あれやこれや

2007年12月05日
世界レベルのカルメン(カルメン3)


この春,新国立で聴いた“運命の力”(ヴェルディ)のオーケストラは東京交響楽団で
したが,今回は東京フィルハーモニー.こちらも演奏は見事.どうしてこんなに日本
の楽団は上手くなっちゃったんだろうかと思いました.大昔,未だ独身貴族だった頃
は良く,都内の色々な交響楽団のコンサートに行きましたが,ハッキリ言って腕前は
信用していませんでした.目的は音楽そのもの,演奏の質を聴きに行く訳ではない
のですから細かいことは気にしないという“黒子”的聴き方が必要だったのです.そ
れから約30年.想像も出来ないほどの上達です.研鑽を重ねた日本の器楽奏者達
は偉い.特に金管楽器のレベルアップは大変なものだと思いました.前(2006.12.1 
アイーダトランペット)と同じことを書きますが,特にオペラはオーケストラが完璧でな
いと気が気じゃありません.でも,もうこんなことは思考の外に追いやって良いことが
分かりました.今回も実は何カ所か心配なところがあったのですが,楽団の名手達
には大変失礼な心配であったことが分かりました.

もう一つ感心したのは子供達が合唱する場面.英国ロイヤル歌劇場のカルメンに出
てきた子供達は如何にも悪ガキといった演出でこれはこれで感心しましたが,今回
の子供達は逆に実に統制がとれて合唱が立派.実は私はこのガキの出てくる部分
は,うるさいだけなので好きではなかったのですが,今回のは違いました.この演奏
を聴いてビゼーさんがこの場面を入れた意味を理解しました.

カルメンの(前回書いたわぁがまま者の見処ではなく)本当の見処の一つは闘牛士
の登場場面.闘牛士はカルメンやホセ以上のスターです.ただ立っているだけで人
目を引く見てくれの立派なテジエの存在感,見事なパフォーマンスを見せてくれたレ
イミーの闘牛士も流石でしたが,今回の闘牛士は彼らとは全く違う優男(やさおと
こ).案外これが原作のイメージ通りだったのかも知れません.そっと横を見たら面
食いが売り物のモモママは双眼鏡(オペラグラスではない)で闘牛士に釘付けになっ
ていました.この闘牛士,若いだけあって身のこなしも素早い.まあ,これだけ歌の
上手い人は運動神経も並外れたモノを持ち合わせているのでしょう.歌いながら,
1m以上もありそうな机の上から飛び降りたのには驚かされました.確かに大抵の演
出にもこんな場面はあるのですが,今回の高さは新記録でしょう.歌が乱れないよう
にタイミングを合わせて何度も何度も練習したんでしょうね.なお,テジエならきっと1
回で捻挫か骨折?

それと,本当の,それこそ本当の見所.最後の場面(情けないホセと毅然としたカル
メンとのやりとり)はこれ以上ない程迫真の演技でした.

ということで,大スターの出ないカルメンでしたので,口先評論家と知ったかぶりの素
人俄評論家は安心して(?)何くれと,特に“演出に新味がない”などと恥ずかし気も
なく恥ずかしい文句を付けるに違いありませんが,私はこれぞ日本の誇る新国立の
カルメンだと感じた次第です.






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