国民の声と運動こそ大きな力
連帯ひろげ「増税ノー」
ノー消費税 2008.5 第202号
実施20年目 特別シンポ特集

消費税は、国家的貧困ビジネスだ」「年金や医療の充実のためにも増税はすべきでない」──。
 桜満開のおだやかな日となった四月五日、全国の会は東京都内で、消費税実施二十年目の特別企画シンポジウム「年金・社会保障と消費税を考える」を開催。全労連や中央社保協など二十団体に協賛団体になっていただき、全国から百八十人が参加しました。

医療・年金・生活経済・貧困問題の第一人者が勢ぞろい
 パネリストは、日野秀逸さん(東北大学大学院経済学研究科教授)、岩瀬達哉さん(ジャーナリスト、『年金大崩壊』著者)、暉峻淑子さん(『豊かさとは何か』著者)、湯浅誠さん(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長)、増本一彦さん(弁護士・全国の会常任世話人)のみなさん。全国の会の梅村早江子事務局長がコーデイネーターをつとめました。

「展望がつかめ元気出た」
 基調報告後のパネルデスカッションでは、イギリスの年金制度やヨーロッパ各国の大企業の社会保険料負担の話に会場から驚きの声が。 さらに、「選挙で増税を言えば、落っこちると言う雰囲気をつくっていこう」のよびかけに拍手がおこるなど、「運動の展望がわいた」(病院職員)シンポジウムとなりました。


開会あいさつ

主催者を代表して梅村早江子全国の会事務局長があいさつ

パネリスト基調報告

先進国では社会保障や医療は国と大資本の負担が常識 日野秀逸さん
 私は医学部卒で医師ですが、あとで経済に移り経済学の教員をやっています。
 日本の医療が直面している問題を見ますと、橋本内閣以来の医療構造改革によって医療機関の経営が非常に困難になる一方で、健保本人の負担が二割、三割に引き上げられ、自己負担が急増しました。
 その一方で医療費支出は、国・政府は六%減、事業主・企業負担が四%減。家計からの負担は六%増、地方自治体負担は四%増になっています。先進国では社会保障や医療は国と大資本の負担でというのが常識になっているのに、日本はこの間その逆のことをやってきた。
 さらに医師、看護師不足がいよいよ深刻です。こうした現状に対して医療費を増やさなければの声が大きくなっていますが、その財源というと消費税だとなる。国の財政は赤字ということですが、実際には国の資産は、地方を合わせて負債より四七兆円もプラスなのです。
 政府は財政赤字を理由にしていますが、決して赤字ではないのです。ヨーロッパ並みに政府と大企業が負担すれば消費税をあてなくてもよいのです。社会保険をヨーロッパ並みに企業と政府が負担をすれば充分間に合うのです。
 医療は「個人と地域を成り立たせ、次の世代を生み育てるのに必要な社会的共同業務」です。その財政は日本は、社会保険が軸になっています。@能力に応じた保険料で、A国民健保などには税で十分な補填を、B採算の取れない医療は、国立や自治体病院が請負う、などが必要です。
 いま、医療破壊に対抗して、勤務医自身が医師ユニオンをつくってストライキをする。開業医の方々の医療改善の署名運動。医療や自治体労働者の運動。市町村長、議員さんたちが住民とともに共同するなど草の根からの運動が始まっております。


委員会審議で見えてくる政府の姿勢とイギリスの年金制度 岩瀬達哉さん
 昨年、五千万件の「消えた年金」問題が出て、現在、政府は、「年金特別便」を出し、口では解決するというふうに言っております。
 しかし、私が参加している社会保険庁監視等委員会のなかで、相談窓口を充実するよう、コンピューターの貸し出しや自治体との協力を提案するのですが、彼らは本気で解決する気がないのではないかと感じます。  国民皆年金制度で五割を切っている。そうなってくると、もう社会保険料方式ではやれないということになってきて税方式、年金目的税のような消費税を入れて、この財源を確保しようという動きが出てきます。
 私は、利権の天下りを全部排除して年金制度を設計し直し、魅力のある「この制度に入りたい」という仕組みに変えれば、税方式ではなくて、社会保険料方式でやっていけるのではないかと思いますし、そうあるべきと思っています。イギリスは、所得の低い人たちが自分の老後を投げ出さないですむように、所得の低い人たちには低い保険料で、この制度に参加できるという仕組みにしています。
 自営業者の人たちというのは、やはり所得がいいときもあれば悪いときもある。そういう所得が落ちたときに、最低二千円払えば、年金の権利をずっと確保できるようになっています。
 税方式に安易に移行させない。いまの年金制度をもっとよくするというのは、やはり国民の声でしかないのですね。
 国民が声を上げていかない限り政治家は動きませんし、政治家はやはり選挙があって、選挙で落ちるのが怖いですから、国民がこの問題に対して関心を持ち続けて意見を言い続ければ、僕はそういうふうに変わっていくのではないかなと思います。



暮らしをよくするための税金 累進制度のルールを 暉峻淑子さん
 消費税の話が出てくるたびに、怒りがわき上がってきます。自分たちでやるべきことをやらないでおいて、それを消費税に押し付けてごまかしてしまおうというのが、政府のやり方です。
 昨年の参議院選挙で、民主党などが過半数を取ったのは、政府のお金の使い方がいかにめちゃくちゃかということを訴えたからだと思います。
 税金のかけ方には決まった一つのルールがあります。お金持ちからはたくさんいただく、貧困な家庭からは、ただにするか、ごくわずかの税金しかいただかない、これが累進課税の原則です。
 ところが、日本では、五〇〇〇万円以上の課税所得がある人には、以前六〇%の所得税がかかっていたのに、消費税導入と引き換えに年間所得一八〇〇万円以上は三七%しかかけられなくなった。こういう税金のかけ方を国が率先してやっています。
 二月にあいりん地区を視察しましたが、そこには貧困ビジネスという、そういう人を相手にした商売がある。お金のない人が一〇〇円のものを買っても、そこには消費税がついてきます。そういうむごい税の取り方をしておいて、お金持ちからは税金はとりませんという法律を次から次につくっている。
 こういうことを知れば知るほど、とんでもない、私たちはしっかりしなければと。選挙や新聞への投書、デモや集会、いろいろあると思います。国民がお人好しだと、いくらでも国民の懐から取り上げられていくと思います。



消費税は国家的「貧困ビジネス」だ 湯浅 誠さん
 私は、二十五歳、一〇年ちょっと前から、野宿の人たち、ホームレスと呼ばれる人たちの支援活動をやっていますが、近年、生活困窮している人たちの若年化が非常にすすんでいます。今日、来るときに、『生活保護の経済分析』という本を読みながら来たのですが、国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩さんが、世界の中で日本は一番、貧困の削減率が弱いと述べていらっしゃる。所得の再分配自体が貧困層を増やしているわけですね。
 消費税の問題というのは、そのような流れのなかの一つに位置している。消費税は、国家的な貧困ビジネスだというふうにとらえる必要があると思います。貧困状態にある人の、その貧困状態をより悪化させてしまう、くぎ付けにしてしまうものです。
 自民党のなかにも、財政タカ派と言われる人たちは社会保障費二二〇〇億円を、毎年削るというのを撤廃すべきだという意見を持っています。しかし、消費税を上げるということがセットになっています。
 しかし、消費税を上げたら、生活保護の最低生活費だって上げなければならない。なぜなら、いまの最低生活では食べていけなくなるわけですからね。支出は増えるわけですから。
 突き付けられた二者択一をいかに超えるか。われわれが自分たちの仲間内から出て、一般の人たち、あるいは、そういうふうに思っていない人たちを、どれだけ説得できるか。与党の人たち、大手の新聞や一般の人たちも含めて、どれだけ説得的な材料を持って説得して回れるかが試金石になるし、それを追求していく必要があるのではないかと思っています。

社会保障目的税の問題点 増本一彦さん
 いま消費税と社会保障、この二つの問題が厳しく、鋭く問われているのだと思います。
 私たちがごく当たり前に考えていた公平とか平等の価値観を根本的にひっくり返してしまう、力のあるものと力のないものの差が非常に激しくなってきているのではないですか。
 新自由主義などというものが大手を振って、財界・大企業は社会保障負担の社会的責任を放社会保障目的税の問題点棄しようとし、儲けた者の税金を軽く、国民に負担を重くする。
 こういう考え方を政府の最も中心の税金問題に持ち込んで「税制改革」という名でやられるわけです。税金の公平とは「能力に応じて負担する」という考えですが、それを最も反動的な税制だと攻撃するわけです。  消費税を「社会保障目的税」とすると、自民党が言ってます。企業主と労働者が半々で負担している厚生年金の場合十二兆円ぐらいになるから、これから撤退してこの分は消費税の増税でやり、納めなくてもよくなればこれを資本投下してさらに市場支配すればもっと儲けられるという、「成長重視」の税制改革をしようとしています。このようなことを許せば国民の生存権は脅かされます。
 憲法九条改悪と消費税増税は根がひとつです。社会保障目的としつつ、実は戦争目的税であることは明白です。「消費税 憲法変えれば 戦争税」。「消費税増税ノー」の声を草の根にひろげましょう。


パネルディスカッション
 基調報告に対して、ヨーロッパの年金、医療、社会保障、その中での企業負担について、質問がたくさんよせられ、デイスカッションがスタートしました。

国民の老後を支えようという 国の姿勢が違う
 岩瀬さんは、フランスやドイツ、イギリスの年金額が、現役時代の給料の六割から七割が保障されていることを紹介。
 日本との違いについて、「厚生年金の場合は、加入者と企業側が共に負担する方式は一緒だが、国民の老後を国が支えようという姿勢が非常に強い」と指摘。さらに、「もう一つは、無駄遣いを一切していないことだ」と話し、日本でも天下り官僚への給与・退職金などにメスを入れれば、厚生年金で年二万円、国民年金で年四千円アップできる、それ位のムダ使いがあると話しました。
 暉峻さんは、「ドイツは、六年で年金をもらう権利ができる」と紹介。さらに、学費ゼロや失業時、家賃、就学補助などの例を紹介しながら、生活全体を見て、国民が人間らしい暮らしを営なめる配慮が全体におこなわれていると指摘。
 資本は雪だるま式に自分をいくらでも増やしていくものであり、その経済の富を国民全体に分配するのが「政治の役割だ」として、「構造改革」政治を厳しく批判。企業献金の問題点を述べながら、「生活者の連帯、暮らしをよくするための行動を」とよびかけました。


企業と国の責任をなげすて 消費税に財源を求めるとは
 日野さんは、ヨーロッパの消費税について、「社会保障の不足を賄うために消費税を導入して増やしたというようなことではない」とその歴史を紹介。
 スウェーデンでは、「医療保険の金額の八五%を企業が負担、残りの一五%は中央政府が負担。労働者本人は負担しません」と話し、「それは、すでに働いて企業にもうけさせている。そのもうけから払うのがあたりまえだと。それから税金を納めているから、国がその分で賄う」となっていると紹介。
 「日本の企業だけが五割負担にすぎないのに、もっと減らせ、あるいはなくせと、それを消費税でと。こんな虫のいい話はない」と述べると、会場から驚きの声と拍手が沸きました。
 

ディーセントワークと連帯
 これからの運動について、湯浅さんは、「ディーセントワーク」(人間らしい労働)が大事と発言。
 「こういう社会で、希望を持って生きられるわけがない」「人間が人間らしく再生産されるような社会にしなければいけない」として、貧困の問題も消費税の問題も、行き着くところは、こういう社会でいいのかということになると話し、連帯した運動をよびかけました。
 

二ケタ税率アップをおさえてきた国民の運動
 増本さんは、運動や世論があるから、もっと早く二けた税率にしたいのをできないでいる。世論が勝っていることに確信を持って、運動をひろげようとのべました。