第7章 ある種の愁いが加味された露天風呂 10時にチェックアウトした後、川治湯本駅に向かった。(勿論徒歩である。)そして駅へ向かう途中、鬼怒川の支流である男鹿川の川岸に露天風呂が有ると言う事で、又年寄り3人は行ってみる事にした。(小暮が時刻表の見方を誤った所為で次の電車が来るまで1時間位かかったのだ。)男鹿川の川岸と言う事で、情緒溢れる世界を勝手に想像しつつ、
「川の瀬音を聞きながら、優雅に朝風呂と洒落込もうじゃないの。」
とブルジョワジーの気分で血気盛んに風呂へと向かった。
しかし現実は僕達に優しくなかった。ここら辺は一大露天風呂の施設を作るらしく、見渡すとショベルカーが所々で工事をしており、静謐、森閑、瀟洒とは全くかけ離れた所であった。
「全然くつろげん。」
と言った感じの所であった。しかも自然を強調しているらしく、露わになった岩肌が座り心地を悪くしている。僕はその身体に優しくない岩肌に腰を打って、一人悶え苦しんでいた。(ど不幸過ぎる。)
しかも客の中に昨日邂逅された板前のおっさんがいらっしゃる。
「なんだか朝食の時も会ったし、僕等とこのおっさん、行動パターンが似過ぎていないか。」
とマサルさんと話し合った。形而上学的観点からは、僕達とこのおっさんは同一の存在者として認識される事であろう。将来はこのおっさんみたいに旅行して、変な話を聞かせているのではないかと想像すると、僕の前途には暗雲が経ち込んで憂鬱になって来た。
更に他の客を見渡してみると、
「あれっ・・・・・・・…何かあの人・・・・・・・・・…。」
「・・・・・・…女だ。」
ここは男湯と書いてあったにも関わらず、何故か混浴になっているのであった。(何故だー。)言うまでも無いが入浴しているのはおじいさんおばあさんである。しかし僕達は純粋無垢(←?)な年頃(←?)の少年(←?)である。ばばあとは言え女性と一緒に風呂に入る事には抵抗感があり、行動がかなり制約された。
「全然くつろげん。」
と言った気持ちが更に高まった。昨日板前さんとの会話の中で、彼は、混浴の時には男の方が恥ずかしがるものだと言っていたが、その翌日に身を以て経験するとは思っても見なかった。(このおっさんなかなか真理を突いている。)
この艶笑小咄にもならない経験を経て、僕達はこの苛酷な露天風呂を後にした。(駅で待っていれば良かった。)駅への道すがら、野猿の群れに出会ってしまった。
BACK 著作:あむみ st53189@srv.cc.hit-u.ac.jp(99年4月30日まで)![]()
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構成:おかわん okada@virgo.higashi.hit-u.ac.jp