あれやこれや

2007年04月25日
光らなければフルートではない(フルート4)


オーケストラの中でもキラキラと光って一際目立つ美しいフルートが実は木管楽器で
あることは小学校でも習うのでご存じですよね.でも,今のフルートの標準的材質は
木ではありません.最も普通に使われるのは銀,次いで金.本数から言えば洋銀の
ものが最も多いのでしょうが,出来の良い洋銀製の楽器は稀少なので一応除外.あ
と数は多くはありませんが白金製も.かの紛失騒ぎ(フルートの価格 2006.4.28)の2
本の内1本は白金製だったそうです.それと本来の木製も僅かではありますが使う
人もいます.

私の使っているのは学生時代から40年間も愛用している洋銀製の学習用クラスで,
伝説的フルート製作者M氏の元で研鑽した技術者が作ったS社(タイマーのS社では
ない)製のものです.何度もオーバーホールをしましたが40年間の酷使に耐えて来
た素晴らしい楽器です.音色は趣味の問題なので異論はあるでしょうが,手に馴染
んだこの楽器の硬く輝かしい音が私には実に好ましいのです.購入当時,創立間も
ないS社としてはこのような学習用の安価なフルートに対しても本気になって取り組
んで,手抜きのない良い物を作ったということなのだと思います.フルート界の神様
的存在であるモイーズという人も洋銀の楽器を愛用していたことは有名です.価格
の安い洋銀製だから音が悪いということではないのです.一方,モイーズの後継者
ランパルは“黄金のフルートを吹く男”として知られていました.今や学生でも金の楽
器を使う時代ですが,当時は金のフルートと言えばランパルの専売特許.なお,前
に書いた通り普通の金のフルートの価格はコンサートサイズのグランドピアノ並みで
す.グランドピアノはアップライトピアノとはメカニズムが違うので,高価であってもそ
れなりの意味があるのですが,メカニズムが決まっているフルートにそれ程の価値
があるのかどうかは疑わしいものです.でも,専門家が自分の商売道具として使う
のなら,数百万円というのは金額の絶対値としては高価過ぎるとは言えません.名
画的価格の弦楽器と比べれば安いものです.他に,キンケードという人はこの時代
から白金のフルートを使っていたそうです.

プロならば看板の意味もあるでしょうし,それなりの楽器を使うのは当然のことです.
ただし,騙されてはいけません.前に書いた通り金や白金の楽器には不当な高価格
が付けられているのです.因みにフルートの重さを400gとすると,地金の価格は,銀:
25000円,金:100万円,白金:200万円位ですので,これに加工賃と儲け50万円をプラ
スして,銀製:50万円,純金製:150万円,白金製:250万円といったところが妥当なもの
ではないでしょうか.でも,この件は今日の論点ではありません.それよりずっと重
要なこと.意外に思われるかも知れませんが,“材質を変えても音色は変わらない”
ということが今日のポイント.材質が違えば比重や硬さが違うので完全に同じ形体に
はなりません.だから結果として音色が違うのは当然です.でも,完全に同じ形な
ら,どんな材質で出来た楽器でも同じ音がする理屈です.笛の音は単に空気の振動
なので(気鳴楽器),管体はただその振動する空気を入れる容器に過ぎません.弦
が振動するのでもなく筐体に共鳴するのでもありません.トーンホールの開け方や
形,管体内側の表面仕上げ,それ以上にマウスピースの形は音色をある程度左右
するでしょうが,材質が何であるかを音は“知りません”.高額な楽器は良い音が出
るとすれば(私も楽器店で色々試奏させて貰って実感しています)それは単に作りが
丁寧だということ以外に考えられません.その証拠に材質の違いよりメーカーの違
いの差の方がずっと大きいのです.例えばS社のものは大きい音は出ないけれども
洋銀の楽器でも金の楽器でもとても輝かしい音がしますし,M社のものは例え安物
でも素晴らしく大きい音が出ます.楽器の音は主に管の形(設計)の問題なのです.
金で作る時はメーカーだって一生懸命作るはずです.金のフルートにバリが残って
いるようじゃ信用を一遍に失ってしまいますよね.だから高い楽器は出来が良い.そ
の結果音も良い.というだけのことだと思います.

プラスティックなら設計通りの形に作れるはずです.トーンホールは円形に決まって
いますが本当にそれで良いのでしょうか? 私は長方形の方が自然だと思うのです
が,従来技術で長方形の穴を開けるのは難しかったので,そういう楽器がないのか
も知れません.各メーカーは色々研究して,プラスティック製ならではの理想フルート
を安価で量産して貰いたいものだと思います.それと,前にも書きましたがトーンホ
ールとフタのとの密着性はゆるがせに出来ませんので,タンポ(パッド)の材質の研
究(45年目の新発見 2007.2.16)も大切です.出来ればこれも全く別の機構が望まし
いところです.トーンホールが長方形のプラスティックフルートの量産.これこそが現
代の楽器メーカーの責務です.

とは言っても,フルートが木管でもない,もちろん金管でもない,見るからに安っぽい
“樹脂管”の時代になったら,美しくもないこんな楽器を吹いてみようと思う人は誰も
居なくなってしまいますね.少なくともオーケストラの中でキラキラ光っていなければ
私はフルートなどやらなかったはずです.結論:見てくれが一番.キラキラ光らなけ
ればフルートではない.






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