あれやこれや

2010年11月09日
新演出の提案(フィガロの結婚3)


二回続けてオペラ鑑賞に名を借りて内輪話を書いてしまいました.後から読んでみ
ると,お恥ずかしい限り.反省です.

この定番オペラ.演出には何か新しいモノを出さないと批評家から酷評される.とは
言ってもドイツで行われているような奇妙奇天烈なのは新国立劇場の名誉にかけて
やりたくない.今回の演出くらいが丁度良い落としどころか.ほとんど白と黒だけ.セ
ットも衣装も.何の意味があるのか分かりませんが,確かにけばけばしいよりは余
程宜しい.衣装は白黒とはいえそれなりでしたが,セットは単純そのもの.同じ舞台
の使い回しで,白い部屋の壁以外は沢山の白塗りの段ボール箱,それに人が入れ
る大型の衣装タンス(これも白塗り).そのタンスが別の場面では隣部屋としても庭
の小屋としても扱われるのです.余りに安直な.昨年のアイーダで資金を使い過ぎ
たので,予算を余程切り詰められたのでしょう.ま,でも一応何をやっているかは分
かりますし,そういうのもアリなんでしょう.かの有名なスイスのチューリヒ歌劇場の
パクリ演出のような気もしないではありませんが.

今回の演出の効果は上記の通り予算の節約もありますが,以前書いた様に,詰ま
らない演出ほど歌手は張り切る(2010.01.07 俄評論家誕生)という拙ページを読んで
演出家が活用したに違いありません(でも挨拶が無い).歌手達は演劇よりも歌に専
念して目一杯ワールドクラスの声を聴かせてくれました.本当に歌が素晴らしかった
のです.オペラにもホールオペラという型式があります.更には演奏会形式というの
もあります.僅かなセットだけ使うのがホールオペラで,全くセットを使わず,歌手達
は表情の変化と小さい動きのみで,単に立ったままオーケストラをバックに歌うのが
演奏会形式.演劇ではなくオペラを文字通り音楽として捉えた演奏ですね.これらと
クラシックな道具立ての本格的なモノとの中間点を狙ったのでしょう.その意味で歌
の出来映えに示される通りの大成功でした.だからケチを付けている様に見えるか
も知れませんがそんなことはありません.フィガロ初心者を除けば素晴らしい演出だ
ったと言えます.でも,ケチを付けたい.

“フィガロの結婚”は世の中の全オペラの中で,“カルメン”,“椿姫”と共に初心者向
きオペラの代表です.そして,今回の観客の4分の1位の方はオペラ初心者ではな
かったかと思います.“フィガロの結婚”をテレビやDVDを含め100回は見ている私で
も誰が誰だか混乱する程でしたので,彼らにはさっぱり訳が分からなかったのでは
ないでしょうか.タダでさえパターン認識力のない,つまり顔だけで外国人を区別す
ることが難しい私には,配役の判別には衣装の色と男女の違い程度しか手段はあ
りません.この演出ではその貴重な判断基準の半分がキャンセルされてしまってい
るのです.主役級の大勢居る,しかも変装したり入れ替わったりの激しいこの作品
で誰が誰だか分からなくなるのは無理からぬコトとは思いませんか.そこで私は提
案します.折角ここまで簡素化するのならもう一歩,“衣装にゼッケンを付けろ”と.
そして,フィガロには“フィ”,アルマヴィーヴァには“アル”などと背中とお腹に表示し
ていただきたい.この提案,意匠登録したいのですが.







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