第2章 浅草ハイテンションボーイズ

先行組は浅草まで行き駅周辺のロッテリアで朝食を取りながら遅刻組を待つ事になった。少し経ち岡Tさんが現れ、数分後にマサルさんと遠藤がやって来た。ビリの二人は岡Tさんよりも遅刻した事に対して、頗る自尊心を傷つけられていた。(僕も水上温泉の件で彼等に似た感情を覚えたので、その気持ちはよく分かる。)おかわんってどういう扱いをされてるんだ!
日光行きの電車に9時10分に乗車する予定であったが、この「マッサーが飲み会を潰した為に遅れてしまった事件」(正木サイドからすれば単なる遅刻)の為、1時間電車を遅らせる事にした。30分も無駄に待たず、遅刻組を起こすのがもう15分早ければ当初予定の電車に乗れていただろう。かく言う理由により、空き時間が出来てしまった。折角浅草に来たからには、浅草見物をしようと言うことで、僕とマサルさんと遠藤は浅草寺、雷門、仲見世通りの方へと赴いた。
まずは今回もメモリアルフォトグラフを撮ろうという欲望を以て、仲見世通りの写真屋でカメラを買う。スタンダードな富士フィルムのカメラを買おうと思ったら、写真屋のおやじが訝しげに僕を一瞥した後、突如怒りだした。どうやらインスタントカメラの本家はコダックらしくて富士はその贋作だそうだ。コダックのカメラを買えと説教される事3分間、僕は我慢の人となり固唾を飲み耐えまくっていた。(不幸だ。)結局コダックの「ピカ撮りカメラ」と言う訳分からん物を買わされてしまった。(そんなら富士フィルムのカメラを置くなっつーの。さすが浅草だ。)
気を取り直して記念撮影をしようと言う事で雷門へと向かった。雷門は流石観光のメッカだけあり、修学旅行の高校生が沢山いた。僕達も彼達に混ざって記念撮影しようとしたが、
「何かエキセントリックな事がしたいっ。」
と言う願望が脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消え、浮かんでは消えなくなった。そこで真冬の浅草の中、凛々たる勇姿を高校生に見せつけようじゃないの、とTシャツ姿で記念撮影をする事にした。僕と遠藤はTシャツ姿でマサルさんに写真を撮って貰った。僕達が着ていたコートは何処へ行ったのか。一方が儲ければ他方が損をする。このトレードオフの世界に於いては、ゼロサムの法則が成立する。この時も又然りである。つまり一方が薄着になれば他方が厚着になるのである。僕達の着ていたコートはマサルさんが全て着てくれた。(かなり丸かった。)その後彼は達磨と呼ばれる様になった。
このTシャツ効果は思わぬ所で功を奏し、仲見世通りの人々に、
「おにーちゃん、元気だねー、寒くないのかい。」
と、声を掛けられ地元の人達とコミュニケーションを図ることが出来た。(しかしその言葉しか掛けられなかったが。)因みに達磨効果は微塵も現れず仕舞であった。(恐らく不気味だったのであろう。)
僕はこの時前橋高校のTシャツを着ていた。(←まだ持っていたんかよ。)遠藤も偶然麻布高校のTシャツを着ていた。同じ高校Tシャツの同胞がいると言う事で、気分は既に高校生であった。他の修学旅行の高校生に負けてたまるかと、
「押忍。自分前橋高校の番張ってます、堤言います。そこんとこ夜露死苦。」
「押忍。同じく自分麻布高校の番張っています、遠藤言います。そこんとこ夜露死苦。」
「おう、これから浅草の高校生でメンチ切って来る奴、片っ端からシメてくぜ。」
「おい、達磨。(←パシリ)ジュース買って来い。」
と言った気分で、修学旅行生も今時買わないだろうと思われる、闘魂と書かれた鉢巻きを購入した。そして相当無茶なユーモアを振りまきながら仲見世通りを闊歩していた。(無論誰もが気味悪がってメンチを切って来なかった。)
「おう、遠藤。ここらにゃ俺達の敵になる奴はいねーよーだぜ。」
「そうすねー。もっと気合い入ったバイオレンスな奴はいねーすかねー、兄貴。」
「おい、あそこにスリリングな奴等がいるみてーだぜ、行ってみんべー。」
そして僕達は鳩が集まっている所へと向かった。浅草寺の境内には、靖国神社や鶴ヶ丘八幡宮と同様に、数多の鳩が点在していた。そして鳩寄せをしようと、僕は餌を購入した。浅草寺の鳩は相当バイオレンスな奴達で、僕が餌を持っていると判断するや否や徒党を組んで突進してきた。そして僕の腕の上で餌を争いバトルをし始めた。(この時Tシャツであった為、僕の腕は傷だらけになってしまった。)この嫌過ぎる鳩の仕打ちに辟易した事と、日光行きの電車の出発時刻が迫っていた事もあり、僕達は浅草を後にした。
「愚零闘(Great)だぜ。今日の所はまあ初めてと言う事で勘弁しておくか。」
そして番長2人、達磨1人は、浅草駅へと消えて行った。

 

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著作:あむみ  st53189@srv.cc.hit-u.ac.jp(99年4月30日まで)
構成:おかわん okada@virgo.higashi.hit-u.ac.jp