――――…そうだ。おれはきっと、自分が小説を書いている必然性を求めるのと同じ重さで…もしかしたら、それ以上の想いで、火村が何に捕らわれているのかを知ろうとしていたのかもしれない。 ――――それだけが凡てでは無いけれど、それが在るからこそ、前に進む事が出来るんや。そんな簡単な事を、おれは見逃していたのかもしれない。 ――――似ている様で余りにも違い過ぎる世界に住む、火村を好きになって、その想いの量が増えるに従って、おれは身動きがとれんようになっていた。束縛されているわけではない。ただ、自分から動こうとしなくなっただけ。居心地の良さに安堵して、それでも不可解に膨らむ不安を持て余して、結局は、この場所にいたいと願ったのは、おれの勝手やったんや。 ――――愛している人間から得ようとする情への欲求には、キリが無い。どれだけそれを注がれても、もっと欲しくなる。更に足りなくなる。だから、際限なく求めるだけや。それだけでは生きていけないけれど、それが無ければ生きてはいけない。火村から得る情というものは、おれにとって、やっぱりそういうものなんや。 ――――ならば、おれは火村に何をしてやればいいんやろう。 ――――望まれなくても、火村が依存するその世界から離れずに、君がどうにかなってしまうのを止めてやるくらいの事しか……。いや、多分、そんな事すら出来ないんやろうな。君が拘る…赦さない何かと向き合っている間、君の傍にいてやるだけや。 ――――そしておれは、おれがしなければならない事を…おれがしたいと望む事をしていくだけや。 ――――君がそこから逃げへんのなら、おれもそれを止めはしない。 ――――満たされていくと云ったのは、多分錯覚や。そうや…愛が錯覚なのではなく、生きている人間が完全に満たされる事があるなんて思っていたその思い込みこそが錯覚やったんや。 ――――この先だって、君はきっと変わらない。おれが傍に居ようが居まいが、何時だって何かに追われる様に犯罪者を狩っていくんや。 ――――それでおれは、そんな君を観つづける。ある種、そんな君の傍観者を気取ってるんやろう。それでええのかもしれん。 ――――君に触れて、おれの欠落感は薄らいだ。…けれど、それはきっと、〃完全〃にはならないそれなんや。ずっと何かが足りなくて、ずっと餓えていて、おれはそんな欠落感を埋める為に、半永久的に…多分死ぬまで…小説を書き続けていくんや。 ――――君が傍にいる。それに満たされ、安堵しながら、反対側が削れていくんや。人間がこの世に存在する以上、永遠に消えへん犯罪と同じように。幾人もの許されざる犯罪者を狩り続けてもそれを止めようとはしない君を観つづけている限り。君の傍観者を気取っている限り。 ――――おれの欠落感は君に満たされながら削られていくんや。 ――――そういうのが…おれの愛し方やと思う。 ――――君とおれにしか出来へん事。 ――――君とおれで無ければならない理由。 ……大した覚悟だな、アリス。本当にそれで良いのかよ。 ――――良いも悪いも……。このクスリのように習慣性が無いものならその場だけで逃げられたかもしれへんけど……。 ―――――君は性質の悪いドラッグよりも厄介なんや。君が無くなったら、おれは苦しむ。君がおらへんと……、 ――――君かて、きっとそうやろう……? → BACK to INDEX → NEXT → BACK |