あれやこれや

2007年11月11日
塩酸消滅術


先日購入した,アメリカでの人気No.1ソプラノ,ルネ・フレミングの椿姫DVDを見(聴
き)ました.儚げで若く美しい主人公の設定である椿姫は特にですが,歌唱力だけで
はなくそれらしい容姿も大切なんだなとつくづく感じ入った次第です.歌唱力に関して
は評価抜群のグルベローヴァでは,最後の息を引き取る場面は“老衰“にしか見え
ません.別の意味で哀しい.その点,イメージ通りのフレミングの椿姫はそれこそ涙
無くしては見られませんでした.

ところで,椿姫中でも最も有名なアリア“ああそは彼の人か・・・花から花へ”は前半
(カヴァティーナ)と後半(カバレッタ)の対比が揺れ動く感情の起伏表現となって,聴
き所,歌手の技量の見せ所.だから,この間の僅かな(せいぜい1秒)無音の空白部
分は無茶苦茶に重要.多くの聴衆はこの感情の切り替えを歌手がどのようにこなす
のかを固唾を飲んで聴き入っているはずです.でも,舞台はヤンキーなアメリカのロ
サンゼルス.故パヴァロッティや売れっ子のネトレプコのようなお目当てが出てくるだ
けで舞台の進行にかかわらず拍手が起こる陽気な国.困ったことに,絶対的な静寂
が必要なこの瞬間に割れんばかりの拍手が来てしまったのです.そこは流石にフレ
ミング.平然と拍手が鳴り止むのを待って,おもむろに後半の“花から花へ”を歌い
出しました.その切り替えの見事なこと.長年アメリカで歌っている彼女はこんなこと
で少しも動揺を見せません.声も姿も美しく演技も完璧な満点の椿姫でした.あー,
昨年彼女は日本で椿姫を演じたはず.6万円出してでも行けば良かったと後悔して
います.どこかの演奏会では,歌手が軽く手を上げて観客の拍手を制したのを見た
こともあります.これはこれで立派でした.いずれにしても私は拍手否定派.幕間以
外は拍手禁止にしたら良いのにと思います.あるいは拍手禁止の場面はどこかにマ
ークを出すとか・・・.

さて本題.またAさん話.幾らでもあります.あらぬことに集中すると回りが消える話
(2007.11.1 やっぱ,練習しないと・・・)の続きです.Aさんの仕事は化学分析.試料を
強酸で溶解することなんか朝飯前.強酸といっても色々あります.全てが毒物,劇物
ですが最も注意が必要なのはフッ酸,次いで硫酸と硝酸.これらを扱う時はAさんと
いえども多少は気を使うはずです.フッ酸は皮膚からしみ込むんで骨を侵します.硫
酸は蒸発しないので付着に気が付かないでいると皮膚を脱水して炭化してしまいま
す.硝酸は蛋白質である皮膚と反応して,黄色く変質させてしまいます.いずれにし
ても硫酸,硝酸はやけどの原因.ところが,塩酸となるとかなり気が楽.金属腐食性
で刺激臭の強い塩化水素ガスが出るものの人への危険性は小さい.何しろ塩酸は
胃液の主成分なので怪我をして傷口がない限り皮膚に付いても大したことはありま
せん.濃塩酸でも“ちょっとピリピリするけど何か付いたのかな”という程度.Aさんに
とっては取扱はハナウタマジリもの.だから,虫歯の治療あとが気になったAさん.得
意の“周囲消滅術”で,いま手に濃塩酸の瓶を持っていることを消し去ってしまいまし
た.濃塩酸の入ったガラス瓶はニュートンの法則に従い床に.そしてあたりには濃
塩酸がブチまかれたという次第.

当然のことながら,このあとはてんやわんや.色々な問題点や危機管理方法などに
ついて考えさせられるものがありましたが,本ページの趣旨から外れますので割愛
します.

ま,500mlの塩酸一瓶と大量の水や雑巾の消費など僅かな経済的損失だけで,怪
我人も出ず大事に至らなくてメデタシメデタシではありました.それにしても,Aさんス
ゴイ.





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