揃って平安通駅に向ってぞろぞろと歩く様は圧巻で、先を急ぐ大名行列、或いは行軍を見ているかのようだった。朝程ではないが、それ以外の時間帯でも、両駅間を早足で歩く人の姿はよく見かける。

 以前は名古屋市電が上飯田まで伸び、鉄道との連絡はなされていたが、1971年(昭和46)年に廃止されると名古屋市側が盲腸線となり、上飯田駅は他の鉄道からは孤立状態になってしまった。その後、上飯田-金山の地下鉄路線を建設する計画もあったが、結局、実現しないまま、沿線住人は不便を強いられ続けた。

 だが、そんな状況を変えるべく、1994年(平成6)年に第3セクター「上飯田連絡線」が設立され、小牧線の味鋺-地下鉄名城線平安通駅の地下区間の新線建設が決定した。小牧市など沿線自治体、沿線住民には待ちに待った他の鉄道との連絡だった。1996(平成8)年から着工が始まり、2000年度開通予定だったが、少し延び、2003年3月の開業を目指し、工事が続けられている。

 上飯田連絡線は小牧線と相互乗り入れを行う。運行の関係がやや複雑で、上飯田連絡線は第三種鉄道事業者だ。新規路線となる平安通駅-上飯田駅間は名古屋市交通局が、既存の小牧線からの路線変更となる上飯田駅-味鋺駅は名鉄がそれぞれ第2種鉄道事業者として運営する(注釈)。また、上飯田連絡線の将来像として、平安通駅から更に都心に延長する構想もがあるが、こちらは着工予定が無く、まだかなり先の事になりそうだ。

 私は一時期、仕事で小牧線の沿線に通った事がある。その度に、平安通駅-上飯田駅間の約1kmを往復し、時間の無駄、余計な疲労と感じうんざりしていた。逆にそんな思い出のため、小牧線には愛着があり、動向はやはり気になる。廃止になる上飯田-味鋺間と共に、現在の小牧線の様子を改めて見に行きたいと思っていた。

上飯田線開業を控えた平安通-上飯田を歩く
 地下鉄名城線に乗り、小牧線の接続駅、平安通り駅で下車する。小牧線のレールが上飯田で尽きている現在、乗換駅は1kmも離れた平安通駅となっている。上飯田連絡線開通時には、名城線との乗換え駅、上飯田連絡線の始発駅となり、工事の最中だ。名城線の駅は古びていて、暗い感じの駅が多いが、平安通駅は工事のため駅はリニューアルされつつあり、開業したばかりの地下駅を思わせる、かすかなコンクリート臭が漂う。ホームの壁には名城線のイメージカラーの紫のラインが入っていたり、壁の所々に上飯田連絡線のイメージカラーと思われる濃いめのピンクの色の模様が入っていたりする。

 地上に出ると、平安通-上飯田間の2車線の道路も上飯田連絡線工事の関係で、工事用フェンスが路上を占拠して車線が狭くなっていて、フェンスの内側は所々、土を露わにしている。ここから約15分、まっすぐ北に歩くと上飯田駅だ。

 歩道の沿いには、スーパーや商店、飲食店、DPEショップなど庶民的な店が多く、乗り換えるついでに気軽に買い物を済ませる事も出来き、つい立ち寄りたくなるたこ焼き屋もある。たぶん、店主達にとってもそのような客は主要な顧客なのだろう。だけど、上飯田連絡線が開通すると素通りされてしまい、この地域の経済に影響を及ぼしかねないのではと気になる。先程から、何人もの早足の人と擦れ違う。上飯田駅に列車が着いたようだ。
 
名鉄小牧線、上飯田連絡線用300系

矢田川の橋梁を渡り犬山を目指す。
小牧線300系電車。この場所を含む
味鋺-上飯田間の地上区間は上飯田
連絡線の開通で廃止される。
 延々と工事のフェンスを眺めるように歩き、上飯田駅に着いた。初夏の日差しの中、15分も歩きすっかり汗ばんでしまった。いつも利用している人は乗換えのため、毎日これを繰返しているのだから大変で、夏冬の季節は特に答えるだろう。そのような人達にとって上飯田連絡線の開業がいかに待ち遠しいか体感した気分だ。

 上飯田駅は名鉄系のスーパーや公団と同居している割と大きな建物だ。駅周辺も工事中で、シートに覆われた上飯田連絡線の出入口が数ヶ所に出現している。上飯田駅の中に入るのは後にして、矢田川の小牧線橋梁に向かい列車を眺める事にした。上飯田連絡線が開通すると、この鉄橋を始め、従来の上飯田-味鋺間は廃止となる。

新鋭300系電車で行く
 上飯田駅に向った。上飯田駅の駅ビルは公団、名鉄系のスーパーマーケットの名鉄パレなどのと同居している。通りに面した階段で2階に上り左に曲がると、片隅に出札口など駅の設備がコンパクトにまとまっている。

 自動改札を通るとビルから突き出るように、屋根付のホームが伸びている。4両分の小振りな島岸ホームで、片方には新鋭の300系が昼寝をしている。住宅の3階位の高さの築堤上にホームがあり、辺りを見下ろすと、以外に高く、城壁か急な崖の上に立っている気分がする。そして、駅からは城壁のように、単線の小牧線の築堤が街を分け北に延びている。

 300系は上飯田連絡線用に製造され、今年の4月から暫定的に投入されている。真っ赤な車両のが多い名鉄にあって、ステンレスの銀色のボディーにピンク帯のデザインは斬新だ。ピンク帯の下に名鉄のコーポレートカラーの赤いラインが入り、自己主張も忘れていない。ただ、黒っぽい色のUVカットガラスを使用した窓が少々変な感じがする。

 もう1つ面白い点が、転換クロスシートかロングシートが混在していて、扉と扉の間がどちらかのタイプのシートだという事だ。暇潰しに昼寝中の300系を外から見ると、1.4号車は1区画分が、2.3号車は2区画分が転換クロスシートとなっている。閑散時の座席数とシートの快適性と、混雑時のスペース確保のための工夫が見られる。小牧線は今までクロスシート車が多く投入されていて、上飯田連絡線開通時にどんな座席配置の車両が投入されるか気になっていたが、クロスシート車も残され、鉄道ファン的な視点からは嬉しい。相互乗り入れする、名古屋市交通局側も上飯田連絡線用車両を用意するとの事で、どんな車両か今から楽しみだ。

 小牧方から300系が入線してきて、折り返し犬山行きとなる。もちろんクロスシートに陣取った。ピンク色の捕まり棒が何本もあり、紫にピンクの模様が入った模様のモケットで車内は華やかなデザインだ。ただ、例のUVカットガラスのせいで、眺めは最悪でないにしろ、緑がかった車窓になり変な感じがする。

 平日の午前の時間帯という事もあり、空席を多く残したまま犬山に向けて出発した。上飯田の住宅地を見下ろしながら単線の築堤を走り、矢田川、庄内川と2本の川を越えた。そして、上飯田連絡線の工事現場を見ながら、最初の駅の味鋺(あじま)駅に着いた。単線上にある1面1線の駅で、駅の真横が上飯田線の地下部分の入り口だ。まだレールは敷かれていないが、かなり完成が近付き、トンネルが列車を待っているかのように2つの口を開けている。駅の北側では上飯田線乗り入れ時に開業する味鋺駅の新駅舎が建築中で、ホームや屋根の一部が既に現れている。味鋺駅を出て、信号所を通ると、複線となりコンクリート枕木が使われた現代的な道床へと変化する。

 小牧線の列車は春日井市入り、次の味美駅に着いた。この駅は名古屋空港の着陸路上にあり、民間航空機や自衛隊機が間近で見られる事で有名だ。しばし、飛行機ウォッチングを楽しもうと下車する。ホーム先端に向っていると早速、日本エアシステムのMD-90が接近して、轟音と共にホームを覆い影を作り、一瞬で飛び去って行った。機体の細部まで見られる迫力ある距離感で、機体カラーをデザインした映画監督、故黒澤明氏のサイン「Kurosawa」さえはっきりと見えた。しばらくこの駅で飛行機ウォッチングを楽しんだが、飛行機が味美駅をかすめる度に少し驚いていた。でも、よくこの味美駅を利用している人にしてみれば、もう慣れっこで驚きもしない光景なのだろう。

 再び犬山行きの列車に乗って先を目指す。徐々に畑や工場が目立つ郊外風の風景になっていき、春日井駅に停車した。JR中央西線の春日井駅とは名前が同じで、同じ春日井市内にあるが、5.6kmも離れた全く別の駅で、小牧線の方は市の端の豊山町に近い所にある。市名を冠する駅で大きな駅のように見えるが、駅舎さえ無い無人駅だ。上りホームの横は畑で、一等地に思える駅前には古びた廃商店が2店もあり、鄙びたローカル線の風情が漂う。駅に降り立つと、ここでも航空機の音でかなりうるさい。跨線橋の上からふと周りを見てみると、西側の建物の間の数百メートル先には、名古屋空港国際線ターミナルビルが小さく見え、味美駅をかすめた航空機が着陸している様子も見える。

 列車は春日井を出て、近年複線化された区間を行く。空港に近いためか、小牧線の不便さゆえか、都市圏の路線の沿線風景にしては、先程と同じように倉庫、空畑、空地など多く、郊外に行く列車は乗客も増えない。

 牛山駅を出て、間内車庫建設予定地の空地横を通り過ぎると、間内駅に到着した。間内駅では駅横に建っている鎧姿の戦国武将の像が目立ち、以前から気になっていた。この戦国武将は浅井長政で、像が建つ付近には「浅井氏宅跡」の碑も立つ。浅井長政と言えば、北近江、小谷城(現滋賀県)を拠点とし、姉川の戦いで織田信長に敗れ自害した武将で、この地とは縁もゆかりも無いように思える。だが、石碑には浅井長政の側室、八重の方が長政自害後、息子の七郎君を連れ美濃の地に移った後、この地に落ち着き、没するまでここで暮らしたという。そして、七郎君の子孫が代々、間内駅横のこの地に住んでいたという。だから全く関係が無いという事は無い訳だ。

 この時間の小牧線は20分間隔の運転で、駅で下車しちょっと周辺を見るにはちょうどいい間隔で、浅井長政像の周辺や駅舎を見ていると、もう次の列車の時間となった。次の列車もやはり300系だった。だが昼間の閑散時間帯で、4両編成の列車は空席が目立ち、窓から差し込む日差しが、真新しいクロスシート席を虚しく暖めている。

 開発途上の空地が目立つ辺りを走るが、前方の小牧方にマンションなどが見え始め、市街地に近付いている事を感じさせる。地下駅の小牧駅へのアプローチにコンクリートの掘割を下り、トンネル入り口直前の小牧口駅に停車した。古びていて、汚れが染み付き、どこか退廃的なムードが漂う。
名鉄小牧線、上飯田駅

上飯田駅のホームと駅ビル。駅ビル
には名鉄系のスーパー、公団も同居する。
名鉄300系電車車内

上飯田連絡線用に投入された名鉄300系
が暫定的に投入されている。車内は
転換クロスシートとロングシートが混在。
味鋺駅の上飯田連絡線工事現場

味鋺駅脇の上飯田連絡線トンネル
出入口の工事現場。この北側では
味鋺駅の建設工事中。
味美駅

名古屋空港に着陸直前の航空機が
味美駅(あじよし)の真上をかすめる。
名鉄小牧線の春日井駅

名鉄小牧線の春日井駅。中央西線の
春日井駅とは6、7km程離れている。
間内駅に建つ戦国武将、浅井長政の像

間内駅。織田信長に滅ぼされた
戦国武将の浅井長政の像が建つ。

注釈
第2種鉄道事業者
 他社の鉄道路線を借りて、鉄道輸送を行う事業。
第3種鉄道事業者
 第2種鉄道事業に鉄道路線を貸し使用料を取る、または鉄道を敷設し、
 第1種鉄道事業者に譲渡する事業。自社では鉄道輸送は行わない。
第1種鉄道事業者
 自社の鉄道路線で、自社で鉄道輸送を行う事業。 ▲本文「(注釈)」の直後へ戻る


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