
あれやこれや
大森に住んでいた昭和30年代の内4年間位は岩市荘というアパート住まいでした.
今ならマンションと言うかも知れませんが,実態は立派にアパート.ただ,今でこそ
誰もが当たり前と思う水洗便所が,やや目新しいものでした.

今の岩市荘(実はこの建物ではない)
どの家も水洗便所は使い慣れない訳で,トラブルの続出にさぞや大家さんは大変だ
ったことと思われます.トイレが詰まる,水が溢れるなんて日常茶飯事.家は1階だ
ったので,上の3フロア分のミスの多くは当家にも被害が出ます.土管の隙間から溢
れてきたり・・・なんて今思い出してもゾッとします.
で,大家さんはトラブルの度に呼び出され,簡単なメンテは面倒を見なければなりま
せん.お気の毒なことでした.暫くして持ってきたものは水洗便所の使い方を書いた
パンフレット.これをトイレでの日常作業中に見えるところに張って下さいという訳で
す.当時はこんなものも必要だったんです.
それともう一つ,印象に残っているのは,これはトラブルには関係ないものと思いま
すが,しゃがんだ時に丁度目の前の壁の胸の高さ位の所に頼みもしないのに鉄パ
イプを取り付けていったこと.この意味はいつまで経っても理解できませんでした.
大して邪魔でもありませんが,何のためにわざわざ?こんな物をつかんで力めという
ことか?
最近実家に行くと最年少の私でも間もなく還暦という高年齢層集団.トイレや風呂場
は手すりだらけ.手すりというのは立ち上がる時に“どっこいしょ”とか“よっこらしょ”
などと自然に声が出るこの年になって,初めて有り難みがしみじみと分かります.
“そうか,これだったんだ”,幼い頃からの疑問がまた一つ解決しました.大家さんは
優しい人だったんです.きっとご老人を抱えていたのかも知れません.あのアパート
に住む老人は皆この大家さんに感謝していたことでしょう.
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