
あれやこれや
たまたま手にした文献に20年も昔の私の仕事が引用されていました.技術者,研究
者にとっての檜舞台は仕事内容を学会(誌)に公開すること.そしてその価値はその
後の検証と引用された回数によって概ね評価されます.つまり幾ら本人が得意にな
っても,誰も見向きもしてくれなければ世間的には無価値と評価されてしまったとも
言えます.ただ,企業の技術者にとって,報告は必ずしもアカデミックなものを目差し
ているわけではなく,現実的には特許の裏打ちとか,業務(から導き出される製品)
の権威付け等,何らかの営利に基づいた目的もあるのはやむを得ません.この仕
事も,“我々の会社は極微量のウランを正しく測定できる能力があるんだよ,だから
我々の製品を買ってね”という世間へのアッピールの意味が大きかったのです.勿
論,学会発表ですから,専門家の批判に耐えうる技術的,学問的内容がなければな
りません.機器分析法が未開拓の当時にあって,分析法の確立していなかった半導
体材料中の極微量放射性物質のコントロールはこの分野の一大テーマだったので
す.この仕事もその流れの一つでした.数年後,ICP質量分析法という手段が確立さ
れ,このテーマの悩みはなくなったと思っていたのですが,今でも取り上げてくれる
人が居たのは嬉しい限りです.
さて,本題.ここで引用された報告は三重県の鳥羽で開催された学会で口頭講演し
たものです.この鳥羽講演会には印象深いことがいくつかあったので良く覚えていま
す.学会というのは当然,学問探究の場ですが,空き時間を利用した観光ができる
ようにレイアウトされることが多いのです.なんと言っても私にとって嬉しいのは近く
に鳥羽水族館があること.水族館としての展示もさることながら,イルカやアシカの
芸のレベルの高さには驚くべきものがありました.また,御木本幸吉の伝記や真珠
養殖の工程が見られる真珠博物館も感動モノ.でも,極め付けは学会にあるまじき
懇親会でした.
常識的に言っても,学会の懇親会は通常は立食.当然,私もそのつもりで参加した
わけですが,通されたのは大座敷.ずらりと並んだ座卓にはエビカニのてんこ盛り.
やはり何と言ってもここは鳥羽です.この時の写真がないので“佐渡の黒牛(2006.5.
14)”の写真を再掲します.まあ,似たようなものでしょう(怖いのでよく見ていない).

鳥羽料理のイメージ(佐渡の黒牛から再掲)
こりゃ困った.私を見つけた顔見知りの装置業者のおじさんが,早速目の前に座っ
てしまいましたので,簡単には逃げ出せません.それより異様なのは,廊下に整列
したお姉さん(コンパニオン)たち.“え,そんなのあり? 聞いてないよ”参加者数と
同数位のコンパニオン大攻勢なのです.そして,ぞろぞろと部屋に入るなり参加者
達の間に割り込んできました.コンパニオン付き学会懇親会.当時の分析化学会会
長か事務局の好みなのか,地元飲み屋組合のサービスなのか.お姉さん達も自分
の店への勧誘しきり“センセ,今晩どおっ?”.参加者はみんなセンセです.私も装
置業者のおじさんも.そのおじさん,私への装置の売り込みのつもりだったはずなん
ですが,そんな話はさっさと忘れて,興味の中心はお姉さんとの商談の方へ.エビカ
ニ以上に女性が苦手な私は,“私が持ちますから行きましょうよ”というおじさんの勧
誘も振り切ってそそくさと引き上げた散々の懇親会でした(僅かな嘘が混じってま
す).
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