旧型国電クモハ42〜小野田線・本山支線をゆく-1


早朝の宇部新川駅に停車中のクモハ42

早朝の宇部新川駅で出発を待つ
クモハ42。
夜を越えクモハ42に逢いに行く
 クモハ42は鉄道省が開発し、1933(昭和8)年から翌年にかけて計13両が製造された。私鉄との競争が激しい京阪神地区に投入され、急行(今の新快速相当)が大阪-三宮間を24分で駆け抜けたという。だが、どんどんと新型車両が登場すると、クモハ42はいつしか「旧型国電」と呼ばれるようになった。

 宇部地区には1957(昭和32)年に001、005、006の3両が転属して宇部線、小野田線に投入された。だが005は1987(昭和62)年に、006は2000(平成12)年11月に廃車になり、現在はトップナンバーの001だけが残っている。クモハ42 001はJR最古の現役電車で、小野田線本山支線を中心に細々と走っている。

 最古の電車という事と、レトロな風貌で鉄道ファンには大変人気のある列車で、私もいつか乗りに行きたいと思っていた。また、あまりの古さのため、いつ廃車になってもおかしくないという不安もあり、無くなる前に乗っておきたいという気持ちもあった。ようやく乗りに行く機会を作り、青春18きっぷを手に西に旅立った。

 京都から夜行快速列車ムーンライト九州に乗り、翌朝5時に厚狭駅に降り立った。1時間程時間を潰し、山陽本線上り始発列車に乗って宇部で降り、宇部線小郡行きの列車に乗換え宇部新川を目指した。クモハ42は小野田線、本山支線の雀田-長門本山の2.3kmをメインに運行されているが、出入庫のため、始発の長門本山行き、最終の長門本山発は宇部新川発着になっている。

 宇部新川が近付くにつれ、クモハ42に出逢えると思うと、気分が高まっていく。しかし、それと同時に、もしかしたら他の車両が代車で入っているかもいう不安もよぎる。クモハ42は1両だけになってしまったので、故障、検査等で運用に入れないと、必然的に他形式の車両が代車が入る事になるからだ。遠くまで来て、そんな不運な目に遭ってしまったら目も当てられないと思いつつ、クモハ42に出逢える事を祈った。

 宇部新川駅に列車が滑り込んだが、他の形式の車両が見えるだけで、肝心のクモハ42の姿が見当たらない!半ば失望していると、4番ホームのやや隅の跨線橋横で、しっかりとクモハ42は控えているのが目に入った。単行のクモハ42は数両編成の他の車両に隠れて見えなかっただけなのだ。とにかく幸運を喜んだ。

レトロな旅路
 写真でも幾度とクモハ42の姿を見てきたが、こうして目の当たりにすると、クモハ42のレトロな佇まいと、時代を生き抜いてきて身についたような風格に圧倒される。全体がフラットでなく、ごつごつとした武骨な感で、茶色の車体はクモハ42の渋さをより強調しているようだ。窓下に打ち付けられたリベットが露わなまま1本1本、1列に並ぶ様や、小さな木枠の窓が並ぶ様もまた美しい。

 車内は木材が多用されたレトロな雰囲気で、更に感嘆させられる。木の壁面は使い込まれ年月を経たくすんだ色をしているが、ニスが幾重にも染み込み、活き活きと輝くようなつやがある。木造の運転室、紐で編まれ“まさに網棚”と言える網棚、木の床など随所に古さゆえの美しさがある。多少改造はされているが、原型を良く留めているといい、まさに走る骨董品とも言える存在だ。登場から約70年になろうとしているが、未だ現役なのは頼もしい。しかし、古い車両ゆえ維持も大変だろう。にも関わらず、良好な状態を維持しておられる整備の方々には頭が下がる思いだ。

 写真を撮り終え、座席に座り出発を待った。早朝とは言え、汗ばむ暑さだ。昭和一桁生まれのこの車両に、冷房という文明の利器など無く、車内は暑さが篭る。少しでも涼しくと、木枠の窓を一番上まで上げておいた。出発時間の6時43分が迫っているが、目立つのは私のような鉄道ファンで、地元の利用者はほんの数人とかなり閑散としている。
 
サボ。リベット打ちの外観が美しい。

クモハ42型電車車体側面。
リベット打ちの外観が美しい。

 
クモハ42に取り付けられた銘版。

銘板を勲章のように車体正面に掲げる。
クモハ42 001の生まれ故郷、
日本車両株式会社の銘板も見える。

クモハ42運転室付近。最早骨董品の域!

クモハ42型運転室付近。 レトロな住宅の
中にいるような雰囲気は正に骨董品の域!
 
クモハ42のクロスシート部の座席。

クロスシート部の座席。車内はセミクロス
シートで、車端部はロングシートとなって
いる。車内は木が多用されている。

 
雀田駅で本山支線に分岐する。

雀田駅に到着。ここから本山支線
に入り長門本山を目指す。
 やがて定刻になり、長門本山に向け動き出した。それと同時に、開けておいた窓から心地良い風が車内に吹き込み、暑さを忘れさせてくれる。冷房が完備されている車両、窓が開かない、あるいは少ししか開かない車両が多くなった。思えば窓を開け沿線の空気を肌で感じる汽車旅を楽しむ機会は減っている。

 窓から吹き込む風…、そしてグイイ〜ンと床の下から唸るように響く釣り掛け音もまた心地良い。釣り掛け音と風に身を委ねるように、この列車の旅を楽しむ。

本山支線へ
 宇部市から小野田市に入り、定刻の6時57分に雀田駅に着した。数分停車するので、ホームに出て駅を観察する。小野田線と本山支線のちょうど分岐点上にあり、ホームがY字状になって、南側が本山支線専用ホームとなっている。本山支線側のホームには、小野田観光協会が設置した「クモハ42について」という看板があった。

 ちょうど通勤時間帯で駅舎で列車を待っている人は居たが、クモハ42の長門本山行きが来ても多くの人が動かなかった。どうやら小野田線の列車を待っていたようだ。本山支線は朝夕の1日5往復の列車しかなく、かなり使いづらい。そのため、クモハ42目的の鉄道ファン以外の利用者はかなり少くなってしまった。クモハ42が鉄道ファンに愛され賑わうのはいいが、どこか寂しい。

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