第4章 流星達の宴

日光を後にして、僕達は鬼怒川温泉の少し上流の川治温泉に向かった。川治温泉は男鹿川が鬼怒川に合流する付近に位置する秘湯と言った印象を受ける。山の懐に抱かれた閑静な温泉街である。しかし川治湯本駅に降りると、行人絡繹とせず、湯煙の姿もなく、雪景色もなく、一見すると単なる寒村である。心の中の旅情が崩れ落ちそうになるが、秘湯だから一瞥だけでは分からないのだと言い聞かせホテルへと向かう。
ホテルまでは駅から出ているバスを使用するのがベストらしかった。しかし日光猿軍団ならぬ日光ぼったくり軍団の毒牙に掛かった傷心の僕達は、運賃180円をケチって徒歩で行く事にした。(←こんな所でチマチマとケチるな。)なんだか大学の生協食堂で、コロッケカレー(300円)を食す予定をカレー(260円)ですます行為に似ている。(←この40円をケチって何に使うのか甚だ疑問である。こういう奴に限って飲み会では無尽蔵に飲みまくり散財していくのだ。自分の事だけど。)
そして一行は徒歩にてホテルへと向かって行った。ホテル一柳閣はこの温泉街の中でも一際豪華さに抜きんでている12階建ての建物である。しかも生協パックで宿泊料も頗る安価である。「小暮でかした」と心の中で呟いた。宿、食事、浴場のレベルを考慮すると、過去の茶道部温泉旅行の中では費用効率が良い。最上階(女子はその下の11階)の展望露天風呂から広がる風景は、正に温泉冥利に尽きる筆舌に尽くし難い物がある。漆黒の闇の中、川沿いに点在する窓明かりの様子は幻想的ですらある。あたかも川治温泉の支配者になったかの如きである。ここからはもうまったりするしかない、と言う事でチェックアウトまで合計6回の入浴のノルマを課した。(←茶道部員は何でもノルマを課すのが好きである。「茶道部員は」と一般化して欲しくないものだ。
そして風呂の後は飯である。普段の旅館とは異なり、一柳閣では食事専用の部屋を用意してくれた。まぁ、大人数ですから。ついでに言えば、97年6月に東豆館を借り切ったときも食事専用の部屋があったが、その時とは扱いが全然違う。まるで社員旅行の宴会会場の様に酒と食事が方台の上に盛られていた。何やらコンパニオンが出て来そうな雰囲気であったが、出て来た人は仲居さんの東久保さんと言うおばさんであった。(きちんと挨拶をしてくれたのだが、こう言う雰囲気に慣れていないので、どことなく落ち着けなくて嫌だった。偉くなって来ると次第に慣れる物なのだろうか。)しかし正に上げ膳に据え膳と言った感じで旅館ライフを満喫した。
そして飯の後は風呂である。(またかよ。)今度は2階にある露天風呂に行ってみた。行って見ると先に入浴していたマサルさんともう一人ワイルドなおっさんが居た。彼は板前さんらしく、年に数回はこう言った旅行をしているとの話である。そして(こちらから頼んでいないのに)彼の過去の旅行の体験談である混浴風呂の話や覗きの話を延々と僕達に聞かせてくれた。
「何なんだ、このおっさんは。」
と思いつつ湯船で暖まる。と言うよりは熱過ぎる。雪が降っている時は、雪を湯船に入れる事によって適温になるらしい。ここ川治湯本周辺は、壇ノ浦の戦いに敗れた平家一族残党の落人の里である。歴史の襞に苦しみの日々を生きた平家の落人に思いを馳せると、湯の熱さが殊の外身に沁みてくる。しかもおっさんのトークがこの熱さに拍車をかけている。ここの露天風呂は熱過ぎるので、再び最上階の展望風呂に入りまったりとする。変なおっさんも居ないし。
そして風呂の後は酒である。この様に風呂→飯→風呂→酒と、欲望の限りを尽くしていた。ここまでは。・・・…ここからは・・・…何が・・・…

 

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著作:あむみ  st53189@srv.cc.hit-u.ac.jp(99年4月30日まで)
構成:おかわん okada@virgo.higashi.hit-u.ac.jp