あれやこれや

2007年03月01日
イオンの話


昨日“塩素イオン”,“塩化物イオン”についてちょっとふれたので思い出したことがあ
ります.今日のは昨日ほど厄介な話ではない・・・つもりです.

“イオ○私は美しい”という本当に美しい画面での思わせぶりな化粧品のコマーシャ
ルがありました.大昔から“イオン”商法はあったのです.イオンという日常ではない
さも専門的な雰囲気をたたえた言葉を利用する悪徳商法.昨今のマイナスイオンな
る詐欺まがいはやっとナリを潜めましたが,この悪徳商法で儲けた人達は皆殆ど詐
欺師と変わらないのに逮捕されたなんて話は余り聞きません.どうなっているのでし
ょうか.なお,マイナスイオンというものはありません.文字通り瞬間的に負の電荷を
持った気体のイオンが生成することは勿論ありますし空気中の水分に硝酸塩などの
負のイオンがとけ込むことは普通に考えられます.でもこれらは“マイナスイオン”と
いうものではありません.それに,こんなのなら健康に良い訳ないものね.だからマ
イナスイオン・・・という商品は少なくともその点についてだけは全てまやかしと言えま
す.

正確には不明(資料を探すのがバカらしいので)ですが,20年位前のことだったと思
います.たまたま空気浄化剤関係の資料を得る目的で空気の浄化に関する学会を
覗きに行った時の話です.多くの参加者は私のようなやじうまレベルですが,何分の
1かはそれ相応の研究者もいたはず.少なくとも発表者や質問者はそれなりの研究
機関の歴とした偉そうなおじさん達でした.つまりは見かけだけはそこそこの格式の
ある学会というわけです.でも学会にしてはちょっと違和感が.何かが違う.いかに
も素人的なのです.平気で“気体のイオン”の話が出てくるのです.化学畑の私とし
ては余程質問をしようかと思いましたが,この場ではさも普通の話題のごとく余りに
も当たり前に論じられているので,恥をかきたくないという消極的理由で差し控えま
した.後から思えば正解でした.ここで“気体中のイオンって何なんですか”などとい
う真っ当な質問をしたら袋叩きだったかも知れません.我々が呼吸をしているような
普通の環境中に“気体のイオン”が測定できるほど存在するなんてこと自体,問題に
ならないほど非常識な話なのですが,当たり前のように論じているこの人達は既に
(オカルト)宗教の域に入っていたような気がします.そしてこの人達に引きずられて
その後のマイナスイオン商法が成り立ったのではないかと考えてしまいます.ですか
ら結構根が深い.

その後,20年も経っているので彼らはそれぞれの企業や研究部門でリーダー的役
割を果たしていることでしょう.驚くべきことですが日本化学会の啓蒙的機関誌“化
学と教育”誌にも当然のごとく,さもマイナスイオンがあるかのような記事が掲載され
たことがありました.その後訂正されたかどうかは知りませんが,化学の総本山がこ
れでは恥ずかしい限りですね.こんなことですので,強く反論されないで商品化され
てしまう → 非技術系の人達にヨイショされる → 騙されやすい消費者に売れる.
マイナスイオンブームは非自覚のオカルト宗教家,詐欺師,無知の儲け主義者(こ
の人達はある意味で真っ当),言いなりになり抵抗できないあるいは良心と命令の
板挟みに悩む技術者,自分の判断を持たない消費者,・・・こういった人達によって
止めるチャンスを失った,全く恥ずかしいブームだったのです.この中で2番目の詐
欺師だけは悪意があるわけですので処罰されねばなりません.儲けるだけ儲けては
いさようならというのは許し難い.

なお今朝の新聞の折り込みチラシにまだマイナスイオン・・・なる商品の広告が出て
いました.この根の深い嘘の払拭にはまだまだ時間がかかりそうです.因みに,今
回のマイナスイオンブームのきっかけもあの“あるある・・・”だったそうです.





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