キレイ事を並べ立てているクセに、人間だけだぜ。おぞましいまでに雑食で、様々な生き物を食い散らかし、そのくせ、自分達に刃を向けるものを獣と蔑みそれを排除しようとする。それを正義だと云って憚らない。人間だけが、生き物が護り続けている食物連鎖を無視して生き続けている。 殺戮が人の歴史だ。欲しいものを奪い己を満たし生きて行く。そう云った因子を、二重に絡まり合うスパイラルの中に埋め込んでいるんだ。 ――――殺戮の遺伝子……か。 そうさ、殺戮の遺伝子だ。 それが、人間の作りだ。 だから犯罪は尽きない。 愛から殺しが生じるのも、当然な成り行きだ。お前もそうは思わないか?アリス。 ――――どうしよう。 ――――多分、火村はそんなふうに思った事なんて無いんやろうな…。 ―――― 〃どうしよう〃……って、火村を好きになりかけていると気づいた時、おれはそう思った。そんな感情を抱く相手ではないと、そう思いこもうとしていた。 ――――それはあかん。許されへんことや。 ――――駄目やって判ってるのに、想いだけが溢れ出してくるばかりで。 ――――火村の事を考えただけで、眠れなくなってしまう。 ――――一緒にいたい。声が聴きたい。護ってやりたい。優しくしてくれ。 ――――本当の意味での〃切なさ〃というものを、初めて知った様に思うんや。 ――――悔しいけど、涙が出てくるんや。切なくて苦しくて。…でも、嬉しくて。 ――――それは、こんな風になるもっと前の事やったけど、それでも、火村は何時もおれの傍にいた。確かに餓えている部分が徐々に増えて行く日々の中で、それやのにどうしても満たされていく部分が自分の中に在った。 ――――愛とか恋とかやなく、それでも、火村は傍にいる。それだけで、幸せな気分になれるんや。自分の想いを告げられなかったあの頃のもどかしさや苛立とはまるで別の部分で感じる感情なんや。 ――――でも、そういうのが一番厄介だってことも、おれは気づいてたんや。 ――――満たされてしまっては、あかんのや。 ――――餓えて飢えて、初めて生まれるものってのも、在るんや。この世の中には……。 ――――おれにとってのそれっていうのは、まさしく創作意欲ってヤツや。 ――――おれの内には欠けてる部分が在って、おれは多分…そういう欠けた箇所を埋める為に、小説を書いてると思うんや。……自分の事なんやけど、ほんまは上手く判ってへんけど……。 ――――きっと、そうなんやと思う。それは、〃満たされ〃てしまってはでけんことなんや。 ――――傍ににるってのは絶対的に必要なそれやけど、在り過ぎてはいかんものなんや。それが在り過ぎると、後はどうでも良くなってしまう。それだけで、何もいらんようになってしまう。……そう云うのは、あかんねん。満たされ過ぎてはあかんもんが、〃愛〃やと思う。 ……俺には、判らない理屈だな。 ――――それは、君がおれといても、ずっと満たされず餓えているからやろう……? → BACK to INDEX → NEXT → BACK |