あれやこれや

2010年12月01日
美しさが主人公(ラインの黄金4)


今回のメンバーは流石に世界のメトロポリタン歌劇場が集めただけに素晴らしい陣
容でした.中でも目に付いたのが愛と美の女神フライア.何ともチャーミングだった
ので文字通り目に付いたのです.ところがなんです.案内にもパンフレットにもこの
歌手の名前が書いてない.こんな失礼な話はありません.

主神ヴォータンは野望の象徴ヴァルハラ城を巨人族に造らせるのですが,その対価
は義理の妹フライア.飛んでもない契約をしたものです.フライアは神々の永遠の若
さを保つ魔法のリンゴを育てる役割だったのです.そのフライアが巨人族に質として
取り上げられてしまっては神様も万事休す.見ている我々も神々に成り代わって何
とかフライアを助けてあげたい.ヴォータンのためではなくフライアが可哀想だから.
そう思わせる可愛いフライアだったのでした.神々はフライアが居なくなったことでガ
ックリと力が抜け崩壊状態.で,ヴォータンと入れ知恵をした火の神ローゲが責任を
取ってフライアの代償として所有者に全能の力を与える“黄金の指環”を巨人に差し
出すべく,指環の製造者の地底の小人族アルベリッヒから強奪しに地底に降り立つ
という展開.

ところで,オペラの配役は難しい.姿形だけではなく歌が上手いという絶対条件があ
ります.音楽ですので大抵は歌重視.それだけに,“やめてくれよ”と言いたい配役
に出会うこともしばしば.例えば“椿姫”は肺結核で最期を遂げる訳ですが,ヴィオレ
ッタ役の歌手の余りの立派な体格に失笑を買って散々の失敗だったのが処女公演
だったとか.以来ヴェルディは自分の許可した歌手以外の上演を禁じたという話が
残っている程です.また,ちょっと毛色は違いますが,“サロメ”の中で予言者ヨカナ
ーンに向かってサロメが“あなたの肌は何て白くて美しいの”と言うシーンがあります
が,この時ヨカナーン役を黒人の歌手がやっていたことがあります.勿論,劇なので
観客もそういう物と捉え,何の問題もないはずなのですが,やはり違和感があった
のを覚えています.

美しい姫様がさらわれてそれをヒーローが助けに行く.日本の時代劇などでもお決
まりのパターン.この時,姫様が美しくてか弱いことが絶対条件.何故なら観客をソ
ノ気にさせることが作品の成功条件です.“ま,アレなら助けなくても何とか・・・”と思
わせてしまっては話が成り立ちません.“何とかして上げなくちゃ可哀想”と思わせて
くれなくてはね.昔観た“魔笛”における可憐なアンドレア・ロストの演じたパミーナ姫
はその最たるもの.私は俄タミーノ王子(パミーナの彼氏)になってしまいました.

で,今回の上演でもフライアが美しかったからこそ巨人達は敵役(かたきやく)だしヴ
ォータンの狡さも引き立つというもの.フライアの姿が筋書きを補填していたのです.
今回に限ってはフライアは端役ではなく陰の主人公だったのです.





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